【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.19】「風をつかまえた少年」

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こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
さて、世間というか子供たちは夏休み。親子向けやヤング向けの映画がこの時期は多いように思います。
マツコは子供いませんが、小学生と幼稚園児の甥&姪がいまして、「一緒に映画を見に行く」ひいては「映画好きに育てる」という勝手な目標があるのです。
とはいえ、彼らも親と一緒にディズニーやコナンなどの作品を見る機会はあるようで、となると何かマツコならではのセレクトをしたい……叔父さんと素敵な映画を見に行ったという思い出を植え付けたい(笑)。

そんな折、この映画見せたい! と思ったのが、今回紹介する『風をつかまえた少年』。
アフリカに住むわずか14歳の少年が、その頭脳をもって風力発電装置を開発し、干ばつによる食糧危機に苦しむ村を救ったという実話がベースになっています。
学ぶことの意味とともに、困難に対して自分で道を切り開いていくことの大切さを教えてくれる、熱い熱い映画でした。

奇跡のストーリーの舞台は、アフリカの南東部に位置する内陸国・マラウイ。すみません、この国の存在を知りませんでした。アフリカだけでなく、世界的に見て最貧国の1つだそうです。

主人公のウィリアム(マックスウェル・シンバ)は真新しい制服に身を包み、晴れて中学校に入学します。
父親のトライウェル(キウェテル・イジョフォー)と母親(アイサ・マイガ)の期待を一身に背負って。
ところが、登校初日に「学費を払わなければ退学だ」と先生に言われてしまうのです。
マラウイでは中学校は義務教育ではなく、就学率はわずか15%ほど。さらに学費の支払いや制服の購入等、金銭的な理由で中退してしまう子供もたくさんいるそうです。
ウィリアムの姉アニー(リリー・バンダ)も大学進学を希望しているのですが、こちらも金銭的な目途が立ちません。

ウィリアム一家にお金がないのは、度重なる天候不順による穀類の不作が理由。
アフリカって聞くと、雨が降らず日照りに苦しんでいるのかなと思いましたが、実は日照りだけでなく猛烈な雨による洪水被害もあるんですね。
理科が得意なウィリアムは、自分でバッテリーを作ってポンプで畑に水を引こうと考えるのですが、退学はほぼ決定的に……。
この辺まで見るとかなり辛くなってきますが、大丈夫です。タイトルは『風をつかまえた少年』ですから。風、つかまえますから安心して見てください(笑)。


運命を動かすのは、ウィリアムが学校の図書館で見つけた「エネルギーの利用」という本。
この映画は彼のサクセスストーリーですが、彼を後押しした2人の女性の存在にも感動しました。
1人は学校の教員であるエディス先生(ノーマ・ドゥメズウェニ)。
退学処分となったウィリアムはせめて図書室で勉強したいと申し出るのですが、規則上は良くないと思いながらも先生は彼を受け入れます。
さらに、学費未払いのまま授業を受けようとしたウィリアムを追い出した校長に対し、「授業に忍び込んでるのではなく、収穫の仕事を抜け出したと考えては?」と言うのです。
こういう先生がいて本当に良かった……。


もう1人はウィリアムのお母さんアグネス。両親ともに子供たちの輝かしい未来を願ってはいるのですが、収穫ができず追いつめられるうちに、だんだんとお父さんの教育意識もすり減ってしまうんですね。ウィリアムが廃品を集めて小さな風車を作り、いわば風力発電の原型を父親に見せるも、「ガラクタは捨てろ」と言われてしまう。この状況を打開するのがお母さんです。
彼女は結婚するときに「先祖のように雨乞いはしない。文明が発達したから子供は学校に入れる」と夫と約束したといいます。
神頼みではなく自分たちで問題を解決しなければならないという決意と、息子のひらめきをつぶしたくないという母親の愛情に、夫トライウェルも心を動かされるのです。

伝統や慣習にとらわれ、権威や規則にしがみつく男性たちに比べ、女性たちの冷静かつたくましいこと!
オジサンたちしっかりしてください、ほんとに。


ハッピーエンドではあるものの、手放しでああ良かったとも思えません。
ストーリーの大半はこの国が抱える問題に割かれていて、中央政府に見放される地方、民主主義と言いながら自由に意見を述べることが許されない体制etc.と、問題山積み!!
そもそも、14歳の少年の発明がなかったらと思うと……。

あと、結局お姉さんのアニーは大学に行けなかったそう。
結婚して幸せな生活を送っているとのことですが、学校に行きたい人が行ける社会に今のマラウイが、なっていますように。

今の日本だと、何のために勉強するのかと感じてしまう子供が多いかもしれません。実際、1人の子供が風力発電を独学で開発する必要はないわけで……。
でもこの映画を見たら、知識が自分の武器になるということは絶対に分かると思う。
このストーリーをぜひ教育の場で使うべきなのでは! と息巻いていたら、とっくに絵本が出ていました(笑)。
絵本も読んでみたいです。
 

「風をつかまえた少年」 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国公開中
配給:ロングライド
© 2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回8/16(金)は「シークレット・スーパースター」です。お楽しみに!