一定以上の規模がある会社の多くには「広告宣伝部」と「人事部」の両方が存在しています。そして、それぞれが広い意味での「広報」をしています。

ところがきちんと連動して出すメッセージを調整して、ブランディングを行なっているようなところはどうも少ないようです。小さい会社は別として、たいていはそれぞれが個別の目的に基づいて独立して活動を行なっており、方向合わせをしているようには見えません。

同じ会社のことを世の中に伝えているのにもかかわらず、どうしてこのようなことになるのでしょうか。(人材研究所代表・曽和利光)

「対象」が異なればメッセージも異なる

考えられる理由の一つは、単純な話ですが、伝えようとする対象が違うからです。

広告や宣伝の対象は主に「顧客」「消費者」です。一方で採用における広告活動の対象は「社員候補者」です。この「顧客」「消費者」と「社員候補者」がイコールであるかといえば、当然そうではありません。

例えば、トヨタやソニーは、自社製品のファンを採用したいでしょうか。三菱UFJ銀行やリクルートは、自社サービスを使ってくれる人を採用したいでしょうか。「顧客」「消費者」は膨大な人数となる会社も多いため、重なる部分も中にはあるでしょうが、ほとんどは重ならないでしょう。

正反対のメッセージになる場合もある

しかも、単に重ならないだけではなく、それぞれに訴求したいメッセージが正反対になる場合もあります。

例えば、(部外者の単なる私見ですが)情報プラットフォーム事業を運営しているリクルートは、おそらく「顧客」や「消費者」には、自社が提供するインフラに対する「安心」「安定」「情報の正確さ」というイメージを訴求したいと考えているのではないでしょうか。

ところが、採用においてはアントレプレナーシップのある人をターゲットとしているために、「挑戦」「変化」「曖昧なフロンティア」というイメージを訴求したいわけです。ほぼ正反対と言ってもよいかもしれません。これではなかなか連動したプロモーションが展開できないのは当たり前です。

ギャップがある会社はどちらかを重視する

こういうこともあって(それ以外の要因もありますが)、昔からリクルートは会社のブランディングとなる広告宣伝活動はせずに、個別の事業、商品、サービスばかりに集中して広告宣伝活動を行なっていました。

以前は、テレビCMを打つ際にも、最後に一瞬社名を言うか言わないかという状況でしたので、採用の時に学生が「『じゃらん』とか『ゼクシィ』ってリクルートのメディアだったんですね!」と驚く人は珍しくありませんでした。

要は、会社の広告の優先順位は下げたわけです(最近は社名もきちんと言うようになってきたので、方針は変わっているようです)。

消費財メーカー(P&Gなど)なども似たような状況ではないかと思います。その分、採用広報は上述のように全く異なるメッセージを、マスではなく絞ったターゲットに対して集中的に行なっていたわけです。

「採用」が目的で広告を打つ会社もある

一方、例えば技術力で勝負している素材や部品メーカーなどのBtoB企業などは、逆に採用のための広告を行なっているところも多いです。

自分がそういった会社の採用ターゲットでない場合は、あまり注目しないために意識にないかもしれませんが、テレビCMなどで事業や商品のことを全く語らずに、抽象的なコンセプトや何らかのイメージ、印象のみを訴求しているような例がそれです。

東工大等の理系大学の最寄り駅などに出している「看板広告」なども同様です。B to B企業は広告宣伝をマス向けに行う必要性は薄いので、それではと、その枠で採用を目的とした広告を打つというわけです。

求人枠で「広告宣伝」を行うケースも

ところが、採用上の広告において、会社や事業、商品、サービスの宣伝をする意図を持って資金やパワーを投入する会社はあまり見かけません。まれなケースを述べます。

ある小さな保険会社では、以前、戦略的に新卒採用活動において、コーポレートブランディングを行なっていました。新卒採用では2名程度の若干名しか採用しないので、ふつうに考えれば予算はせいぜい数十万円ですが、実際は1000万円前後をかけていました。

1人あたり約500万円は過剰な投資と思われるでしょうが、そうではありません。新卒採用という相手が広告を一生懸命見てくれるところに投下する広告費用1000万円は、通常のテレビCMその他の広告と比べると圧倒的に費用対効果が高いと判断したのです。

そして、マーケティング予算から費用を捻出して、プロモーションを行っていたのです。このケースは、極めて戦略的だと思います。

「ニーズのすり合わせ」から連携が生まれる

しかし、そういうことをする会社はあまりありません。それは冒頭に申し上げたように、広告宣伝活動と採用活動との間に情報交換や方針のすり合わせなどの連携がないからです。これはもったいないことです。

きちんとそれぞれの課題や広告に対するニーズをすり合わせることができれば、本稿で述べたような「採用目的の広告」もできれば、「広告目的の採用」もできるのです。

しかし、BtoB企業などで事業や商品・サービスの広告ニーズがなければ、広告宣伝部は活発に動かない、もしくは、少数採用企業などで広告ニーズがなければその機会を事業や商品・サービスの広告に使うことなく何もしない、というのが現実です。

せっかくのチャンスを逃さないためには、今一度、広告宣伝側と採用側がそもそも今何をしていて、どんなニーズがあるのかをすり合わせてみてはいかがでしょうか。

【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/