衝撃のニュースだった。J1湘南ベルマーレのチョウ・キジェ監督に、パワーハラスメント疑惑が浮上したのだ。

 私はチョウ・キジェ監督がヘッドコーチだった2009年から、何度か取材をしてきている。1時間以上の単独インタビューに付き合ってもらったことがあれば、練習後の囲み取材に交じったり、試合後の記者会見を聞いたりしてきた。今年も5月と7月に単独でインタビューをしている。

 取材を通した交流の時間はそれなりに長いが、頻度は決して多くない。だから、チョウ・キジェ監督のすべてを知り尽くしているなどとは、もちろん考えていない。

 そのうえで個人的な感想を書くと、「信じられない」の一語に尽きる。

 広く知られているとおりの熱血漢である。言葉が激しくなることはあるのだろう、と想像する。誤解を恐れずに言えば、スポーツの世界では言葉が乱暴になる場面があるものだ。

 サッカーならば、試合中の判定をめぐって監督、コーチ、選手らが主審や副審に詰め寄る場面で、かなり荒っぽい言葉が飛び交う。審判側の受け止め方によっては、威嚇や威圧と見なされるような言葉もあるが、それ自体が大きな問題として取り上げられることはない。

 監督も、コーチ陣も、選手たちも、むやみやたらに怒りを撒き散らしたり、声を荒げたりするわけではない。日々のトレーニングの成果をピッチ上で表現するために、ファン・サポーターに喜んでもらうために、彼らは判定に敏感になる。その「確度」を問う。審判側も彼らの気持ちが分かっているから、「パワハラを受けた」とは思わないし、そんなことは口にしない。

 審判に取材をしたわけではないから、なかには被害者意識を抱く審判がいるかもしれない。ただ、基本的には「ともにゲームを作り上げていく」との連帯意識があり、信頼感がある。それによって、ときに起こる判定をめぐる騒動も乗りこえることができている、と感じる。

 私自身の肌触りで言えば、コーチらのスタッフを厳しく叱責したり、シビアな処遇を下したりする監督はいる。それがパワハラとかモラハラと見なされるなら、否定はできないだろうなというケースも目にしてきた。

 チョウ・キジェ監督はつねに選手ファーストである。自己顕示欲とか自己保身といったものを、全く感じさせない。頭のなかを占めているのは選手がピッチ上で輝き、チームが勝利をつかむことだけだ。

 スタッフに厳しく接することがあったとしても、トレーニングを円滑に進めたい、選手にストレスをかけたくない、といった思いを起点にしているはずだ。選手にキツい言葉をかけたとしても、彼らの成長を第一に考えているのは間違いない。

 今回の監督に対する疑惑で、議論の方向がパワハラに当たる言動があったかどうかへ向くのはしかたがない。しかし調査の末の結論は、「監督がどのような思いでその言動に至ったのか」を考慮したものであってほしい。チョウ・キジェ監督が自分本位の行動へ走るとは、どうしても考えられないのだ。