井端弘和「イバらの道の野球論」(8)

 プロ野球は大型連敗、連勝による順位変動がつきものではあるが、今シーズンはその傾向が顕著になっている。

 セ・リーグでは、春先に好調だったヤクルトが16連敗で最下位に転落し、同時期に首位に立った広島も11連敗を喫して、前半戦を4位で終えた。代わって首位を独走しつつあった巨人は6連敗などがあって失速し、反対に7連勝したDeNA、9連勝した広島と首位を争っている。

 一方のパ・リーグも、交流戦前から調子を上げて首位に立った楽天が、6月下旬の9連敗で一時は4位に。それを尻目に9連勝したソフトバンクが独走態勢に入るかと思われたが、6連敗などで2位以下のチームに追従される形となった。

 選手、コーチとして連勝と連敗を経験してきた井端弘和に、その原因や対策などを聞いた。


7月15日のDeNA戦で11連敗を止め、そこから再浮上した広島

──今シーズンのプロ野球では大型連敗、連勝が多くなっています。特に、連敗で順位を下げるチームが多い印象がありますが、原因はどこにあると思いますか?

「究極の難題ですね(笑)。連敗をする時は、投手陣や打者の調子が噛み合っていない場合が多いんですが、そういう状態になるチームがたまたま多いとしか……。もし連敗の止め方がわかる人がいたらすぐに名監督になれますし、高額の報酬を払ってでも首脳陣に加えるべきです(笑)」

──井端さんでも答えが見出しにくい問題なんですね(笑)。これは仮説ですが、今シーズンは先発投手陣が不安定なチームが多い、ということも考えられるでしょうか。

「先発投手に限った問題ではないと思います。2017年シーズンには、私が一軍の内野守備走塁コーチをしていた時の巨人も13連敗をしましたよね。その年は菅野(智之)が17勝5敗で沢村賞を獲得し、田口(麗斗)も13勝4敗、(マイルズ・)マイコラス(現カージナルス)も14勝8敗と活躍しました。その3本柱がいても連敗を止められなかったわけですから、原因をひとつに断定することはできません」

──その連敗中、コーチの目線からチームをどのように見ていましたか?

「『勝てない時は勝てない』と思っていました。もちろん首脳陣は常に勝つことを考えているわけですが、早めに手を打ってメンバーを入れ替えても裏目に出ることがありますし、我慢してオーダーを固定したままでも状況が改善しないことがある。私は内野守備走塁コーチという立場だったのでバッティングなどについて進言する機会はなかったですけど、連敗している時はプレーが普段と違ってしまう選手も出てくるため、その改善策などは自分なりに考えていましたけどね」

──具体的に、「普段と違ってしまう」部分とは?

「打者の場合はチャンスで回ってきた時に『自分が打って決めてやろう』という変な欲が出たり、逆に『大事にいかないと』と意識しすぎてしまったりすることが多くなるように思います。どちらの場合も力みが生まれ、普段通りにバントができない、スイングの軌道がわずかにズレて打ち損じるといったケースが増えるように感じます。

逆に連勝している時は、簡単に得点が入るものなんですよ。ランナーを確実に進めていけば自然と得点が入るような雰囲気があり、積極的な仕掛けがことごとく成功し、ビックイニングになることもよくあります」

──それでは、連敗を止めるための改善策は?

「当たり前のことかもしれませんが、『1点ずつ得点を重ねていく』という原点に立ち返ることですかね。負けていても焦らず、勝っていても大量得点を意識せずに自分の役割を果たすことを考える。守備の時も同様で、投手と野手がひとつずつアウトを取っていくことができれば、おのずと勝利の形が見えてくると思います。

あとは、出番が少ない選手や2軍から上がってきた選手を、思い切ってスタメンに入れるのもいいかもしれません。レギュラー選手と違って連敗の責任を負っていない分、思い切ったプレーが期待できるからです」

──井端さんは現役時代にもチームの連敗を経験したことがあると思いますが、コーチと選手では気持ちに差が出ますか?

「選手時代のほうが、自分が打つことで何とかできる可能性があるので気分的には少しラクでしたかね。首脳陣もさまざまな策を講ずるわけですが、プレーするのは選手ですし、勝ち負けがすべての立場ですから。投手も野手も、チームの勝利の他に個人の成績を上げるという目標があります。連敗を意識しすぎてしまうくらいなら、『個人の結果はよかった』『今日はダメだったけど、次の試合では頑張ろう』と割り切ってしまうこともありなんじゃないかと思います」

──両リーグとも、首位を独走しつつあった巨人とソフトバンクがオールスター明けに連敗し、優勝争いの行方が読めなくなってきました。現在は2チームとも状態は上がってきたように感じますが、これから他球団が”包囲網”をかけることはあるでしょうか。

「クライマックスシリーズが導入されてからは、先発ローテーションを崩してまで首位のチームにエースをぶつけてくることも少なくなりました。何かのきっかけで負けが重なることはあっても、他のチームに戦力を集中されて連敗する心配はあまりないでしょう。

 今シーズンは確かに大型連敗と連勝が多くなっていますが、順位を見るとチーム力の差がそのまま結果になって表れていると思います。上位にいるチームは、連敗をしてもそこから連勝して浮上する力がある。反対に、たとえば戦力的に厳しい中日などは、7月に8連勝したあとに8連敗してそのままズルズルと順位を下げてしまいましたよね。そういう意味では、パ・リーグのほうが戦力が拮抗していると言えます」

──とくに波が激しい広島も、連敗、連勝を繰り返して首位を狙える位置にいます。苦しい時のチームを救った選手を挙げるなら誰になりますか?

「もちろん鈴木誠也が軸のチームですが、今シーズンは西川龍馬の働きが大きいです。開幕スタートに失敗した広島が一度首位に上がった時には、彼が球団歴代2位の27試合連続安打を記録した時期とリンクします。交流戦からまた調子を落とし、引き分けを挟んで11連敗した後も、1番に入った西川がチームをけん引して9連勝で巻き返しました。

 彼は”悪球打ち”と称されることもあり、ボール球の見極めが少し課題でしたが、あとにクリーンアップが控える1番だと相手投手が四球を嫌がるようになる。5番を打っていた時よりもストライクゾーンに近いところでの勝負が多くなったため、持ち前のバッティングセンスを大いに生かせているんだと思います。広島のリーグ4連覇の行方も、彼の活躍が大きく左右するでしょうね」

──ペナントレースは終盤戦に入っていきますが、これからの戦いで重要になることは?

「上位のチームは優勝を狙って、下位のチームは何とかクライマックスシリーズ進出圏内の3位に食い込むために死力を尽くす戦いになります。その中でまた連敗、連勝をするチームが出てくるでしょうが、それに惑わされないこと。首脳陣や選手もわかっているでしょうけど、いかに目の前の試合に集中できるかが重要だと思います」