森議員の特徴は、自民党派閥の清和政策研究会の番頭格だったことです。清和研は、福田赳夫議員に始まり、安倍晋太郎議員に引き継がれ、そして現在は、安倍晋三首相を支える派閥(細田派)になっています。

 森議員は、小渕総裁(首相)が急逝したとき、自民党幹事長を務めていたことから、総裁に昇格して首相となりました。いわば、急場のリリーフとして登板したようなものです。当時の最大派閥であった経世会が、本格派の後継候補を用意するまでのつなぎだったわけです。ただ、第二派閥の番頭として、安倍晋三議員に引き継ぐまでの会長を務めていたことが、幹事長として腕を振るう基盤となり、そのことがリリーフに起用された理由になっていました。

◆番頭・リリーフとしての菅官房長官

 菅官房長官が、自民党の総裁、そして首相を目指す上で、絶対的に欠けているのが「血筋」です。菅長官は、高校卒業後に、秋田県から集団就職で上京してきました。父は、地元の町議会議員をしていましたが、政治家というよりも地元農家の顔役でした。その後、国会議員の秘書、横浜市議会議員を経て衆院議員になっています。

 自民党の総裁に「血筋」という条件は明文化されていませんが、前述したように、過去30年で実質的な「前例」となっています。もし、菅長官が総裁・首相を目指しているならば、自らに欠けるものとして「血筋」を意識し、それを補おうと考えるのは自然なことです。

 菅長官が目指すロールモデルに適当なのは、森総裁モデルです。すなわち、若手の有力世襲議員(安倍晋三議員)の後ろ盾となり、その勢力(清和政策研究会)の番頭として、彼につなぐまでのリリーフ総裁を目指すモデルです。ただ、森総理・総裁は、短期で失脚しましたが、失政や失言を防げば、長期政権も夢ではありません。その点の「危機管理」は、菅長官の得意とするところでしょう。

 つまり、菅長官は、小泉議員の番頭・リリーフとしての役割を担おうとしていることが、一連の報道からうかがえるわけです。

小泉進次郎首相による「自民党プリンス・番頭モデル」の確立

 自民党の総裁は、16代の河野洋平総裁から、森総裁を除き、世襲議員によって占められています。それでも「自民党をぶっ壊す」の小泉純一郎総裁までは、派閥力学が重視されていました。ところが、小泉総裁によって派閥の機能が低下させられたため、「なんとなく血筋」という流れが生まれてきました。ちなみに、安倍総裁の対立候補の石破茂議員も、父が参院議員でした。

 森総裁は、有力世襲議員の後見役、勢力の番頭として、就任しました。世襲議員との補完関係によって総裁になりました。

 すると、菅義偉総裁と小泉進次郎総裁の誕生は、こうした「自民党プリンス・番頭モデル」が確立することを意味します。世襲で周囲から見込まれた議員が「プリンス」として総裁・首相となり、非世襲議員は「番頭」として実力を示し、総裁・首相を目指す政治モデルです。これが、自民党で首相を目指す政治家の王道となるのです。

「自民党プリンス・番頭モデル」の確立は、自民党が第一党を占め続ける限り、日本で世襲政治が続くことを意味します。日本で首相になるには、自民党国会議員の家に生まれるか、その番頭を目指して這い上がるか、二つに一つとなるのです。

 それは、戦後社会のひずみを維持し、さらに強化することを意味します。重厚長大型の大企業を中心とする社会構造を維持し、そうした人脈につながることが、社会的な「成功」となるからです。「血筋」とそれを支える「実力」によって、人脈をひたすら強化することが、彼らのメリットになります。

 そうした社会で良しとする方は、菅長官と小泉議員を応援し、この「自民党プリンス・番頭モデル」の確立を目指しましょう。自らが自民党の一員となり、藩屏として支えることも一つの方法です。

 逆に、そうした社会のひずみを解決したいと考えるならば、自民党を野党に転じさせる「政権交代」を求めることが必要です。自民党は、与党でいること自体を目的化する政党です。野党になれば、政権という生命維持装置を失い、次第に衰え、崩壊していくでしょう。

 世襲政治で、社会のひずみを拡大するか、政権交代で、社会のひずみを解消するか。そのカギを握るのは、有権者の選択です。

【田中信一郎】
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究〜質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu