ルフィと歩んだ「軌跡」、サボ役への「重圧」。田中真弓×古谷 徹が明かす収録秘話

田中真弓が天真爛漫に語る姿を、隣に座る古谷 徹が優しく見守っている──。その姿は、『ONE PIECE』で田中が演じるモンキー・D・ルフィと、古谷が演じるサボの兄弟関係を表すかのようだった。

共に芸歴40年以上のベテラン声優。田中は、1999年の『ONE PIECE』初回から20年近くルフィを演じてきた。一方、近年は『名探偵コナン』の安室 透役でより注目を集めている古谷は、2014年からサボ役で参加している。

田中は、古谷が「サボ」としての第一声を発したときのことをよく覚えていた。

「徹さんらしさを全部消してきて、さすがだなと思った」と振り返る田中だったが、その陰に、古谷の苦悩と努力が込められていたことを、この対談中に初めて知るのだった。

撮影/曽我美芽 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.
▲左から田中真弓、古谷 徹

古谷 徹らしい声ではなく、“サボだけの声”を作りたかった

TVアニメの放送が今年で20周年を迎えます。田中さんはルフィを演じて20年目。一方、古谷さんは2014年からサボ役で出演し、今年で5年目。サボは、ルフィとエース(声/古川登志夫)と義兄弟の盃を交わす重要なキャラクターですが、当時はどんな心境でしたか?
古谷 もう、プレッシャーですよ(笑)。僕も海外のコンベンションに参加することが多いけれど、『ONE PIECE』はどの国に行ってもコスプレイヤーが山ほどいるくらいの人気作。その主人公・ルフィのお兄ちゃんというポジションをやらせてもらうと知ったときには「どうしよう?」と思いましたもんね。もちろんオーディションがありましたが。
田中 (古谷さんで)満場一致だったそうですよ。
古谷 ありがとうございます(笑)。でも、それだけ期待が大きいわけじゃないですか。それに、僕がこれまで演じてきたキャラクターはどちらかというと、王道のヒーローが多かったんです。

しかし、サボは革命軍の参謀総長ということで、志は持ちながらもどこかアウトローっぽいところがあるんですよね。ヤンチャをしていた少年時代の面影が見えるのが魅力なので、そこをきちんと表現したいと思いました。
少年時代のサボは竹内順子さんが演じていらっしゃいましたね。
古谷 魅力的にイキイキと演じてくださったので、大事にしたくて。すごいプレッシャーでしたけど、サボとしての第一声を出したら……真弓さんを含め、スタジオ内にいたメンバーもスタッフのみなさんも「OK!」ってジェスチャーで伝えてくれたので、「大丈夫かな? いけそうだな」って。
田中 「古谷 徹さんらしさを消してきたな」って、すごく思いました。
古谷 あ〜、なるほど。
田中 アフレコ現場で「田中真弓らしい声が欲しい」とか「徹さんらしい声が欲しい」って言われて、そういった“らしさ”をわざと声に置くときがあるじゃないですか? でも、サボは全然違ったので、「さすがだな」って思いました。
古谷 僕もそれを狙いました。配役が発表されたとき、「(『機動戦士ガンダム』の)アムロ(・レイ)がサボをやるの?」みたいな反応があって。僕がやってきたキャラクターのイメージだとサボの声に合わないんじゃないかって、サボファンのみなさんは思ったんでしょうね。だから、何とか “サボだけの声”を作りたいなと取り組みました。

結果的に、初登場の回が放送されたときは、僕の声を支持してくださった方が多くいたようで、すごく嬉しかったですね。

衝撃のラストに「『ONE PIECE』を終わらせる気か!?」と思った

TVアニメの放送20周年記念作品となる、劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』が8月9日より公開になります。尾田栄一郎先生による描き下ろしのポスタービジュアルにも「立ち上がれ、全勢力。」とあるように、オリジナルキャラクターだけでなく、これまでルフィたちが出会い戦ってきた200を超えるキャラクターが登場します。
田中 本当にたくさんのキャラクターが出てくるので、にぎやかですよねぇ。徹さん、いかがでしたか?
古谷 楽しかったですよ。前回の劇場版『ONE PIECE FILM GOLD』(2016年)のときは、出番が少なくてコアラ役のゆきの(さつき)さんとふたりだけで収録したので、ちょっと寂しかったんです(笑)。

今回は『ONE PIECE』ではお馴染みの、錚々(そうそう)たるキャラクターを演じるみなさんとご一緒できて、ルフィを助けることができたので、とても楽しい現場でした。

最初にプロデューサーから「(この映画は)『ONE PIECE』のアベンジャーズです」って言われて(笑)。
田中 たしかにそうですね(笑)。
古谷 うん。僕も「あぁ、なるほど! それは面白そう!」って思って。台本を読ませてもらったら、サボも劇場版『ONE PIECE FILM GOLD』のときよりも活躍していてホッとしました(笑)。
田中 「これまで登場したキャラクターがたくさん出てくる」って最初に聞いたときは、現在進行中のTVアニメのストーリーがあるなかで、「そんなに出しちゃって大丈夫なの?」って心配もありましたね。でもテーマが「海賊万博」ということで納得しました。

TVアニメのストーリーによっては会うことが許されないキャラクターもいるので、彼らに映画で会えたのは、すごく嬉しかったですね。「この人にも、この人にも会えた!」って。
古谷 あ〜、そうだよね。ルフィをずっと演じてきている真弓は、とくにそういう感情が湧くだろうねぇ。
田中 そうなの。ファンのみなさんにも、喜んでいただけると思います。
今作では、ルフィとサボがかなりガッツリと共闘しています。
田中 “メラメラの実”を受け継いだサボが、エースの技を繰り出すので……ふたりが戦っているときは、そこにエースもいる感じがしました。3人で過ごした子ども時代のことも頭によみがえってきて、感慨深かったですね。
※注…海軍と、白ひげ海賊団はじめさまざまな海賊が争った大規模戦闘「マリンフォード頂上戦争」でエースが息を引き取ったあと、ドレスローザでサボがエースの“メラメラの実”の能力を受け継いだ。
古谷 サボはある理由から海賊万博に潜入していたわけですが、ルフィと一緒に戦うことになって、彼をサポートできる喜びもありましたし、どこか戦いを楽しんでいるような余裕もありましたね。だから僕もそういったスタンスで演じさせていただきました。
ネタバレになるので詳しくは言えませんが、最後は「ルフィらしいな」と思いました。
古谷 最後の最後は、本当にビックリすることが起きますので、『ONE PIECE』ファンにはたまらないと思います。
田中 ビックリしますよね。「『ONE PIECE』を終わらせる気か!?」って。
古谷 最初は思うよね。でもね、ルフィのすごくピュアなところが出ているラストだなぁと思いました。
では、TV放送20周年を迎え、改めて思う『ONE PIECE』の魅力とは?
田中・古谷 う〜ん……。
田中 難しいですよね、たくさんあって。
たとえば、まだ『ONE PIECE』に触れたことのない方々に、魅力を伝えるとしたら?
田中 人生の助けになる言葉がいっぱいある。ストーリーを全部知らなくても、ひとつのセリフで救われることがあるよっていう感じですかね。でもやっぱり、ストーリーがすごく面白いので、マンガも最初から読んでいただきたいですね!
古谷 一見、荒唐無稽な世界に見えますが、決してそうじゃなくて、現代の社会にも通じるところがいっぱいあるんじゃないかと思います。夢を求めて努力したり、壁を乗り越えていったりするのは、僕らの人生と一緒なんですよね。個性的なキャラクターばかりなので、誰かしらに自分と共通する部分を見つけることができる。

あと、僕が実際に『ONE PIECE』に触れて感じたのは……「笑って泣けて、ワクワクする作品」ということですね。そういった感動を与えてくれる作品ってなかなかないので、ぜひ触れてほしいなと思います。

長年にわたって、ひとつのキャラクターを演じる「難しさ」

ルフィなど、同じキャラクターを長年にわたって演じ続けるうえで気をつけていることはありますか?
田中 私自身はないですね。長く演じているからこそ、「自分=ルフィ」みたいな感覚があって。芝居が定まってしまえば、もうそれは自分として演じるだけなのでね。

スタッフさんに「“〜だぜ”って、ルフィは言わないですよ」って言われて、「あ、そうなんだ!」って気が付くくらい、私はキャラクターを自分に近付けちゃうタイプなんです。キャラクターを大切に作っているスタッフのみなさんが、しっかりルフィの舵取りをしてくれるので、私はそれに乗っかるだけですね。

だから今、1話から3話くらいまでの、まだキャラクターの方向性が定まってない時期のものを聞き返すと面白いですよね。「迷ってるねぇ〜!」って(笑)。そういうのない?
古谷 (あるから)聞きたくないよ! 僕は自分のそういう演技は見たくない(笑)。
先ほど古谷さんがおっしゃった「“サボだけの声”を作る」というのが、「サボを自分から遠ざける」のと同義なら、田中さんは逆なんですね。
田中 そうそう! 私はどんなキャラクターでも近付けることが多いですね。
古谷 僕はキャラクターによって、近付けたり離したりします。
10、20年前と比べて、ご自身の声に変化を感じることはありますか?
田中 年齢を重ねるにつれて、程度の差こそあれ誰でも声が低くなるんです。だから、自分は変わっていないつもりでも、絶対に変わってますよね。若いときに歌っていた曲を歌おうとすると、「音程を下げないと歌えないよ」っていうぐらい低くなっちゃってる。
古谷 一緒ですね。年齢を重ねれば重ねるほど、若いキャラクターを演じていると、どんどん自分とキャラクターにギャップが生まれてしまいます。頭も身体も心も、です。
田中 徹さんもそうなんだ。徹さんだけは変わらないように見えるから……。
古谷 なるべく変わっていないように見せるために、頑張らなきゃしょうがないですよね。一年中うがい薬を使って喉のケアをしたり、深酒しないようにしたり……。
田中 え〜!(信じられないといった様子で)
古谷 それから、身体を鍛えています。ゴルフやテニス、スノーボードといったアウトドアスポーツが好きなので、一年中外でスポーツをやるようにしていて。梅雨の時期は家で筋トレをしたりサプリメントを摂ったり、キャラクターとのギャップをなるべく減らそうと頑張っています。
田中さんはいかがですか?
田中 あきらめてる(笑)。
古谷 ははは!
田中 男が男の役をやるのと、女が男の役をやるのって違うと思うんですね。だから現場で男の人たちと同じような声を求められると、そこを求められても…って感じることもあります。…と言っておきながら、まあ、(自分は)ラクがしたいんでしょうね。偉いなぁ〜、徹さん。
古谷 いやいや(笑)。
田中 だって、徹さんって甘いものが好きなんですよ? 羊羹とかガンガン食べちゃうから。
古谷 大好きです。あんこが一番好き…って、そんな話はいいんだよ!(笑)
田中 だから、そういうものも節制してるのかな?って。
古谷 してないしてない。食べるけど、運動で消費してるからね。
田中 消費しないからなぁ、私は。
古谷 真弓は、心の部分でルフィと一緒だから。すごく単純であどけなくて(笑)、歳を取ってもそれは変わらないもん。
田中 じゃ、そういうことにしましょう!(笑)「心は変わりません」ってね。

出会いは33年前。『ドラゴンボール』が初共演

古谷さんにとって、ルフィを演じる田中さんはどんな存在ですか?
古谷 やっぱり「弟」ですね。スタジオでは、僕のことを「お兄ちゃん」って言ってくれるし……僕からすると、弟を“見守る”感じなんです。だから、真弓がちょっと無理して声が出なくなると、すごく心配になるし。
田中 お兄ちゃんとしては「もうやめとけ」ってね(笑)。
古谷 「(収録を)別日にしてもらえ」って。頑張って無理しちゃうタイプだから、すごく心配なんです。
最初にお仕事でご一緒された際、それぞれにどんな印象を抱きましたか?
田中 …いつが最初だろう?

私、一度『美少女戦士セーラームーン』(1992年〜)に出たことがあって、(力強い語り口になって)徹さんのタキシード仮面がすごくカッコよかったのを覚えています!
古谷 それはだいぶあとだよね。『ドラゴンボール』(1986年〜)のほうが全然先だよ(笑)。33年前だから。
田中 あ、そんなに経つんだ。『ドラゴンボール』で徹さんが演じたヤムチャは、後々の印象のほうが濃くなっちゃって…。彼女だったブルマ(声/鶴 ひろみ)も、ベジータ(声/堀川りょう)に取られるじゃないですか。
古谷 あ〜、そうそう(笑)。
田中 「ヤムチャさん、しっかりしてくださいよ!」って。その印象が強くなっちゃったからかなぁ? もちろん、カッコよかったんですけどね。
古谷 最初はね(笑)。
田中さんにとって、どの現場でもいつも古谷さんはカッコいい?
田中 カッコいい! でも、アムロやタキシード仮面みたいなカッコよさと、サボのカッコよさはまた違うから面白いですよね。

(サボは)ドキッとしたし、嬉しかった。「“サボだけの声”を作りたい」と思って臨まれたことは知らなかったので、きょう聞くことができてよかったです。
古谷 僕は、真弓に対してすごく器用な印象がありました。個性的な役を何でもこなしていくっていう……。
田中 でも私、一色(ひといろ=声の音色がひとつのこと)ですけれど(笑)。
古谷 たしかにそうなんだけどね(笑)。でも、発想が面白い。普通じゃないんです。僕はすごくセオリー通りの人間なので、「自分にないものを持っているなぁ」と思いました。
田中 そうかなぁ?(笑)徹さんも普通じゃないと思うけど?
古谷 いや、もうね、真弓とか(山口)勝平(ウソップ役)もそうだけど、発想が飛んでるんです。「こういう人がエンターテイナーなんだな」って思います。すごくうらやましいですよね。スタジオ内のちょっとしたことに対しての見方とか、それをすぐアレンジできる発想とか。
田中 私のお芝居を褒めてるみたいですけど、ただの“いたずら好き”ってことじゃない?(笑)
古谷 いや、褒めてるんだよ!(笑)それが芝居に出るんですよね。ルフィってそれができるキャラクターでもあるし。

だから本当に、ハマり役だと思います。
田中 (ルフィの声で)ありがとう、お兄ちゃん!
田中真弓(たなか・まゆみ)
1月15日生まれ。東京都出身。A型。1978年ごろから女優として活動しながら、声優としても数多くの作品に出演。主な出演作に『ドラゴンボール』シリーズ(クリリン役)、『忍たま乱太郎』(きり丸役)、『うる星やつら』(藤波竜之介役)、『魔神英雄伝ワタル』(戦部ワタル役)、『天空の城ラピュタ』(パズー役)、『銀河鉄道の夜』(ジョバンニ役)など。『ONE PIECE』では、放送開始の1999年から、モンキー・D・ルフィを演じている。
古谷 徹(ふるや・とおる)
7月31日生まれ。神奈川県出身。A型。幼少期より子役として活動し、10歳で声優デビュー。主な出演作に『機動戦士ガンダム』(アムロ・レイ役)、『聖闘士星矢』(ペガサス星矢役)、『ドラゴンボール』(ヤムチャ役)、『美少女戦士セーラームーン』(地場 衛/タキシード仮面役)、『名探偵コナン』(安室 透役)など。『ONE PIECE』では、2014年9月28日の放送回から、ルフィの義兄・サボ役を演じている。

映画情報

劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』
8月9日(金)ロードショー
http://www.onepiece-movie.jp/
公式Twitter(@OP_STAMPEDE

サイン入り色紙プレゼント

今回インタビューをさせていただいた、田中真弓さん×古谷 徹さんのサイン入り色紙を抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年8月6日(火)12:00〜8月12日(月・祝)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月13日(火)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月13日(火)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月16日(金)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
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