未婚男性のなかでも最近、「子ども部屋おじさん」が急増中。その原因は意外なところにあるようです(写真:maroke/PIXTA)

最近「子ども部屋おじさん」という造語が、インターネットを中心に大きな話題を呼んでいます。「社会人になっても親元を離れず、実家の子ども部屋に住み続けている中年独身男性」の存在を揶揄(やゆ)するものです。

この「子ども部屋おじさん」の急増により、日本が存続の危機にさらされる可能性があることを、ご存じでしょうか?

ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏の新著『データで読み解く「生涯独身」社会』を一部抜粋して解説します。

いま日本では「未婚化」がものすごいスピードで進んでいます。50歳の時点で一度も結婚経験がない人の割合を示す「生涯未婚率」の数字が激増しているのです。

2015年国勢調査の結果から、すでに日本人男性の4人に1人が「50歳時点で結婚の経験が一度もない」ということがわかりました。一方で、同条件下で結婚の経験がない女性は7人に1人と、その数字には男女で開きがあります。

ちなみに1990年の時点では男性の18人に1人、女性の23人に1人と、生涯未婚率に「男女格差」はほとんどありませんでした。


男性の未婚率は急上昇を続けており「日本の50歳男性の約4人に1人は一度も結婚経験がない」という状況だ。どうして男女で差がついてしまったのか?(図版:筆者作成)

男女の生涯未婚率の「格差」はどのようにして生まれたのでしょうか? 結婚しない男性が急増する理由とは何なのでしょうか? このまま「子ども部屋おじさん」が増え続けるとどうなるのでしょうか――? 一つひとつ、見ていきたいと思います。

結婚願望がないのか、かなわないのか

女性に比べ、男性の生涯未婚率は高くなっています。10年くらい前に「草食系男子」という言葉が流行したこともあり、結婚に興味を持たない「おひとりさま志向」の男性が増えているのでは?というイメージを持つ人も少なくないようです。

しかし、18〜34歳までの若い男女に対して実施された、興味深い調査結果があります。「一生を通じて考えるならば、いつかは結婚したい」と思っている34歳までの若い男女は、2015年の時点で約9割。実は過去30年間にわたってこの割合は大きな変化がないまま推移しているのです。

この調査結果からは「結婚しない」のではなく「その希望がかなわない」人が増えている可能性があることがわかると思います。その原因として、「やはり長期不況のせいではないか?」と考える人も多いようです。

結婚・子育てにはとにかくお金がかかるイメージがあるようですが、実際のところはどうなのでしょうか。

「お金がない」が原因ではなかった!

2014年に実施された、民間シンクタンクによる意識調査で「生涯未婚率はなぜ上昇していると思うか」という質問に対し、既婚者を含む男女ともにいちばん多かった回答は「雇用・労働環境(収入)がよくないから」というものでした。「お金がないから結婚できない」という認識はとても一般的なようです。

しかし、ここに興味深いデータがあります。「結婚生活に最低限必要な世帯年収」について、20〜40代の未婚男女・既婚男女にそれぞれ質問した意識調査の回答結果です。いくつか注目すべきポイントはあるのですが、そのうちの1つを紹介しましょう。

必要と思う最低世帯年収に「400万円以上」を選んだ人は、未婚者では66.1%、既婚者では48.6%でした。「既婚の人よりも独身の人のほうが、結婚生活に求める世帯年収が高い人が多い」ということがわかると思います。

未婚男女は、実際に結婚している既婚男女よりも<結婚後に高い年収が必要>だと考えてプレッシャーを感じているのかもしれません。また、「男性が収入面で一家を支えなければならない」というのも、単なる<思い込み>によるプレッシャーである可能性が高いのです。

日本では共働き夫婦が増えています。厚生労働省の調査で、世帯主が29歳以下の子どもがいる世帯を見ると「平均有業人員」は1.43人となっています。わかりやすく言えば、夫婦のどちらか1人だけが働いているのではなく、もう1人くらいは稼ぎ手がいる家庭も少なくない、ということがわかるデータです。

つまり、男性の収入だけに頼って生活している家庭ばかりではない、ということです。専業主婦(夫)は少なくなりつつある、というイメージは世間的にも広がっているかもしれません。ちなみに、2017年の国民生活基礎調査でも18歳以下の子どもの7割、6歳以下の子どもの6割の母親が有業という結果です。

それでは、「結婚の希望がかなわない」人が「男性」に多いのはどうしてなのでしょうか。

いろいろな分析ができますが、ここではいくつかのポイントに焦点を絞りましょう。

1つ目に指摘しておきたいのは、男性のほうが「婚活」にあたって女性よりも悠長に構えていること。女性は男性と比較して早く行動しています。

2015年国勢調査結果を見ると、20代前半では約9割の女性が婚歴がない(以下、未婚と表記)のですが、20代後半ともなるとその未婚率は約6割、30代前半では約3割にまで縮小してしまうのです。その一方で、30代前半の男性の約半数が未婚のままなのです。

2つ目に指摘しておきたいのは、「年の差婚」の難易度の高さについてです。

「男性は妊娠・出産しないので、婚期が遅くなっても問題ないのでは?」と考えている人も少なくないのですが、実際に統計にもとづくリアルデータを見ると「夫が妻よりも7歳以上年上の初婚同士カップルの結婚」は全体の約1割。つまり、30後半の男性が20代の女性との結婚を望んだり、40代の男性が30代前半の女性を求めたりする場合には、この約1割という「希少枠」に切り込んでいくことになるのです。

もちろん、可能性はゼロではありませんが、相当なレアケースです。若い女性に執着し続けたまま男性が年齢を重ねてしまうほどに、成婚は発生確率的に至難の技となります。

「モテ再婚男性」に女性が集中し、男性余りが発生!?

3つ目に挙げられるのは、いわゆるモテ男性による、<女性の独占>が起こっていることです。男女の未婚者数の格差は、一夫多妻制をとる国では当然のこと。1人の男性が何人もの妻を持つために「男性余り」が生じるのです。

当然ながら日本の法律では一夫多妻制は認められていません。しかし、時間をずらして、1人の男性が初婚女性と何回も結婚することはできます。つまり、女性から人気のある、「モテ再婚男性」が、初婚の女性と結婚を繰り返した結果、統計上男女の未婚者数の格差が生じているのです。

ここで、「子ども部屋おじさん」についても言及したいと思います。「子ども部屋おじさん」とはインターネット上のスラング(俗語)で、広義には「社会人になっても親元を離れず、学生時代と同じ子ども部屋に住み続けている未婚の中年男性」を指します。

「子ども部屋おばさん」だっているはずなのに、「子ども部屋おじさん」ばかりがクローズアップされるのは不公平だ、という意見もよく聞きます。そう言いたくなるのももっともだと思いますが、これまで見てきたように、未婚男性が未婚女性を数と割合で圧倒していますので、客観的に見て、世間で「子ども部屋おじさん」のほうが「子ども部屋おばさん」よりも目立つのは自然な流れなのかもしれません。

子どもが実家からなかなか独立しない(できない)大きな理由の1つとして、親子同居のメリットの大きさが挙げられます。例えば、子どもが社会人になってからも両親と共に3人で暮らしている場合、OECD(経済協力開発機構)の計算方法を用いると、一人暮らしをしたら100万円かかっていたコストが58万円程度で済むのです。

年金を受給している祖父母も加わって5人暮らしをしているともなれば、1人当たりのコストは45万円程度にまで下がります。一人暮らしに比べ、親との同居は圧倒的にコスパがいいのです。

経済的なメリットのほかにも、食事の支度や掃除、近所付き合いを親頼みにできることなど、子どもにとってさまざまな利点があります。しかしその一方で、「結婚しても家のことが何もできなさそう」というイメージが先行するようで、「実家住まい」の男女は婚活市場では人気がありません。

母親の歪んだ“息子愛”が元凶だった!?

また、2016年に実施された興味深いアンケート調査結果があります。母親と父親が、その息子・娘に対して<いつ頃までに結婚してほしいか>を尋ねたところ、父親から息子・娘への結婚希望時期は「20代後半まで」が1位、母親から娘への結婚希望時期も「20代後半まで」が1位であるのに対し、母親から息子への結婚希望時期だけは「30代前半まで」が約4割を占め、1位となっています。

しかし先ほども話しましたが、30代前半になるとすでに同年代では未婚女性が3割程度しか残っていません。では、若い女性と年の差婚をと考えても、初婚を目指す男性についての年の差婚の発生確率は厳しいのです。

「子ども部屋おじさん」を生み出す元凶の1つに、母親による「男の子の結婚は、女の子より遅くていいのよ」という意識があることを、指摘できるデータといえるかもしれません。

「最近の子は親に甘えて親から離れられない」という意見を持つ人もいるかもしれませんが、1つ強調しておきたいのは、子ども側の独立志向は以前に比べて高くなってきているということです。

あるアンケート調査結果では、「できるだけ早く独立したい」あるいは「親との同居は、自分に経済的自立ができるまで」と考えている若い未婚男性は合わせて7割近くもいることがわかりました。父親世代ではその割合が4割以下だったにもかかわらず、です。

日本は1995年以降、既婚者と未婚者を合わせた出生率の合計特殊出生率が1.5未満となる超少子化社会に突入し、すでに20年以上が経過しています。統計的に見ると、日本の既婚夫婦が持つ最終的な子どもの数は長期的にはあまり変化がなく、2人程度で推移しています。


また、婚外子(結婚している夫婦以外のカップルに生まれる子ども)の割合は極めて小さい国なので、統計上有効な少子化対策としては、夫婦の間に生まれる子どもの数を増やそうとする従来の「子育て支援策」よりも、急増する「未婚化対策」により真剣に取り組む必要があるのです。

政策としての未婚化対策がよい結果を出せなければ、日本はこのまま民族絶滅の危機、すなわち<絶滅指定危惧種>に指定され続けます。すでに中国やアメリカの知識層からは「(民族絶滅により)日本の文化が消えてなくなるのは残念だ」といった声までも上がっています。

データからは「子ども部屋おじさん」が急増する背景には「わが子かわいさ」のあまり、いつまでも息子との同居を許してしまう母親と、そんな妻(子ども)のありように無関心な夫、という日本の夫婦の姿が見え隠れします。しかし年齢差を考えれば、親が子どもの「生涯の伴侶」になることはできないのです。また、子どもは親のペットではありません。

この日本で、先進国のなかでは異例の割合で子どもを「子ども部屋」に囲い続け、親離れさせないのはいったい誰なのか――。私たちは考える必要があるのではないでしょうか。