主婦がパートに出る場合年収で「103万円」「106万円」「130万円」などの「壁」を超えないようにする。だが、いつまで主婦の優遇策が続くかは不明だ(写真:つむぎ/PIXTA)

私はファイナンシャルプランナーとして活動していますが、先日、「扶養」をテーマに行政主催の講座でお話をしました。講座の参加者はほぼ全員がアラフィフの主婦たち。彼女たちの最大の関心事は「損をしない働き方を知りたい」でしたが、夫たちはこんな妻たちの声を知っているでしょうか? パートやアルバイトで働く妻たちに共通する悩みは、「結局、自分はいくら稼いだらいいの?」に尽きるのです。

「妻の社会保険の壁」と「夫の配偶者控除の壁」

今の扶養制度では「103万円」「106万円」「130万円」「150万円」など「年収の壁」がいくつもあります。複雑すぎてよくわからないので、結局、「壁」の金額で最も少ない、妻が自分で税金を納める必要もない103万円以内で働いているというケースが少なくありません。しかし妻の年収が「壁」に収まれば損しないというわけではありません。なぜなら、税金、年金、健康保険、夫の会社の扶養手当など、それぞれ異なるルールがあるからです。

パートの「年収の壁」について整理すると、「103万円」の壁を超えると妻本人に税金がかかり、夫の会社からは家族手当が出なくなります。家族手当については会社によりルールが異なりますが、妻の年収103万円以下と定めているケースが多いです。「106万円」と「130万円」の壁を超えると妻自身が社会保険に加入することになります。夫の社会保険の扶養から外れるため、妻は健康保険と年金の保険料負担が発生します。

「106万円」と「130万円」の違いですが、一定規模以上の会社で働くと年収106万円以上で厚生年金・健康保険に加入することになり、上記の規模以外の会社で働いて年収130万円を超えると、自分で国民年金・国民健康保険に加入することになります。社会保険料を負担すると、手取り収入は約15%減ります。

そして、妻が「年収150万円」の壁を超えると、夫は配偶者控除を受けることができなくなります。夫の所得税が増えるわけです。ただし、夫の所得が一定の範囲内であれば、妻が「年収201万円」までなら、夫は配偶者特別控除を受けることができます。

1つ、具体的なケースをご紹介しましょう。

私のところへ相談に来られた会社員のAさん。「妻に、このまま扶養内で働くほうがいいのか、それとも扶養を気にしないで働くほうがいいのか」と迫られ、困っていました。Aさんは毎月の家族手当や配偶者控除を受けられなくなるのはマイナスと考えていましたが、私は、冒頭の扶養講座の主婦たちの声を思い出し、こう答えました。

「奥様はもうすぐ50歳です。扶養を外れて働くとしたら年齢的にラストチャンス、と内心思っていらっしゃるかもしれません」

Aさんの考えるとおり、「コスパ」を考えたらこのまま妻が扶養内で働くことは道理にかなっています。しかし、そもそも扶養とはAさんが会社員であるからこその制度。Aさん自身の状況変化や制度の変更による影響を考えておく必要もあるのです。

状況変化とは会社員でなくなる可能性です。アラフィフ世代のAさんが健康状態や会社の状況次第では早期退職をする可能性もゼロとはいえません。扶養制度そのものの動向も注視する必要があります。最近になって「106万円」の壁ができたように、今後社会保険加入の範囲が狭まる可能性もあります。

扶養の「賞味期限」が切れると痛手を被る

要するに、扶養には「賞味期限」があるということです。期限切れ前に行動を起こさないと後悔するかもしれません。Aさんのようなアラフィフ夫婦の場合、妻は年齢が少しでも若いうちに扶養を外れることも考えないと、いざ扶養を外れようと動き出しても、就業先が見つからないかもしれません。

5歳以上妻が年下になる年の差夫婦の場合は、年金について注意が必要です。会社員の夫が65歳で老齢基礎年金の受給資格を満たす時点で、妻は第3号被保険者から第1号被保険者に切り替わりますが、例えば7歳離れた夫婦の場合、夫が65歳になった時点で58歳の妻は国民年金保険料を60歳まで自分で納めることになります。夫が早期退職した場合には、妻自身で納める年数がさらに長くなるのです。これも、扶養の賞味期限切れから起こることです。

Aさんによると、妻は20年間パートで働き年収を103万円に抑えている、とのことです。「年収の壁」を超えると、どう変わるかをお伝えしました。

103万円を超えると、妻自身に所得税(5%)と住民税(10%)がかかります。仮に、年収104万円になると、所得税500円と住民税1万1,000円(東京都内在住)を納めることになりますが、さほどインパクトはないと思います。しかし、Aさんの会社から家族手当の支給、年間14万4,000円(毎月1万2,000円)がなくなるのは痛手でしょう。

では、妻の収入が、社会保険に関わる106万円と130万円の壁を越えると、どうなるのか。一定規模以上の会社で働く場合、年収106万円以上で社会保険に加入することになり、妻は自分で厚生年金と会社の健康保険の保険料を納めることになります。一方で、上記の規模に該当しない会社で働くと、年収130万円を超えた時点で国民年金と国民健康保険に加入することになります。

ここで大事なのは、国民年金・国民健康保険と、厚生年金・会社の健康保険との大きな違いを理解しておくことです。

厚生年金に加入して働くと、自動的に終身年金もつくれる効果があります。国民年金の場合、65歳から受け取る老齢基礎年金は満額で約78万円(毎年改定されます)、扶養内であれば保険料を納めることなく受給できる年金です。一方、老齢厚生年金の場合、妻が年収150万円で15年間働くとしたら、65歳から約12万円の受給額アップ、90歳までの25年間では約310万円のアップになります。

ちなみに150万円を超えると、Aさんは配偶者控除の税金控除がなくなりますが、150万円超から201万円までは配偶者特別控除があるので、気にするほどのマイナスインパクトはありません。それよりも妻の厚生年金は収入と加入期間に比例して増えていくので、家計全体でのメリットは多くなります。

会社の健康保険加入で傷病手当金も受け取れる

また、妻自身が会社の健康保険に加入すれば、「傷病手当金」も受け取ることができるようになります。これは、国民健康保険にはない手当です。ケガや病気など働けない状況で給料が支払われない場合、最大1年6カ月まで、給料の3分の2の手当が支給されるのです。

妻が扶養を外れると、家族手当のマイナス分は確かに大きいのですが、手当の制度は将来的に変わることもありえます。会社や国の制度変更は夫も妻もコントロールできません。何となく妻は扶養内で働くのが当たり前と考えていたAさんでしたが、妻から迫られたことをきっかけに、考えを改めたようです。

「実は役職定年で年収が減ることも妻は察してくれていたのでしょうね。妻が扶養を超えて働く気持ちがあることを知り、何だかうれしく、同時に頼もしくも感じています」

夫婦円満は、家計円満ですね。今後のAさんご夫婦を見守っていきたいと思っています。