「単語帳で一つひとつ覚える」よりも、効率的な記憶術があるといいます(画像:Fast&Slow/PIXTA)

偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。そんな彼にとって、東大入試最大の壁は「全科目記述式」という試験形式だったそうです。

「もともと、作文は『大嫌い』で『大の苦手』でした。でも、東大生がみんなやっている書き方に気づいた途端、『大好き』で『大の得意』になり、東大にも合格することができました」

「誰にでも伝わる文章がスラスラ書けるうえに、頭もよくなる作文術」を『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』にまとめた西岡氏が、「東大生の記憶力」の正体を解説します。

東大生は本当に「暗記が得意」なのか?

みなさんは、東大生にどういうイメージを持つでしょうか?

「記憶力がいい人」「たくさんのことを、いっぺんに、すぐに覚えられる人」……。


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そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。

しかし実は東大生は、記憶力が特に優れているというわけではありません。意味もない数字や関連性のない単語を覚える能力は、ほかの大学生と比べても「優れている」とは言えない人も多いです。

もちろん中には「教科書を丸暗記して東大に合格した!」と豪語するような暗記力のいい東大生もいますが、それも100人に1人くらいのものです。

僕は東大生になってから、500人以上の東大生と話し、インタビューをしたりアンケートを取ったりしてきたのですが、多くの東大生は「自分は記憶力が優れているほうだ」とは考えていませんし、実際、物覚えがいい人ばかりではありません

日常生活を送る中で、「ごめん、さっきなんの話してたんだっけ?」と話していたことを忘れる学生も多いですし、「さっき僕たち、教授から何を頼まれてたんだっけ? 忘れちゃった……」と相談を受けることも少なくありません。

それでも、東大生は受験のタイミングで本当に多くの知識を身に付けて、いろんな問題に答えられるようになっています。学内の試験でも、膨大な量を一気に記憶して単位を取得しています。

いったい、どうしてそんなことが可能なのでしょうか?

「記憶力」ではなく「関連付ける能力」

実は東大生は、「記憶力」ではなく「関連付ける能力」が優れているからこそ、多くのことを記憶できるのです。

例えば、ペリーが黒船に乗って日本に来航したのは、「1853年」です。

多くの場合、「1853年」という年号を暗記しようと努力するわけですが、東大生はただ丸暗記しようとはしません

どうして1853年だったのか? 1853年の前後には、どんな出来事があったのか? そういうことを考えて、少しでも「1853年」が覚えやすくなるように努力していくのです。

そう考えてみると、1853年というのは世界で大きな出来事が起こった年でもあります。クリミア戦争という、フランスやイギリスなどとロシアの間での大きな戦争が勃発しました。

なぜペリー来航は「1853年」だったのか? もしかしたらアメリカは、イギリスやロシアが日本に手出しできないタイミングを狙って日本に来たのかもしれない……そう考えることができるはずです。

1853年の13年前、1840年に起きたアヘン戦争によって、イギリスは中国を開国させています。日本も中国と同じようにいろいろな国に狙われていて、その中でイギリスをはじめとする多くの国が戦争中だったからアメリカが来た……そんなふうに考えることもできると思います。

また、1853年の2年前、1851年にはイギリスが世界初となる万国博覧会を開催しています。万国博覧会というのは、世界に工業力をアピールするもの、という側面があります。

つまり、アピールできるだけの工業力がついてきたのがこの時代だと考えることができます。工業力があるということは、その工業力でさまざまな製品を作ることができ、自分の国の製品を他国に売ることができるということでもあります。この時代、イギリスをはじめとする多くの国が、貿易相手を探していたのです。

同年1853年のクリミア戦争や、2年前1851年の万国博覧会、13年前1840年のアヘン戦争。いろんな知識をつなぎ合わせて考えると、「1853年にペリーが来航した」というのも覚えやすくなりますよね? 逆に、「1853年」を覚えておけば、クリミア戦争や万博、アヘン戦争の年号も思い出しやすくなるはずです。

東大生が優れているのは、こうやっていろんな知識を結び付ける能力です。一つひとつを暗記していくのではなく、いっぺんにいろんなものを暗記できるように、つながりを意識するわけです。

東大生は「流れ」を重視する

また、これを発展させて、東大生は「流れ」を非常に重視した勉強をします

例えば、日本史や世界史の教科書には、章のはじめに「この時代はどんな時代なのか」が書いてあるページがあります。「平安時代はこういう時代で、だからこういうことが起こったんだよ」というような、その時代の背景・流れが明記されているページがあるのです。

このページには、大まかな流れが書いてあるだけで具体的な情報が少なく、多くの受験生はここを読み飛ばす傾向があるのですが、東大生は違います。東大生の使っていた教科書を確認すると、この部分にマーカーや付箋が付いていることが多いのです。

時代背景が書いてあるページをしっかり読み込んで、大まかな「流れ」を理解し、ほかのものとの「つながり」や「流れ」の中で一つひとつの出来事がどのように位置づけられるのかを理解していくのです。

先ほどの例で言えば「19世紀には、各国で産業革命が成功しつつあり、工業力をつけた国が帝国主義でいろいろな国と貿易を求めていった」という流れをしっかり把握したうえで、「だからその真ん中の1853年に、ペリーが日本に来航したんだな」と理解するのです。

そうすることで、1つの出来事として暗記を終わらせることなく、多くのものを流れの中でいっぺんに覚えていくことができるのです。

そしてこれは、東大入試でも重視されます。東大は、国語だけでなく社会科でも、「この文章を読んだうえで、この部分を解釈しなさい」という問題が出ます。また、「この時代を概観したうえで、この出来事について論述しなさい」というような、流れやつながりを論述させる問題が多いのです。

英語や国語、社会や理科、さまざまな科目で、こうした問題が出題されているのです。だからこそ、東大生は普段から流れやつながりを意識する勉強をしているのです。

これは、人間の記憶のプロセスから言っても理にかなっている方法です。

例えば、脳科学の世界では、人間が人の顔を覚えるとき、一人ひとり個別に「Aくんの顔」「Bくんの顔」というふうには覚えないと考えられているそうです。

あらかじめ、「男性の顔」のイメージを作っておき、それを元に「Aくんはメガネをかけてたからこういう顔」「Bくんは普通より目が大きいからこんな顔」と、イメージに特徴を掛け合わせて覚えているのだそうです。

逆にそうでないと、個別に100人、200人以上の顔を覚えていくことになり、非常に大変な作業になってしまいます。大元になる「男性の顔」と、AくんBくんの個別の特徴さえ覚えておけば、少ない情報量で対応できるというわけです。

このプロセスで重要なのは、人間は「大元のイメージ」と「個別の特徴」を覚えることで、たくさんの記憶をすることが可能になるということです。

一つひとつ独立した知識を覚えるのではなく、「大元のイメージ」をしっかり覚え、それと関連付けていろんな知識を覚えていくほうが暗記しやすい……。先程、「19世紀がどういう時代なのか」をしっかり理解したうえで「ペリー来航」をその中に位置づけていくという記憶法をご紹介しましたが、まさにそれと同じプロセスで、人間は多くのものを暗記しているのです。

「物事のつながり」を考える習慣が記憶力を高める

以上の東大生の暗記テクニックを踏まえて、たくさんのことを暗記するときには以下の2つが有効だと考えられます。

・「大元のイメージ」にあたる部分を探すこと
・「物事のつながり」を意識すること

まずは「流れ」を理解しましょう。例えば本の内容を覚えなければならない場合、「はじめに」と「おわりに」をしっかり読んで「この本は、どういうことを語っている本なのか」をしっかり把握することで、「大元のイメージ」をつかむのです。

「はじめに」と「おわりに」は、本全体の要約的な内容が書いてあることが多いですから、その部分を読むことで「何が言いたい本なのか」がわかることがあります。

また、何らかの学問を理解したいときには、まずは「その学問がどういう学問なのか」というマクロな視点で物事を把握します。そうやって大枠の流れを理解したうえで、ミクロな部分部分を、マクロな流れの中に当てはめていくのです。

そして、その流れを意識しつつ、「つながり」を探していきます

以前「東大生の『ノートのとり方』が本質的で凄すぎた」でもご紹介したのですが、「→」を使って関連付けられる事項を結んでいくことで、いろいろなことをいっぺんに覚えることができるようになります。

つながりがある部分はどこか、考えてみる。つなげられない事項があった場合には、つなげられることがないかを探してみる。

そうすることで、暗記は「点」ではなく「面」になります。事項を一つひとつ覚えるのではなく、1つの事項からほかとつながっている状態になっていくのです。

いかがでしょうか? 記憶力ではなく、この2つのテクニックで「つながり」を探す力を鍛えれば、多くのことを暗記できるはずです。みなさんぜひ実践してみてください!