いよいよ8月9日(日本時間8月10日)に幕を開けるフランスリーグ「リーグ・アン」の大本命は、もちろん今シーズンも圧倒的な戦力を誇るパリ・サンジェルマン(PSG)だ。目下リーグ2連覇中で、しかもここ7シーズンで4連覇を含む6度の優勝を果たしているのだから、それも当然である。


ネイマールはパリを離れるのか、それとも残留するのか

 ただし、国内三冠が最低ノルマと言われた昨シーズンは、シーズン終盤戦にまさかの失速。国内ではケタ違いの予算を使いながら、5連覇中だったリーグカップに加え、4連覇中だったフランスカップまで失う大失態をおかしてしまった。

 そういう意味では、就任2年目を迎えるトーマス・トゥヘル監督にとって、今シーズンは背水の陣となる。たとえ2021年6月まで契約を延長したとはいえ、仮にシャンピョナ(国内リーグ)優勝とチャンピオンズリーグ(CL)4強以上の成績を残せなければ、おそらくこのクラブの指揮官として生き残ることはできないだろう。

 そんな極めて高いハードルに挑まなければならないことを考えると、開幕を目前に控えた現在のチームは、決して万全とは言えない状況にある。第一に、ここまで満足のいく補強ができていないのが誤算だ。

 たとえば、噂された大物GKの獲得については、いまだに状況は見えてこない。

 現状、ジャンルイジ・ブッフォンが古巣ユベントスに戻ったほか、レンタルバックしたケヴィン・トラップも開幕直前にフランクフルトに完全移籍。チェルシーU−23から獲得した19歳マルシン・ブルカは将来を見据えた補強のため、アルフォンス・アレオラのみで開幕を迎えることになっているのだ。

 また、指揮官が昨シーズンから求めていた守備的MFの補強については、数々の噂が流れたなかで、最終的にエバートンから加入したイドリッサ・ゲイェに落ち着いた。

 ただ、セネガル代表の彼については計算できる即戦力ではあるものの、CLで4強を目指すには心もとないのも事実。8月3日に行なわれたトロフェ・デ・シャンピオン(フランス・スーパーカップ)では4−3−3のアンカーをマルキーニョスが務めたが、このままでは昨シーズンに続いて大一番で再び失態が繰り返されることになるだろう。

 その他の新戦力としては、前線にパブロ・サラビア(前セビージャ)、中盤にアンデル・エレーラ(前マンチェスター・ユナイテッド)、最終ラインにアブドゥ・ディアロ(前ドルトムント)など、各ラインに即戦力を補強したものの、スタメンを奪えそうな駒はいない。要するに、現有戦力をベースに選手層に厚みを増す補強にとどまっているのだ。

 そして、チームが万全ではない最大の原因となっているのが、ネイマールの去就問題である。

 本人が移籍を希望していることが周知の事実となり、確実に放出の可能性が高まっている。だが、ネイマール獲得に必要な莫大なマネーを用意できるクラブがあるかどうかが最大のネックだ。残留する可能性も十分にあり、その場合、ネイマールはファンやメディアからの逆風にさらされながらプレーせざるを得なくなる。

 もっとも、これら不安要素があったとしても、PSGがリーグ3連覇を果たす可能性は高い。あとは、6年ぶりに復帰したレオナルドSD(スポーツディレクター)が大物補強の案件を、いかに実現できるかに注目が集まる。

 一方、打倒PSGの筆頭候補リヨンは、7連覇を果たした黄金期の中心選手ジュニーニョ・ペルナンブカーノが新SDに就任したことで、ひとつの転換期を迎えている。その象徴が、旧ユーゴのウラジミール・コバチェヴィッチ(1981〜1983年)以来、クラブ史上ふたり目の外国人監督となったブラジル人のシウヴィーニョ新監督の招聘だ。

 しかし、シウヴィーニョにはアシスタントコーチの経験しかなく、監督は初挑戦。新SDがU−23ブラジル代表コーチだった彼を引き抜いた格好だが、この大博打が吉と出るか凶と出るかが、今シーズンの行方を左右する最大のポイントになりそうだ。

 しかも、今夏はFWナビル・フェキル(ベティス)、MFタンギ・エンドンベレ(トッテナム・ホットスパー)、左SBフェルランド・メンディ(レアル・マドリード)を放出。莫大な移籍金収入を手にした一方で、新戦力補強ではリールからMFチアゴ・メンデスと左SBユスフ・コネ、そしてサンプドリアからCBヨアキム・アンデルセンを獲得した程度。まだ本気で打倒PSGを誓ったとは言えないのが実情だ。

 また、ポルトガル人アンドレ・ビラス・ボアスが新監督に就任したマルセイユに至っては、リヨン以上に寂しい夏を過ごしている。このままでは、今シーズンもCL出場権獲得は厳しいと言わざるを得ない。

 移籍金を投じた今夏の補強は、マリオ・バロテッリ(無所属)が去った代わりに獲得したアルゼンチン人FWダリオ・ベネデット(前ボカ・ジュニオルス)のみ。最大の補強ポイントだったCBには、ビジャレアルからアルバロ・ゴンサレスをローンで獲得した。そこからも、現在クラブが抱える財政事情問題がうかがえる。

 逆に期待できそうなのが、3シーズン前にミラクルを起こしたモナコだ。

 昨シーズンはケガ人続出とフロントの迷走によって混乱し、まさかの残留争いを演じる羽目になった。だが、本来の実力からすれば、モナコはCL出場権争いに加わってしかるべき強豪のひとつ。昨シーズン途中に復帰したレオナルド・ジャルディムの手腕を持ってすれば、打倒PSGの最有力と見ていい。

 また、今夏の移籍市場では過多だった人員の整理と、弱点を補うためのピンポイント補強を実行。冬の移籍でアトレティコ・マドリードからローン加入したFWジェルソン・マルティンスの買い取りに成功したほか、昨シーズンのモンペリエ躍進に貢献したGKバンジャマン・ルコントと右SBルベン・アギラールを獲得するなど、戦力アップに成功している。

 現在はFWラダメル・ファルカオの去就に注目が集まるが、仮にファルカオが出ていけばそれに代わるストライカーを獲得する資金力もあるだけに、大きな問題にはならないはず。いずれにしても、ジャルディム監督の戦術浸透が最大のキーポイントとなるだろう。

 それ以外にも、昨シーズン2位のリール、ジュリアン・ステファン監督の手腕によって躍進したリーグカップ王者レンヌ、そして就任2年目を迎えるパトリック・ヴィエラ監督の真価が問われるニースなど、上位争いに加わりそうな中堅チームの存在も注目に値する。

 移籍の噂もある酒井宏樹(マルセイユ)、負傷で開幕戦出場が危ぶまれる昌子源(トゥールーズ)、ストラスブールと契約延長を果たした川島永嗣といった日本人選手の活躍ぶりも含めて、今シーズンのリーグ・アンも見どころの多いシーズンになりそうだ。