ミニストップは7月から「おにぎり100円」戦略に踏み切っている(写真:記者撮影)

起死回生の一手なのか。それとも、苦しまぎれの策なのか。

コンビニチェーン4位のミニストップは7月2日から、従来102円〜130円だったおにぎり16品(税抜き、以下同)を100円に値下げした。コンビニ業界で広く実施されてきた期間限定の100円セールではなく、恒久的な値下げだ。

おにぎり100円は「ゲリラ戦のようなもの」

値下げは国内の全1998店(7月末時点)で実施。各店舗の入り口には「毎日うれしいおにぎり100円」と記したのぼりやポスターが掲げられ、通行人の目を引いている。

ミニストップとは逆に、コンビニ各社は現在、原材料費や人件費の高騰を理由におにぎりなどの商品を相次ぎ値上げしている。業界首位のセブン-イレブンは2019年2月、鮭や明太子などの定番おにぎり5品を商品改良にあわせて全国で5〜10円、値上げした。ファミリーマートやローソンなども商品改良に合わせて値上げしたり、高価格帯の新商品を投入したりしている。

「おにぎり100円戦略」について、ミニストップのIR担当者は「ゲリラ戦のようなもの」と話す。業界の流れに逆らうように、いわば奇襲のような形であえて値下げに踏み切った理由は、業界のトップ3強と売上高の差が大きく開いているからにほかならない。

ミニストップの平均日販(1日当たり1店売上高)は、セブンやファミマ、ローソンと比べても低い。2019年2月期におけるミニストップの全店平均日販は41.3万円で、セブン-イレブンの65.6万円やファミリーマートの53.2万円、ローソンの53.1万円とは大きな乖離がある。

苦しい販売状況を映し、ミニストップの業績も低迷している。前2019年2月期は、売上高にあたる営業総収入が2053億円と前期比0.8%減少。営業損益は5.5億円の赤字に転落した(前期は0.1億円の黒字)。日本での売り上げが伸び悩んだうえに、ベトナム事業の不振が響いた。


大手3社を含め、コンビニ業界は客数の減少を客単価の上昇で補う状況が続く。業界トップのセブンは2019年2月期において、既存店客数が前期比0.6%減少した分を客単価の1.9%上昇で埋め合わせた。ただ、ミニストップの2019年2月期は既存店客単価が0.9%上昇したものの、平均客数が2.7%減少。客数の落ち込みが大きく、客単価上昇でカバーできなかった。

おにぎり値下げ戦略に競合他社は否定的

こうした状況を打破するために、ミニストップが打ち出したのが「おにぎり100円」戦略だ。基本商品であるおにぎりを常時100円とすることで集客を図り、サラダや揚げ物、飲み物などをあわせて購入してもらう狙いがある。

今年4月から青森県でおにぎり100円の値下げ実験を行ったところ、対象のおにぎりの販売個数は約2倍まで拡大。この結果を受けて、今回値下げを全店まで広げた。

このミニストップの販促手法について、競合他社は「おにぎりを期間限定で100円に値下げすることはあるが、それは本部にとって積極的に採用しにくい施策だ」と口をそろえる。

コンビニのおにぎりは、具材によっては原価率が高い上、競合各社は、値下げによって悪化した製造会社や加盟店の利益を本部側が補填している。この負担が重いため、競合各社は「セール(値下げ)はあくまで、普段来店しない顧客を誘導するためのきっかけ作り」というスタンスだ。

全店で100円へと値下げして以降、ミニストップではおにぎりの販売個数が1.5〜2倍に増加した。おにぎりだけをみると、販売個数が増えたことで、粗利益は値下げ前以上の数字を確保している。

今第1四半期は赤字幅が拡大

ミニストップは値下げで悪化したおにぎり製造会社の利益を補填しているが、今のミニストップにその余裕はない。今2020年2月期について、営業総収入2100億円(前期比2.3%増)、営業利益14億円を見込んでいる。だが、第1四半期(2019年3月〜5月期)の営業総収入は506億円(前年同期比1.3%減)、営業損失21億円(前年同期実績5億円の赤字)と、苦しいスタートになった。

100円戦略でおにぎりの販売個数が増えても、ミニストップ全体の客数に直結するわけではない。

おにぎり100円戦略を始めた7月は気温が上がらず、ソフトドリンクなどの販売量も減少した。コンビニ業界全体の業績が振るわず、例えばセブンの7月の既存店売上高は前年同月比3.4%減だった。ミニストップも同5.1%減とセブンよりも厳しい結果で、とくに客数は同6.6%減まで落ち込んだ。おにぎりの値下げが客数増につながっている様子はまだ見えない。

今後、おにぎり100円戦略によって、客数増加やサラダなどと組み合わせた買い上げ点数増加につなげられなければ、利益を一層悪化させる懸念がある。規模で劣るミニストップが現状を打破するために放った手は、大きなリスクと背中合わせだ。