”手ぶら”の謝罪では意味がありません(写真:Fast&Slow/PIXTA)

このところ、謝罪会見で世の中が賑わっています。形勢逆転もあれば、さらなる深みにはまっていく残念な会見もあります。

ビジネスパーソンは世間全般に対して謝罪するような機会はあまりないものの、ミスやトラブルなどで顧客や関係者に謝罪をすることは珍しいことではなく、他人事ではありません。謝り方ひとつでその仕事や関係が台無しになってしまうと、自分のキャリアにも大きなダメージがあります。目指したいのは関係を修復し、ことを収束に向かわせる謝罪です。

関係修復のステップ

私はコンサルタントとして仕事をしているとき、トラブルプロジェクトに呼ばれる経験を何度かしました。お客様側も自社側のメンバーも大分こじれてしまっている状況の中で、立て直しをはかるのが仕事です。

プロジェクトマネジャーの仕事として「利害関係者管理」がありますが、それがうまくいかず、利害関係者を巻き込むどころか怒らせてしまっている状況に呼ばれるわけです。

この場合、仕事の遅れを取り戻すには、まず関係修復をしないことには始まりません。関係修復しないまま、遅れを取り戻そうと人を投入してもうまくいかないからです。目指すのはマイナスの関係性をゼロにすることではなく、プラスにすること。プラスにならないとリカバリーはかなり厳しくなります。

では、どのように関係を修復していくのかステップをご紹介します。

謝罪に行く前に>

●Step1 事実の把握

まずは事実・経緯を完璧に把握します。どういう状況で何が起きて、相手にどんな迷惑をかけたのか、これを自社側の関係者で包み隠さず完璧に洗い出します。

あるプロジェクトでは事実を把握している最中にお客様サイドから「御社の〇〇さんが、うちの会社のエレベーターで愚痴を言ってました。全然悪いと思ってないですよね」と言われてしまい、これには慌てました。何と不注意な……とあきれるかもしれませんが、謝罪が必要なトラブルの場合には、関係者の気の緩みがあちこちで大小の問題を起こしています。

その後は徹底的に誰が何をしたのか、どんな発言をしたのか情報を集めました。ここで抜け・漏れがあると、謝罪のときに相手から知らない事実を突きつけられ、「そんなことも認識せずに謝りに来たのか。全然わかってない!」とさらに怒りを誘うことになってしまいます。

ですから、関係者全員と1対1の場も含めて何が起きているのかきちんと把握するようにします。迷惑をかけた本人はなかなか正直に言いにくいこともあるので、周辺の人からも事情や経緯を聞き出します。

自社側でできる限りの情報を集めて整理したうえで、謝罪相手の関係者からも事情をうかがいます。いきなり謝罪する直接の相手との場を設定すると、先方からこちらが把握していない事実を次々と突きつけられかねません。自社側と相手側の関係者の両方から事実を集めます。

●Step2 解決策と再発防止策を作る

私は「謝罪には手ぶらで行ってはいけない」と上司から教えられたのですが、これは菓子折りを持っていけ、という意味ではありません(持っていく場合もありますが)。どうやって今の状況や問題を解決していくのかという案と、今後同じことを繰り返さないための防止策をセットで持っていくという意味です。

手ぶらで行ったらそれこそ、形だけの謝罪だと思われてしまいます。確実にリカバリーし、かつ同じ過ちは繰り返さない意気込みを見せなくては、ことは収まりません。

問題が何かを突きとめるのは必須

コミュニケーションの問題なのか、期待値のズレの問題なのか、スキルの問題なのか、品質の問題なのかを見極めたうえで、相手が納得する案を作ります。

担当者同士で修復できないレベルまでこじれてしまっているのであれば、こちらの担当者を変えるというのも対策案として検討します。スキルや品質面の問題であれば、現メンバーのスキル不足をカバーするような体制やチェックの仕方を変えることが対策案になります。

謝罪の場で>

●Step3 事情説明の前にまずはお詫びの言葉

ここからは実際の謝罪の場で順番にすることです。心情としては、原因や理由など事情説明をしたくなりますが、まずは相手の話をしっかりと聞き、お詫びの言葉を述べるところから始めます。

ただし、ひたすら「申し訳ありません」とだけ繰り返していても、次第に「この場だけ謝れば済むと思っているのか!」と思われてしまうので、注意が必要です。せっかくの謝罪の機会をマイナスにしてしまっては元も子もないので、くれぐれも火に油を注ぐような謝り方だけは避けなくてはなりません。では、具体的にどのように謝るのか、トークポイントをご紹介します。

「事実+相手の気持ち+申し訳ありません+自分の気持ち」で具体的に謝る 

「謝ればいいと思ってるんだろ」と思われないためには、相手が何に対して怒っているのか、相手がどんな気持ちなのかを受け止めて、具体的に謝る必要があります。そのためには「具体的な事実+相手の気持ち+申し訳ございません+自分の気持ち」の順番で謝ります。

例:

「スケジュールの共有ができておらず、混乱させてしまい、申し訳ありませんでした。本当にあってはならないことだと思っています」

「エラーが頻出して皆様の作業を中断させてしまい、申し訳ありません。新システムへのご期待を裏切る結果になってしまい、情けなく思っております」

「弊社の山田の対応が不快な気持ちにさせてしまい、申し訳ありません。管理が行き届いておらず大変恥ずかしく思っております」

「何度もご忠告をいただきながら、このようなふがいない結果になってしまい、申し訳ありません。信頼を裏切ることになってしまい、忸怩(じくじ)たる思いです」

具体的な謝罪ポイントを明確にすることで、相手の怒りを受け止めていることをしっかりと示しましょう。具体的に謝るためには、事情や経緯をしっかりと把握しておくことが大前提になります。 

また、相手が何に対して怒っているのかを相手の気がすむまで言ってもらわなくてはなりません。相手が何か言いかけたときに、すかさず事情の説明を始めてしまうのではなく、まずは「言い切った」と思うところまで聞いたうえで、「事実+相手の気持ち+申し訳ありません+自分の気持ち」の順番で謝意を示します。

謝罪」と「お礼」の黄金比

「申し訳ありません」も、ずっと続けていると効果が薄れてきます。2回続いたら、「ありがとうございます」をはさみます。謝罪シーンで感謝を述べることなんてあるのかと思うかもしれませんが、会ってくれたことや、耳の痛い意見を言ってくれたこと、解決のための糸口をいただいたことなど感謝のポイントは探せばあります。

例:

「お忙しい中、お時間をいただいたことに本当に感謝しております」

「言いにくいことをしっかりとおっしゃっていただき、ありがとうございます」

「〇〇さんのお気持ちを伝えていただき、ありがとうございます」

「私たちの気がつかなかった点をご指摘いただき、本当にありがとうございます」

このときのありがとうは、あいさつのような軽いありがとうではなく、思い切り感情を込めるのがポイントです。「ほんっっとうにありがとうございます」というくらいのニュアンスで、感情を表情や声に込めます。地獄に仏と言わんばかりの「ありがとうございます」です。これによって徐々に「許してやった」という気持ちになっていただくのです。

「申し訳ありません」と「ありがとうございます」のバランスは2:1を目安にしてみましょう。

通常のビジネスシーンでは、立て板に水のごとく、堂々とした話し方は説得力がありますが、謝罪のシーンでは逆効果になることもあります。ビジネスライクな話し方では「こちらの気持ちをわかってない」と思われてしまうかもしれないからです。

言葉を詰まらせる様子や、申し訳ない、情けないという気持ちでうまく話せない様子は、相手から見れば自分の痛みを理解してくれている、しっかりと反省している表現として伝わります。

「誤解を与えてしまい…」「そういうつもりでは」はNG

「そういうつもりではなかったのですが、誤解を与えてしまったようです」という説明は謝罪シーンでよく目にしますが、これは「自分は悪くないが、あなたが間違って認識した」と言っているようなものです。

謝罪となると責任問題が生じるため、弁解が増えてしまいがちです。謝ることによって生じる影響を恐れたり、責任を回避したいという気持ちが働いたりするのは自然なことではありますが、まずはぐっとこらえたほうが、その後の影響や責任が軽くなることが多いのです。

実際に、言いがかり的な理不尽なクレームへの対応となると、ついこちらの事情や意図を伝えたくなりますが、謝罪シーンでは怒りをおさめてもらうことを優先したほうが、ことの収束は早くなりますし、正当性を主張することでさらに関係が悪化することを避けられます。この場合には相手を不快にさせたことに焦点を絞ってお詫びをしましょう。

こう聞くと、ひたすら相手の言い分をのむだけで、こちらの事情は一切話せないのかというとそうではありません。次の解決策や再発防止策とセットで事情を説明します。 

●Step4 事情の説明は対応策と再発防止策とセットで行う


事情を説明したくなる気持ちをぐっと堪えて、相手の気持ちに共感して詫びた後は、手土産である解決策と再発防止策の出番です。これらのセットで事情の説明を行うことで、言い訳と思われずに、経緯や事情を説明することができます。

例えば、先方の操作ミスが原因でエラーが多発しているような場合に、「操作ミスが予想以上に多くありまして……」と説明を始めたら、「こちらのせいにするのか!」と思われてしまうかもしれませんが、「〇〇の品質課題については、開発チームで全項目チェックを行い、原因を分類し対応を始めております。操作ミスが原因の課題については御社にも協力していただいてマニュアルを改定したいと考えていますが、いかがでしょうか」と再発防止策の提案の中に含めるのです。

解決策はできるだけ先方に協力してもらって解決していく提案がよいでしょう。謝罪関係から、共に問題を解決する協働関係になっていただくのです。互いに相手のほうを見ている関係から、目の前の問題を一緒に見る関係になれれば、収束に向かい始めます。あるプロジェクトではリカバリー本部を設置して、相手側のメンバーにも入っていただき、1つのチームとして活動することで、徐々に相手の怒りや誤解が解けていきました。

謝罪はできれば避けたいものですが、振り返ってみると謝罪を経験したプロジェクトのお客様とはそれまで以上に関係が深まり、今でも「あのときはお互い大変だったよね」と笑いあえる関係が続いています。マイナスからゼロを超えて、プラスに転じさせ「雨降って地固まる」を目指してみましょう。