身近なモノを使って自然に英語で考えたり、話したりするクセをつけるには?(写真:Pangaea/PIXTA)

「英語を学んだはいいが、なかなか実践では使えない」。こんな話を聞くことは少なくない。せっかくお金と時間をかけて英語を習得したつもりなのに、いざ外国人とビジネスや娯楽の場で話すとなると、言葉がまったく出てこない。日本語から英語に変換しようとしてしどろもどろしてしまう……。

それは、「日本語脳」のまま英語を話そうとしているからかもしれない。では、より自然に英語で感じ、英語で考え、英語を話すにはどうしたらいいのか。自ら学習メソッドを確立し、中学から勉強したにもかかわらずネイティブレベルの英語力を手に入れた白川寧々氏が、自著『英語ネイティブ脳みそのつくりかた』から、身近なモノを利用しながら「英語脳」を育てるノウハウを紹介する。

部屋の私物に付箋をはってみよう

たいていの人は、今までたぶん身のまわりのモノを英語でなんていうか、知っていても自分に「関連づけ」したり、あらためて意識したことはないんじゃないかな。

「TOEFL100点以上取って自信満々で留学したのにいったん、英語圏に行っちゃうと、“白菜”ってなんだっけ?みたいなことがわからず無力感にたたきのめされました……」。なんて、留学した人のコトバもある。英語は勉強しているのに、簡単なモノの名前もわからなくて自信をなくすのは、「関連づけ」を怠った結果だ。

けれど、鬼のように簡単な解決法がある。しかも、ほぼゼロ円だ。脳みそに、まず「自分の私物が英語でなんて言うか」をたたき込めばいい。まず使うのは、付箋だ。「付箋と英語」で、まず自分の部屋を英語化しちゃおう。

毎日、何時間も過ごす場所だけど、そこに置かれているものが英語でなんと言うかわかるかな? まず、BedとかWindowとかWallとか、英語がすぐ出てくる部分に付箋を貼ろう。


「え?」「あれ?」という気づきが大事

そうすると困り始める。この部屋より自分の部屋にはいろいろいっぱいあるんだけど、それを英語でなんていうのかわからない、と。解決策はネットにあり。もちろん無料だ。図つきオンライン辞典を当たればいい。

いちばんの老舗は、ウェブスターの「Visual Dictionary Online」というサイトで、これは本当に細かいものの名前がこれでもか!というくらい載っている。ここの「House → House furniture(家具)」というセクションに行くと、いろいろな家具が出てくる。

あくまでも英語圏の家具の名前なので、Linen Chest(ベッドの足のあたりに置いてシーツを収納するためだけのでかい箱)とか、部屋面積の大きい文化圏用のなじみのない家具もたくさんあるが、日本によくある「ベッド下収納」はというと……。

「あれ、ベッド下収納って、英語でなんて言おう?」実はその、「え?」という瞬間が大事なのだ。日本語で認識してきた世界と、英語でこれから認識する世界のギャップが明確になることが大切なのだ。

さあ「ベッド下収納」を、もし英語圏住人に説明しろって言われたら、なんて説明する? まず、この家具の特性をばらしてみよう。

1) 引き出しがある。
2) ベッドの下にある。
3) 服などをしまうものである。

辞書をひいてみたら、収納は「Storage」という。引き出しは「Drawers」だ。ベッドの下「Under the bed」。ここはとりあえず、「Storage under the bed」とか「Drawers under the bed」とでも表現しておこうか。

脳内で私物を英語で認識することが大事

そんなテキトーでいいのかって? 文化のギャップを説明するのに、決められた正解はない。この場合、まず100%試験にも出ない。この時点では正直、どんなに間違っていたって関係ない。「Under the bed」が「Bed under」になっていたっていい。そういうギャップを埋めるのが、これからなんだから、まず自分の位置を認識せねば。

脳内で、私物が英語として認識されること。「これなんて言うのかな?」と迷ってとりあえずなんか知っている英語か調べた英語を当てておくこと。重要なのはここだけ。私も初期は覚えた単語をめちゃくちゃ変な感じに使って笑われたものだ。ここはちゃんと間違っておかないと先に進めない。

「Kids Picture Dictionary」というサイトの 「House」 というセクションにも、もっとかわいらしい絵がある。このかわいい外国の部屋と自分の部屋と比べるだけで、軽いカルチャーショックにさらされる人もいるかもしれない。

こういうのを調べるのが面倒ならば、「タンス→ Dresser」と調べたあとに、グーグル先生に尋ねるという方法もある。Dresser を画像検索すると、明らかにタンスにしか見えないものが大量に姿を現すので、安心して次に進める。

どうだろう? できただろうか? 以下の3つくらいのカテゴリが成立したんじゃないだろうか?

1. Window や Bed など、すぐ英語がわかるもの。
2. Pillowcase(枕カバー)など、教科書に載ってないためすぐに出てこないけれど、調べたらすぐ答えがわかるもの。
3. ベッド下収納やこたつみかんなど、文化的違いが反映されているもの。

貼ったコトバを使って脳内でぼやく

とくに3については違和感が残るかもしれないが、ここは無視してひたすらサクサクっと、家族が許す限りは、付箋をペタペタ貼っていこう。家具だけではなく、例えば文房具なんかにも。

家族が許さない!とか、恥ずかしい!という人は、自分の私物や部屋の写真をスマホで撮って、その写真を加工するという、チキンだがデジタルな形で、この「私物の総英語化作業」をこなしてもいい。冷蔵庫の野菜室の中身などは貼りにくいので、この方法が21世紀的かもしれない。

さて、下図のように、部屋の中のブツに英語のタグが付いただろうか。


別に、これを丸暗記するのがゴールじゃない。これらのコトバを使って、「脳内ぼやき」をするのが次のステップだ。

例えば、朝起きる。なんかギシギシいうので、「The bed frame が古くなってきたかな」。そして寝ぼけ眼な顔にポトリと感じる水の感触に、「The ceiling が雨漏りしてる!」。しかし窓をあけてみると、「Outside of the window はいい天気だ」――。

完全にルー大柴の調子だ。

ルー大柴、誰それ?という世代のために補足しておく。日本人コメディアンで、彼の芸風は日本語の文章に英単語を混ぜて話すスタイルだ。「人生はマウンテンありバレーあり」「一寸先はダーク」「転ばぬ先のスティック」というノリだ。

テンションがおかしいと思われるかもしれないが、これが意外と効くのである。「英語で独り言を言おう」とアドバイスしてくる人がいて、それは独り言スキルが高ければ当然効果的なのだろうが、私の場合は独り言ネタが何も浮かばないことがある。

だが、前のステップを忠実にやった人からすると、嫌でも部屋に貼られた付箋が目に入るので、「ああ、Wallだな」「ああ、Ceilingだな」と認識するだけで、まったくかまわないのだ。できるだけ、自分の本物の感情をコトバにするのが大事だ。

単語を調べたらすぐ使ってみる

英語がわからない部分は、日本語でかまわないので、生きた英語に少しずつ脳内の思考を侵食させていく。私物の総英語化が終わったら、目に入るいろんなモノが気になって「あ、これ英語でなんと言うんだろう」という疑問が浮かび始めるから。


もちろん、脳内にとどめず、友達にこんなふうに話しかけてもいいが、たいていびっくりされるだろう。ただ、効果は間違いないので、この「ネイティブ・マインド」英語習得法を友達とやり、お互いにこんな調子で話せば、かなり楽しい。

仲間は大切な要素なのだ。もしそんな友達がいない場合は、ツイッターで秘密のアカウントをつくって、覚えたての単語を使って盛大につぶやこう。

大事なのは、自分のまわりのモノと英語と思考プロセスがつながることだから。ちなみに、この「関連づけ」の効果は、脳科学的に実証されている。理論的なことはさておいて、ざっくりまとめると、

●自分自身に関連が深いと、記憶に残りやすい(つまり私物だと関連深いので覚えやすい)。
●自分の感情に関連が深いと、記憶に残りやすい(つまり私物にムカついていると、ついでに覚えやすい)。
●「変なもの」「不道徳なもの」「ネガティブなもの」はより記憶に残りやすい(『うんこドリル』や『出ない順』の流行にはわけがある)。

だけど、ここでは別に試験対応がしたいわけではないので「覚えること」は最上位目的ではない。目指すべきは、「自分が使える英語を手に入れること」なので、当然調べたそばから脳内で使うことが大事なのだ。