かんぽ不正、マスコミがなぜか報じない「郵便局の深すぎる闇」の正体

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かんぽ生命の不正販売問題が、多くの人に衝撃を与えました。

しかも、調査が進むほどに、被害者はまだまだ増えていきそうです。

実は、この不正問題の根底には、脈々と続いてきた、郵便局が抱える闇があります。その闇が、郵政民営化によっていっそう大きく広がってしまった可能性があり、郵政民営化そのものを揺るがす大問題に発展しそうです。

年間約3000人の「大量懲戒処分」…

郵便局は、日本津々浦々まで2万4000店舗あり、最も身近な金融機関として多くの人に愛されてきました。

その絶対的な信頼を得てきた郵便局で、民営化前、職員の100人に1人が懲戒処分になっていたと言ったら、皆さんは、信じるでしょうか。

たぶん、信じられないという人が多いと思いますが、実は、民営化前の日本郵政公社は、年間に約3000人もが懲戒処分されるようなとんでもない組織だったのです。

〔photo〕gettyimages

日本郵政公社が民営化されたのは、2007年10月。以下の表は、その1年前、2006年に国が管轄する組織の中で、どれくらいの数の懲戒処分者が出ているのかを、数の多い順から5つ並べたものです。

2006年といえば、「消えた年金」が炸裂する前の年で、社会保険庁職員による保険料の横領、着服や、死亡者をでっち上げて年金を着服するなどの不正が次々と明るみに出て、逮捕者が続出していました。

このため、世間の批判の目は社会保険庁に向いていました。

ところが、実際にはこの社保庁の懲戒処分者の数字がかわいく見えてしまうほど、日本郵政公社は大量の懲戒処分者を出していました。

その数、2859人。当時の職員数で割ると、100人に1人が懲戒処分を受けた計算です。

しかも、ここには、表立って処罰された人数しか出ていません。犯罪が発覚する前に、退職金を丸々もらって辞めていってしまった人はカウントされていません。こうした人の正確な数字はわかりませんが、そこまでカウントしたら、3000人を上回る可能性はかなり高いのではないでしょうか。

しかも、前年の2005年に比べると、処分の対象者は586人も増えています。

犯罪の巣窟といった様相

当時の日本郵政公社では、現金の過不足事故がなんと年間27万件も発生していて、相談系コールセンターへの苦情は、2005年の11万件が、2006年には1・5倍の約19万件に急増していました。

日本郵政公社は民営化を前にして、不祥事の多発を未然に防ぐために、2003年4月にコンプライアンス推進体制を作り、委員会が設置され、責任者も置かれました。けれど、不祥事が減るどころかその後に増えているのですから、この制度自体が機能不全に陥っていたといってもいいでしょう。

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ちなみに、郵便料金や貯金の預入金、保険料等の横領や窃取、詐取、諸手当の不正受給、賄賂の数だけを見ると、2003年は131件、2004年は126件、2005年は117件、2006年は134件あります。しかも、ここでの処分者は末端の郵便局員ではなく、主任、課長、局長代理など、本来は不正を取り締まる側の人が約7割を占めていたのですから、呆れてしまいます。

加えて、2006年9月には、郵便振替払込書など、本来は保管しておくべき顧客書類1443万件を、全国の事務センターで誤廃棄していたことが発覚。

郵政民営化前の日本郵政公社は、まさに犯罪の巣窟といった様相を呈していました。

ここまで見てきたように郵政民営化前の日本郵政公社は、犯罪多発地帯でしたが、中でも最も犯罪率が高かったのが簡易保険でした。

保険料の横領、着服などの悪質な内部犯罪の摘発は、2003年が12件、2004年が15件、2005年が26件、2006年が17件。

さらに、契約者に嘘をついて募集したり、重要事項の説明をしっかりしていなかったり、加入者が健康状況の告知を行っているにもかかわらずそれを申し込み用紙に記載しなかったりという、保険を扱う者にあるまじき不正募集は2006年度だけでも88件ありました。また、簡保は、窓口で面接して加入させる制度になっていますが、無面接で加入させていた例も67件ありました。

顧客情報の漏えいや紛失等の事例も多く、さらに、システム障害を相次いで発生させ、10万件を超える契約者に影響を与える事故も起きています。

郵政民営化で廃止された「郵政Gメン」

当時、総務省は各部署に対して業績評価を行なっていましたが、簡易保険のサービス向上への取り組み評価は、AからEまでの5段階評価の下から2番目のD。サービス向上への取り組みの遅れが指摘されています。

こうした状況の中で、不満を募らせた客が、保険料を払わないまま契約切れになる失効や解約が相次ぎ、2006年度には、失効と解約の合計がなんと175万件にものぼりました。

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ただ、こうした日本郵政公社での犯罪は、放置されていたわけではありません。

民営化以前の郵便局には、犯罪を取り締まる警察制度とも言える「郵政監察制度」があり、700 名の「郵政Gメン」とよばれる人たちが、郵便貯金や簡易保険などで不正がないかチェックし、ハガキや切手などの金券類の偽造や変造、郵便為替を用いた詐欺などの犯罪に目を光らせていました。「郵政Gメン」には強い権限があり、その捜査では、逮捕状まで請求できました。

ところが、郵政民営化に伴って、内部に目を光らせて不正を摘発する「郵政監察制度」は廃止され、代わりに日本郵政(株)の中に監査部門が新設されました。

ただ、残念ながら新しくできた監査部門は、コンプライアンスのチェック部門なので、「郵政Gメン」のような司法検察権は与えられていませんでした。

結果、もともと犯罪体質が強かった組織だったにもかかわらず、チェック体制が効かなくなり、事実上、犯罪が野放しになってしまった可能性があるのです。

さらに、日本郵政公社時代には国の機関だったので、情報公開の義務があり、前述のような犯罪記録なども請求すれば出してもらえたのですが、郵政民営化で郵政グルーブが民間企業になると、ここまでの情報開示義務がなくなり、内部犯罪の実態はわからなくなってしまいました。

不祥事が、それほど大きく出てこなくなったので、郵便局は民営化で生まれ変わったと多くの人が思ったかもしれません。

けれど、今回のかんぽ生命の不正事件を見ると、昨日今日のことではなく、民営化後も郵便局の闇は広がり続けていたことがわかります。

「犯罪体質」がますますエスカレート

かんぽ生命の保険の不正販売で多いのが、保険の「二重加入」と保険の「乗り換えの空白」。

「二重加入」とは、それまで加入していた保険をやめて新しい保険に入り直すときに、前の保険を半年以上加入したまま新しい保険に入るというものです。通常は新しい保険に加入したらすぐに前の保険を解約しますが、かんぽ生命の場合、半年以上二重契約をさせておけば、すぐ解約するのに比べて2倍の手数料がもらえる仕組みになっていました。

一方の「乗り換えの空白」とは、保険に入り直すときに、まず前の保険をやめさせ、3ヶ月以上ブランクを空けてから新しい保険に入るというもの。これも、新しい保険に入ってからすぐに前の保険を解約するよりも、手数料が2倍多くなります。

ただ、前の保険をやめてから3ヶ月の間に病気を発症し、次の保険に入れない無保険者が続出して大問題となっています。

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こうした一連の不正を、郵政グループ幹部は、郵便局員個人のモラルハザードで起きていることだということで処理しようとしてきました。

けれど、これは一個人の犯罪というよりは、そうせざるを得ない状況へと末端の職員を追い詰めていった組織の責任が大きいのではないでしょうか。

もともと、犯罪体質が払拭しきれていなかった組織の中で、その犯罪をますますエスカレートさせざるを得なかった背景には、郵政民営化で厳しい環境に置かれた郵政グループの焦りがあったのでしょう。

民営化企業がユニバーサルサービスを抱える矛盾

民営化後の郵政グループは、財務省が日本郵政の株の3分の1以上をもち、この日本郵政が日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の持ち株会社となる、4社体制でスタートしました。

ただ、実際には、日本郵政、日本郵便を、金融2社のゆうちょ銀行とかんぽ生命が支えているというのが実態です。

日本郵政の2019年3月期の売上高に相当する日本郵政の連結経常収支は13兆円弱ですが、売り上げの大半は、ゆうちょ銀行(1・8兆円)、かんぽ生命(7・9兆円)と、金融2社が稼ぎ出しています。純利益は約4800億円ですが、こちらも、ゆうちょ銀行(約2700億円)、かんぽ生命(約1200億円)と、金融2社に頼っている状況です。

こうした中で、焦りを感じた日本郵政は、国際物流に乗り出すべく2015年に6200億円でオーストラリアの物流企業「トール」を買収しました。しかしこれも大失敗となり、2016年度の決算で4003億円の損失を計上しています。

郵便局を抱える日本郵便も、金融2社に頼らざるを得にない状況は同じです。窓口業務や手紙、切手、ゆうパックなどで約4兆円の売り上げを上げていますが、その内訳を見ると約1兆円は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の商品を販売して稼ぐ「窓口業務手数料」です。

メールが普及して手紙離れが起きる中、ドル箱のゆうパックも、人手不足や人件費の高騰などで、伸びが鈍ってきています。

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そもそも日本郵便は、郵政民営化とともに、民間企業と言いながら郵便業務のユニバーサルサービスを行っていくことが義務化されました。つまり、62円のハガキ1枚であっても、船に乗って遠くの離島まで届けに行かなくてはいけないという、民間の会社ならは当然拒否するようなコスト割れの業務も、やらなくてはいけない義務を負わされているのです。

ですから、初めから収益が上がりにくい体質になっていて、こうした中で収益を上げるために、年賀状販売のノルマをこなせない郵便局員が年賀状を自分で買い取る「自爆営業」を強制されたり、局をあげてのパワハラで自殺者まで出ています。

こうした状況の中で、ゆうちょ銀行やかんぽ生命の投資信託や保険を売ることは、郵便局が生き残るための重要な鍵になっていて、そのため、現場の局員がノルマ達成のために無理な営業を繰り返していたことは容易に想像できます。

税金を使うなら、郵政民営化そのものが問われる

郵政グループは、極端に言えば、ゆうちょ銀行、かんぽ生命という金融2社に支えられています。

ただ、ゆうちょ銀行、かんぽ生命は安泰かといえば、そうではありません。

ゆうちょ銀行は、通常の銀行のような貸出業務ができないので、預かったお金を市場で運用しなくてはなりませんが、長引く日銀の金融緩和で債券市場は脳死状態になり、株や為替はリスクが高まっているという状況。かんぽ生命も、民業を圧迫しないように「上乗せ規制」が課されていて、保険金の上限は2000万円と小口。大手生命保険会社と対等に勝負していくには足かせが大きいのです。

結果、2社とも売り上げや純利益が減少傾向にあり、経営は徐々に苦しくなりつつあります。

グループ全体が、「沈みゆく巨艦」の様相を呈している中で、吹き出したのが、今回の不正事件。最終的な不正件数は50万件を上回る可能性があり、この損失を補填するだけでなく、当面、新規の保険募集をしないとなれば、ますます経営は泥沼化していく可能性があります。

それを見越してか、株価も最高値の半分にまで下落し、この株で儲けようとした国にとっても大誤算ということになりそうです。

それどころか、信用力が著しく低下してしまった郵政グループは、多額の補償その他で経営が成り立たないという状況になる可能性もあります。

通常の株式会社なら、会社が立ち行かなくなったら経営破綻して終わります。けれど、郵便局は、現在も実質的には国有企業なので、普通の企業のように破綻させることができません。

そうなれば、私たちの税金で救うという議論が出てきてもおかしくないでしょう。
なんのための郵政民営化だったのか。改めて、問われている気がします。