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◆混乱の末に西野朗氏就任が無事決まったタイ代表

 先月7月1日、日本代表前監督の西野朗氏がタイ代表監督就任……と、タイのサッカー協会が契約前にフライング発表をしてしまい、あわや白紙かと思われたが(参照:HBOL)、タイ人の熱意と交渉力もあってか、無事、西野氏は正式に契約を結んだ。

 これによって、タイのサッカーは大きく飛躍することは間違いない。ワールドカップ出場も現実的に考えてもよさそうなところにまで来たとも言える。タイ・サッカー協会も元より采配の権限はすべて西野氏に委ねると言っており、西野氏も大いに活躍できそうである。

 ただ、サッカーでは、一般的には監督になる人はコーチ陣などは戦略や指導の理解が深い「自身のスタッフ」ともいえる人たちを据えることが多いという。しかし、西野氏は日本から誰も連れて行かず、身ひとつでタイに乗り込む。

◆西野体制とタイサッカー界はうまくやれるか?

 タイ協会側はすべてを西野氏に委ねるということで、スタンスとしてはそれでも問題はないとはしている。一方で、そうなると逆に懸念されるのは、協会自体がそのスタンスをいつまで維持するか、という問題点を指摘する声も出てきている。

 日本語がからきしなサッカー協会の間に立つことになると見られる、タイサッカー協会に籍を置く白木庸平氏はこう言う。ちなみに、白木氏はタイの女子サッカー代表チームでメディカルトレーナーを務めた経緯もあり、協会からの信頼も厚い。

「フライング発表があったこともあり、協会側は今現在こそ西野監督がやりたいことをすべてやらせてくれると思います。でも、タイ・サッカーではよくあるのですが、協会側がのちのち口出しをしてくるようになるかもしれません。つまり、西野監督の課題はタイ代表の育成だけでなく、監督のサッカーとタイ式サッカー、協会の言い分・やり方にどう折り合いをつけていくかになるかもしれないのです」

 タイのプロリーグでも、ベンチにクラブチームのオーナーが入り、監督よりも先に口を出し、そしてそれが優先されるということは日常茶飯事なのがタイ式サッカーでもある。この先、協会が黙っているのかどうか、そのときになってみないとわからないのだ。

◆いろんなこと「しか」起きないと思う

 これに関しては、そのタイのプロリーグに参戦するクラブチームの運営や、現在でもタイ・サッカー協会と日本のJリーグなどの間で調整役として活躍する小倉敦生氏も同意する。

「白木くんの言ってることはタイではよくあることなので、西野監督はとにかく結果を出して行くしかないかなと思います。西野監督も日本人スタッフを引き連れて来ているわけではないので、監督と協会の双方にとってチャレンジになるでしょう」

 西野氏のキャリアは日本においてトップクラスなのは誰もが知るところだ。そんな氏の海外初挑戦。しかも、それが一筋縄ではいかない気質を持つ人たちばかりの国タイ。小倉氏は「いろんなことしか起きないと思ってます」と、不安もありつつ、期待もしている。

「ポテンシャルが高いと言われてるタイ人選手を日本人が指導したらどう変わるのか。楽しみです」

◆タイサッカーの転換点になるか?

 タイのサッカー史上、最高の代表監督を手に入れたことに加え、西野氏を含めてタイ・サッカーに関わるすべての人にとって未知の世界に入ろうとしている。小倉氏は西野氏のサッカーがタイで成功するカギはサポート体制にあると分析する。

「協会のタイ人スタッフ並びに現場の外国人たちで、いかに西野監督が仕事に集中できる環境を整えるか、というところがカギになってくるかと思います」

 そういった事情もあり、タイ・サッカー協会に深く関わる外国人――すなわち小倉氏や前出の白木氏を協会側は配置しようとしていると見られる。2人(※取材時点での情報で、ほかに協会が推す外国人がいる可能性もある)を受け入れるかどうかは最終的には西野氏の判断になるが、タイ・サッカー協会も現状は西野氏が思う存分に動けるよう、できる限りのオプションとして彼らを提案し、結果を出すための策を打っていると見られる。

「現時点ではやってみないとわからない部分が多く、時間も限られてるので、走りながら修正し、なおかつ結果を求められるという、西野監督にとっては相当タフな仕事になると思います」

 タイ・サッカー協会はこれまでとはまったく違う環境を自ら作り、タイ式サッカーからの脱却を目論んでいる。その最大のキーマンになるのが西野氏である。あとは、協会の幹部陣らが「いつものタイ式」が鎌首をもたげないことを祈るばかり。西野氏のタイ代表監督就任は、案外、ヒューマンドラマを生で観るようなおもしろさが、実は裏側にはあるようだ。

<取材・文/高田胤臣>

【高田胤臣】
(Twitter ID:@NatureNENEAM)
たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)