「この日本で『リア充』な人たちとは、大都市圏の土地持ちとその子孫だ」と古谷氏は言い切る。世の勘違いにもばっさりダメ出しする(撮影:尾形文繁)

真の「リア充」とはどんな人たちを指すのだろうか。彼氏や彼女がいて、毎日が楽しい人たち? 有名大学卒の外資系エリートビジネスマン? それとも異性にもてるイケメン?

これらは全部当たっていない。実は「日本型リア充とは、大都市圏の土地が安かった時代に土地を買った人たちと、その子孫たちだ。日本型リア充は土地を媒介にした特権階級であり、土地を持たない人との格差は絶望的に大きい。

『日本型リア充の研究』(自由国民社)の著者であり、インターネットやネット保守、若者論など幅広い言論活動を展開する、古谷経衡氏を直撃した。

東京・中野の50坪は、70年前100万円、今1億円

――このテーマで執筆しようと思ったきっかけを聞かせてください。

「格差」がよく話題になりますが、若者と高齢者など、世代年齢の離れた者同士の格差です。資産を持つ高齢者と持たない若者、年金を潤沢に受け取る高齢者と受け取れない若者、といった具合です。しかし、若者の中でも深刻な格差があるのに、この格差に言及されることはあまりありません。この同年代間における格差について、指摘したくて、本書を書きました。

――深刻な格差とはどのようなものですか。

日本における「最高の勝者」とは、大都市圏の地価が低かった時代に土地を買った人たちと、その子や孫です。例えば中野区では、1961年の宅地価格は坪2万〜3万円。つまり70年前の中野では、50坪の土地をたった100万円で買えました。

1961年の物価水準は、大卒初任給を基準に計算すると、現在の約15分の1です。よって当時の100万円は、現在の1500万円に相当します。しかし、たった1500万円です。これならば35年ローンという、気の遠くなるローンを組む必要はありません。

頭金500万円で残額1000万円を、返済期間10年、固定金利5%で借りたとすると、月々の返済金額は11万円未満です。これならば賃貸住宅に住むのと変わりありません。年収400万円の人でも何とかなるでしょう。さらに当時は高度成長期のまっただ中なのですから、5年で土地を取得することもできたかもしれません。

一方、現在、東京23区内の平均的な住宅地では、1坪200万円はします。バブル時より値下がりしたといっても、安くはありません。50坪購入には1億円必要です。頭金を500万円として、金利2%固定、返済期間35年として計算すると、毎月の返済額は30万円を超えます。

10年未満で都内に土地を取得できる者と、35年かけて不当に高い土地を購入する者。その差は返済期間にして25年、金額にして8500万円という差があります。

――都内の住宅地に安く土地を取得した人たちの子供や孫が勝者だというのですね。

もはや1500万円で都区部内の住宅地50坪を買うことは絶対できません。しかし、先行取得者の子どもや孫は、タダ同然で土地を相続することができます。実は相続税を気にする必要もほとんどありません。2017年の統計では、死亡者数に対する相続税の課税件数の割合は、8.3%にすぎません。9割以上の相続人は、1円も相続税を支払っていないのです。

相続人はさらに資産を増やす道があります。50坪のうち、その4割に当たる20坪を分筆して他人に売ることもできるし、小規模アパートを建てて貸すことも可能です。単純計算で坪200万円とすると、分筆で4000万円が懐に転がり込みます。

――この勝者が日本型リア充ですか。


古谷 経衡(ふるや つねひら)/文筆家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。インターネットとネット保守、若者論、社会、政治、サブカルチャーなど幅広いテーマで執筆評論活動を行う。近著に 『女政治家の通信簿』(小学館新書)、『愛国奴』(駒草出版)、『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』(イースト新書)、『「意識高い系」の研究』(文春新書)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)など(撮影:尾形文繁)

そのとおりです。日本型リア充にはもうひとつ条件があります。行動がつねに衝動的で刹那的であることです。常識的な人間はつねにリスクを考えて行動します。ですから、新しい環境に足を踏み入れるときや知らない人に会うときは緊張するし、慎重に行動します。ところが、世の中にはこうした「新規探索傾向」がやたら強く、自分の考えや行動を顧みることができない人が一定数います。

例えば、ハロウィーンで渋谷に集まり、その場のノリで自動車を横転させて喜んでいるような人です。私はこれを「非内省の人」と呼んでいます。

大都市圏の土地相続人であり、なおかつ、非内省型パーソナリティを有する人が、「日本型リア充」です。単に非内省型であれば、犯罪者になって落ちぶれていくだけですが、「日本型リア充」は土地という財産があるので、罪を犯しても生きていくことができます。

麻生氏は失言、鳩山氏は無反省でも、大丈夫

――実例を挙げていただけませんか。

著名人では元首相の麻生太郎氏や鳩山由紀夫氏が「日本型リア充」を体現していると言えるでしょう。鳩山氏は名門政治家の家に生まれたというだけで莫大な資産を相続しました。彼の刹那的な言動で、日本は大混乱しましたが、彼は一切反省していないし、自己点検もしていません。それどころか、「鳩山イニシアチブ」との造語を作って、大学等で講演を行っています。

麻生氏は鳩山氏よりも多くの財産を親から相続していると思われます。彼は何回も失言し、「失言王」とも言われていますが、それでも失言を繰り返しています。失言で政治家を辞めることになっても、まったく生活には困らないので、深く考えることなく同じことを繰り返します。

――著書には「日本型リア充への敵視ともいえる感情から本書を執筆するに至った。なぜ敵視するかといえば、筆者がその階級に属さないからだ」とあります。持たざる者が日本型リア充に追いつくには、どうすればいいのでしょうか。

繰り返しますが、23区内に50坪の土地を1500万円で買うことは、絶対できません。もし購入するならば、35年間、毎月数十万円のローン返済を続けなければなりません。そこで、はなから家を買うのを諦めて賃貸住宅に徹する、という選択があります。

例えば、千代田区二番町に立地する築47年のワンルームマンションは、月7万3000円(うち管理費1万円)で借りることができます。通常、家賃の目安は月収の3分の1と言われているので、この物件は月収21万円ならば入居可能です。大卒初任給の平均は20万円強なので、新卒社会人でも東京の一等地に住むことが可能です。

ただ、同等の立地条件で同程度の中古マンションを購入するならば、約1500万円かかります。ホテルのシングルルームのような物件を、10〜20年のローンで買う価値があるでしょうか。マンションは老朽化するにつれて資産価値が下がるのに、修繕積立金は高くなります。賃貸は購入に比べて、とてつもなく有利です。

トランクルームを借りるのは最も悪手

――しかし、ワンルームマンションでは狭いですね。

外付けハードディスクの感覚で、田舎に土地を買うという手段があります。大都会の一等地にある狭小な賃貸ワンルームマンションをパソコン本体とすれば、外付けハードディスクとは物置や小屋にあたります。

田舎に土地を買って、そこに物置を建てるか、建物付きの土地を購入するのです。物置といっても、ホームセンター等で売っている横開きドアの小さな樹脂製プレハブではなく、もっと大型のものです。実は30万円あれば、田舎に立派な土地と倉庫を購入できます。田舎ではバブル時に地価が不当に高くつり上げられましたが、現在では何の価値もないと評価されて、タダ同然で売買されています。

部屋が狭いからといって、都心でトランクルームを借りるのは、最も安易で悪手です。都心のトランクルームは、畳1畳分の空間で年間約20万円もかかるのです。

――古谷さんご自身は田舎に土地を取得されたそうですね。

2018年に茨城県稲敷郡で32坪の土地を軽量鉄骨の8.5坪の平屋とともに32万円で購入しました。室内に電灯やエアコンを設置するための電気工事代金や、不動産仲介料、不動産取得税などを入れても総額は、50万円程度です。維持費としての固定資産税ですが、評価が低すぎて、年額わずか5000円です。都会のトランクルームに年間20万円支払うより、こちらのほうが断然いい。

捨てるに捨てられなかった物品を段ボール箱に詰め、レンタルトラックで運び入れて倉庫として活用しています。スペースにかなりゆとりがあるので、趣味の油絵の画材道具一式を置いているし、ガーデニングも楽しんでいます。

大都市の一等地に狭小ワンルームを借りて、その外付けとして田舎に不動産を購入するというのは、日本型リア充に対抗する唯一の手段です。しかし、これは、大都市に住む独身者を想定したプランです。家族を持った場合、こうした生活は難しいでしょう。

狙い目は、イメージよくない埼玉・川口から千葉・松戸

――日本には家族向けの優良賃貸物件が少ないです。家族で快適に暮らすにはどうすればいいのでしょうか。

本書を執筆した目的のひとつは、よそから都会へやってきた人間がいかに土地を取得するのかを示すことです。首都圏であっても土地を取得しやすい地域はあります。東京都を境目として、北側を埼玉県、北東側を千葉県に接した地域で、扇形をしていることから「住宅を取得しやすい帯状の扇状地」と名付けました。

具体的に言えば、埼玉県の川口市、草加市、八潮市、三郷市と千葉県の松戸市の5市ですが、東京都に隣接して通勤通学に便利であるにもかかわらず、不人気エリアとされています。

東京都西部と接する神奈川県川崎市や、都内西部の武蔵野市、三鷹市、調布市などと比べると、著しく不動産価格が低い。なぜ安いのかと言えば、それは単にイメージがよくないだけです。

地方人の「あこがれの大東京に住んでみたい」「東京に対する漠然としたあこがれ」が、東京の地価をつり上げると同時に、日本型リア充の人々に莫大な利益をもたらし続けているのです。

――具体的にはどれぐらいの価格で買うことができるのですか。

東京に隣接する一等地は無理ですが、準二等地に土地や家屋を取得するのは決して難しいことではありません。まず川口市では、川口駅までバス17分で築55年、土地面積28坪、建物床面積71平方メートルの物件がなんと430万円です。古民家といえる状況なので、修繕や補修に100万〜150万円かかるでしょうが、それでも安い。川口駅から東京駅まで乗り換えなしで28分。バス時間を入れても、通勤時間は1時間未満で済みます。

川口市内のマンションは、荒川を隔てた東京都北区マンションと比較すると、1000万円安い。松戸市内のマンションも、江戸川を隔てた葛飾区金町のマンションと比較すると、1000万円安い。松戸は急行が止まるが、金町は各駅しか止まらない。都心部への通勤には松戸のほうが便利ですが、不動産価格は金町のほうが高い。虚栄心など捨てて、この帯状の扇状地で、中古物件を買うべきです。

――帯状の扇状地ではなく、いっそ海外に移住するのはどうでしょうか。

日本国内でデフレが続いている間に、アジア経済が成長し物価が上昇したことで、国内物価とアジアの物価があまり変わらなくなってしまいました。1990年代後半ならばともかく、現在では、アジアへ行ってもよい暮らしができるわけではありません。

タイのバンコクの中心地では、日本のワンルームマンションのような物件が2000万円します。日本に比べれば安いですが、それでも2000万円です。フィリピンの物価はタイより安いものの、インフラが脆弱なので車なども購入しなければなりません。生活費トータルでは1カ月30万円はかかるでしょう。だったら国内の「帯状の扇状地」でいいじゃないですか。

――世間では引きこもりの問題が深刻化しています。彼らは仕事もせず、親の家に住んでいられるのですから、日本型リア充ですか。


彼らは持つ者ではありますが、新規探索傾向はゼロ、またはマイナスなので、単に裕福というだけで「日本型リア充」ではありません。

――世代的に言えば、自動車で暴走する老人たちはどうですか。

プリウスで暴走する老人などが多い、と言われているそうですね。都内に住んで、一定以上の価格の自動車を保有しているのですから、資産を持つ勝者でしょう。そして、これだけ老人の運転は危ないと指摘されているのに、周囲の警告に耳を傾けず運転するのですから、何も考えていないことになります。彼らは日本型リア充、または日本型リア充老人といえるでしょう。

フィリピンも日本も、格差の本質は変わらない

――持つ者と持たない者の格差は、これから解消するのでしょうか。

私は東南アジアが好きでよく行きます。マニラの中心部マカティ地区には、金融機関や外資系高級ホテルが集中しているのですが、同地区の要所要所には検問が設けられて、機関銃で武装したガードマンが侵入者に目を光らせています。富裕層や日本人などの外国人はノーチェックで出入りできますが、フィリピン人のホームレスやストリートチルドレンは出入りできません。

マカティ地区ほどの露骨な隔離政策、階級差別はないにせよ、日本とフィリピンは本質的に変わらないのではないでしょうか。

とくに若年層の間に階級格差が広がっています。一人っ子が多く、相続税がかからないので、第4世代や第5世代にも、土地は簡単に相続されていきます。固着化した世襲は何百年も続く可能性があります。まさに日本の構造的な暗部です。