いたずらに「老後不安」におびえるのではなく、「公的年金」をうまく利用して自分に合った「お金の人生設計」をしましょう(写真:Yagi-Studio/iStock)

「灯台もと暗し」。最近、お金の相談に乗るたびに思い浮かぶ言葉です。すでに大きな保障を持っているのに、なぜこうも「老後不安」におびえないといけないのでしょうか。そればかりか、さらに外貨建て保険や、長生きすればするほどお金を多く受け取れるトンチン年金保険などに入りたいのでしょうか。

「公的年金」を頭に入れて人生のお金をデザインしよう

20歳以上の人たちは、毎月、決して安くはない年金保険料を支払っています。会社員は給料から天引きされますし、自営業者なら自分で支払っています。公的年金は、国の保障であり、かなり強力です。もちろん、公的年金だけで老後は安泰と言っているわけではありません。しかし、間違いなく「すべての人が終身で受給できる老後生活費の柱」です。

なぜなら、年金制度は、「強制加入」だからです。ちょっと難しい言い方ですが、「保険」の機能を高めるためには財政の安定が必要です。低いリスクの人も含め多くの母数集団を構成し、「大数の法則」を効かせることがポイントになるわけです。公的年金は、運用益で実現するしかない民間保険には絶対に作れない「保険」なのです。

では、その民間保険はどうでしょう。リスクを感じている人が積極的に入ります。すると保険会社は保険料の支払いリスクが高くなるので、保険料を割高にせざるをえません。だから保険料は高くなるのです。

前置きが長くなってしまいましたが、今回、皆さんに考えていただきたいことは、「老後の安心を作るのは難しくない」ということです。キーワードは「公的年金」です。これを上手に利用することこそが、老後の安心を作るポイントなのです。つまり、自分の「お金の人生設計」の中に、自分が受給できる「公的年金額」を入れて考えることが重要なのです。

先日、私のところにご相談に来られた政岡靖友さん(仮名・会社員・43歳)と妻の美南さん(仮名・会社員・40歳)は、漠然とした老後不安から、あるファイナンシャルプランナー(FP)のところに相談に行ったそうです。その結果、4つの外貨建て保険を勧められて、加入しました。

すべて「平準払い」(毎月保険料を払うタイプ)の米ドル建て養老保険で、支払う保険料は1ドル=105円(8月中旬)で換算すると、年間190万円にも上ります。ご夫婦の手取り年収が約700万円として、その25%以上を占める金額です。

このご夫婦のように、保険を買ったはいいが、だんだん不安になってご相談に来られる人は多いのですが、政岡さんも、「相談に行ったときは、老後のために必要な気がして加入したが、適切だったのかどうかみてほしい」ということでした。ダブルインカムで子どもがいないので、支払えない金額ではないけれど、さすがに、保険料は負担だそうです。それはそうでしょう。夫婦の合計手取り額の25%以上ですもの。

すでに、契約してから半年が経っていました。私は、見知らぬFPに対し、「また、『老後不安』を商売に利用したな」と腹立たしい思いを抱きながら、まずは、ご夫婦の「老後不安度」を計算しました。「老後不安」の正体をしっかり把握するためです。

「老後不安度」の計算の仕方とは?

実は「老後不安度」を知るのは簡単です。この連載で何度もお伝えしている「人生設計の基本公式」で必要貯蓄率を求め、高ければ「早急に対策せよ(=老後不安度は高い)」ということですし、低ければ「そんなに心配しなくてよし(=老後不安度は低い)」ということになります。

正社員で共働き、現在のところ子どもがいない政岡家は、計算するまでもなく、「老後不安度は低いだろう」と思いましたが、想像通り、必要貯蓄率は7%でした。今後、手取り年収の7%を計画的に貯蓄していけば、今の生活水準を十分維持していけます。「老後不安度」は低く、間違いなく「不安商法でカモにされた」ようです。

政岡家の詳細は以下です。前出の人生設計の基本公式に当てはめていきます。ここではさっと読むだけで大丈夫です。

2人とも、60歳定年後に65歳まで継続雇用で働き続ける予定です。今の手取り額は前出の通り約700万円。これから給料はもう少し上がる予定ですが、役職定年があるので55歳で2割程度下がり、60歳以降さらに2割くらい下がる想定で計算しています。

「今後の平均手取り年収(Y)」は、今から少し増えると想定、夫婦合算して750万円、「老後生活比率(X)」は現在の生活費の6割程度とします。「現在資産額(A)」は600万円です。

「年金額(P)」は、簡易計算式(※)で求めます。靖友さんは、大学卒業してから65歳まで43年間厚生年金に加入するとして、生涯の平均年収560万円× 43年間× 0.0055 =132万円。老齢基礎年金は満額相当の78万円で合計210万円です。妻の美南さんは、生涯の平均年収330万円× 43年間× 0.0055 =78万円。老齢基礎年金は満額相当の78万円で合計156万円。夫婦の年金額は210万円+156万円=366万円です。

※(P)は、この例のように、サラリーマンなら、長期で働くことを前提に(生涯の平均年収×厚生年金の加入期間×0.0055)+老齢基礎年金78万円、として計算すると簡単です。なお老齢基礎年金は、年収に関係なく、加入期間1年ごとに2万円増えて、満額78万100円(令和元年度)です。65歳まで働き続ける想定で「老齢基礎年金の満額相当の約78万円」としています。

「現役年数(a)」は収入の多い夫に合わせ、65歳-43歳で22年。「老後年数(b)」は一般的に長生きすると言われている女性に合わせます。美南さんは3つ年下のですので、95歳-65歳+3歳=33(年)とします。皆さんも、ぜひご自身の数字を入れてみてください。3〜5分もあれば、すぐに計算できるはずです。 

大切なのは「お金の置き場所」

前出の通り、政岡家の必要貯蓄率は、約7%でした。この貯蓄率を守れば老後生活費は毎月約35万円確保できます。今後、仮に、年金受給額が2割程度減るとしても28万円です。今の手取り年収から求めた必要貯蓄額は年間49万円です。何も、外貨建て保険に年間190万円もつぎ込まなくても、老後の心配はありません。

これから、しっかり長く働き続けるために、体調のメンテナンスやスキルアップのための投資など適切にお金をかけながら、しっかり貯蓄していくことです。

もちろんこれらは計算上のことですから、今後の人生ではいろいろなことがあるかもしれません。しかし大切なのは「必要貯蓄率」を決めて、将来のためにお金を貯めていくことです。なぜなら、今の収入は、現在の生活費であり、未来の自分を支えるお金であるからです。「余ったら貯蓄に回す」のではなく、必要な貯蓄をして残りで生活をするという考え方に変えなくてはいけません。


そのとき、大切なのは「お金の置き場所」ということになります。効率的にお金を増やすためには、コストがかからないことが重要です。

その点で、外貨建て保険は、運用と保障の両方にコストがかかり、保険会社にも販売者にも手数料が入る仕組みで、保険料支払い時に円をドルに、また保険金受け取り時にドルを円に交換する手数料もかかります。それらはもちろん契約者の資産から支払われます。

読者の方の中でも、「老後が不安だから外貨建ての養老保険にでも入ろうか」と思っている人は、よく考えてくださいね。公的年金をまったく受け取れない前提で、同じくらいの老後生活を確保しようとすれば、必要貯蓄率は60%にもなります。「公的年金」を「お金の人生設計」に入れて必要貯蓄率を求め、実行していくことこそ、「老後の安心」を作る堅実な方法なのです。