就活生にとって「インフラ」ともいえるリクナビが、閲覧履歴を使って、内定辞退予測サービスを企業側に提供していた(撮影:今井康一)

リクナビでの閲覧履歴や登録状況が、内定辞退予測に使われていた――。

リクルートホールディングス傘下で、就職情報サイト「リクナビ」などを運営するリクルートキャリアは8月1日、同社が提供するサービス「リクナビDMPフォロー」を休止したと発表。その後、8月5日にはプライバシーポリシーへの同意取得プロセスに不備があったことから、サービスを廃止すると発表した。

閲覧履歴などから内定辞退の確率を予測

リクナビDMPフォローは、企業に対して採用募集に応募した就活生の内定辞退確率を5段階にスコア化して提供するサービスだ。2018年3月からサービスを開始し、38社に提供していた。利用料は1社当たりおおむね400万〜500万円だったという。

問題となったのは、スコアを算出するために、就活生のリクナビでの行動ログ(どの企業を閲覧、エントリー〈応募の申し込み〉したかなどの履歴)を使った点だ。具体的には、この行動ログと、該当企業の前年の応募者の行動履歴とを照合し、その就活生が、昨年内定辞退をした就活生と同じような行動をとっているか、などを見てスコア化していた。

企業側が就職希望者の応募者リストをリクルートキャリア側に送り、リクルートキャリア側でスコア化した内定辞退確率を付加して、企業側に納品していた。

リクルートキャリアは7月上旬に政府の個人情報保護委員会からヒアリングを受け、その際に個人情報の第三者提供に関するプライバシーポリシーの表現が就活生に伝わりにくいのではないかと指摘を受けたという。それを踏まえ、7月末をもってサービスを一時休止することを決めた。

しかし8月5日になって、プライバシーポリシーの同意取得のプロセスに不備があったことを発表し、個人情報保護法に抵触する事例があったことを認めた。具体的には、今年の3月時点でプライバシーポリシーをリクナビDMPフォローで利用できるような文言に更新をしていたが、リクナビを経由せずにエントリーをした就活生に対しては、それに同意を得るプロセスがなかった。

その数は7983人に上り、不同意の就活生が存在したことと「学生の皆さまの心情に対する配慮不足こそが、根本的な課題であると強く認識した」(リクルートキャリア)ことを理由に、サービス廃止を決断した。

ただ、違法かどうかの前に、就活生らが不信感を募らせているのは、「知らぬ間に、閲覧履歴などに基づいた情報が会社側に伝わっている」点だ。

プライバシーポリシーをどこまで承知しているか

リクナビは、登録時やエントリー時などに、プライバシーポリシーの同意が求められる。リクナビのプライバシーポリシーの中身を見ると、「行動履歴等の利用について」という項目があり、次のように記載している。

「ユーザーがログインして本サービスを利用した場合には、個人を特定したうえで、ユーザーが本サービスに登録した個人情報、およびcookieを使用して本サービスまたは当社と提携するサイトから取得した行動履歴等を分析・集計し、以下の目的で利用することがあります」

そして、その目的の1つに、「採用活動補助のための利用企業等への情報提供(選考に利用されることはありません)」と記述している。

就活生は、このプライバシーポリシーに同意して、リクナビのサービスを使ったり、企業へのエントリーなどを行っている。

しかし、この同意を、学生がどこまで承知しているかどうかはわからない。そもそも、プライバシーポリシーの文章量は膨大で、この内容を一言一句、確認する学生はほとんどいないと思われるからだ。

仮に適法だったとしても、行動履歴が利用企業に提供されることを、もっとわかりやすい形で明示する必要があっただろう。

わかりやすく明示したとしても不信感はぬぐえない。なぜなら、この文言なら、理論的にはライバル企業にエントリーをしている状況や、どれだけ熱心に閲覧しているかといった就活生の行動まで把握される恐れがあるからだ。「選考に利用されることはありません」と明記していも、本当に利用しないという確証は得られない。

就活生にとっては現在、リクナビなどの就職ナビを使わなければ、エントリーなどの就職活動が行えないという現実がある。

就活生にとってのナビサイトの役割は、企業の採用情報の収集だけでなく、会社説明会の予約や企業へエントリーするために使われている。就職活動を進めるうえでは、このナビサイトへの登録は不可欠で、今回問題となったリクナビと、マイナビ社が運営するマイナビ経由でエントリーを受け付ける企業がほとんどだ。

就活生の約9割がリクナビとマイナビに登録しており、もはや「就活の必須ツール・インフラ」と言える。

内定辞退予測サービスが生まれた背景は

会社側に閲覧履歴が伝わる可能性があるとわかれば、利用をためらう就活生も出てくるだろう。あるいは、就活サイトの利用方法までもが企業に見られている前提で、「お行儀よく」閲覧するようになることもありうる。

リクナビは、8月5日のリリースで、「学生の皆さまの心情やご状況を十分に踏まえたサービス設計・経営判断ができていなかったという強い反省のもと、今後、リクナビなど新卒学生向けサービスの在り方を、抜本的に変えていく」と明言している。そうであるならば、今後はプライバシーポリシーの見直しや、個人情報データの用途の明確化や制限などをすぐに検討するべきだろう。

ただ、「内定辞退予測」というサービスが生まれた背景についても考える必要がある。

企業の採用活動においては、歩留まりを考えて内定が乱発されることによって、内定辞退することが常態化している。そんな中で、採用者を決める段階で「わが社に来てくれるかどうかの確率」を知ることができれば、かなり貴重な情報だといえる。

ある人材サービス系企業の人事担当者は「内定者や選考中の学生のフォローのために、学生のマインドがわかるツールを使いたい気持ちはよくわかる」と答えた。ほかの人材業界の関係者も「手法は違っていても内定辞退予測などは当たり前のように行っている」と語る。実際、エントリーシートのデータなどを使って、内定辞退を予測するツールは存在する。

もう1つは、就活が高度な情報戦になっているということだ。適性検査の結果を筆頭に、エントリーシートの文字情報や面接の受け答えなど、あらゆる就活プロセスがデータ化され、評価ツールとして使われている。さらにはAIを使って「客観的に評価」できる環境が整ってきた。

最近、動画面接や自己PR動画、Web面接などを導入する企業が増えているが、そうした画像データを使ってさまざまな分析が可能になっている。情報があればあるだけ精度の高い結果を得ることができ、適正な採用の合否判定もできると考えられている。求める情報の範囲がエントリーや閲覧履歴にまで及んでしまうのは、自然の流れだったのかもしれない。

就活生の過半数はAI判定を「よいと思わない」

しかし、AIなどが判断する就活について、就活生のアレルギーは強い。

2018年のディスコ(キャリタス就活)の調査だが、AIが書類選考の合否を判定することに、就活生の50.2%が「よいと思わない」「まったくよいと思わない」と回答。「よいと思う」「とてもよいと思う」の29.6%を大きく上回った。

さらに同社は、今年7月に「録画面接」「自己PR動画」が採用選考に使われることへの考え方も就活生に聞いているが、6割以上が「反対」(利用したくない)、「どちらかといえば反対」と答えている。

HRテック(人材×テクノロジー)が進化し、就活や採用の手法についても過剰ともいえるほど情報化が進んでいる。社会人より知見や知識が少ない学生の多くが、そうした大人たちが進めていく技術についていけず、警戒感や不信感を抱く結果につながっているかもしれない。

HRテックやAIなどで、就活や採用をより便利に、より効率的にできる部分もあるが、就職情報会社を筆頭に、各企業は「学生目線での採用・就活」を考えていく必要があるだろう。