芸人が庶民の笑いを取る吉本が芸人からも庶民からも乖離した経営感覚で墓穴を掘ったが、似たような過ちに気が付かないで凋落の坂を下る衣料品小売業がある。言わずと知れた「しまむら」だが、POS依存の数値経営で下駄履き主婦の支持を失って転落したイトーヨーカ堂と軌を一にしているようにも見える。そういえば、冷徹なFC契約と数値経営を極めたセブン-イレブン・ジャパンも次々と墓穴を掘っているではないか。顧客や現場と乖離するといずれ墓穴を掘るのは小売業の宿命なのだろう。

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単価を上げて在庫を削ったツケは客離れ

 17年秋期以降の販売不振から抜け出せない「しまむら」だが、7月(20日締め)既存店売上高前年比は客数が84.1と大きく落ち込んだのが響き、82.5と03年11月の84.0をも下回る“最悪”の落ち込みを記録した。梅雨が長引いて夏物衣料が苦戦したのもともかく、『過剰な低価格を脱して客単価を引き上げながら店頭在庫を抑えている』という商品政策が災いしているのではと疑われる。

「しまむら」は『前年は極端な低単価商品を投入して売上の回復を目指したが思うような結果に至らず、在庫消化に苦しんだ』と単価アップ政策の背景を説明しているが、過去26カ月の客単価と客数、既存店売上高前年比の関係を振り返ってみると、客数増が客単価減を補って既存店売上高前年比がプラスになったのは3回(17年12月の99.8も加えれば4回)あるが、客単価増が客数減を補ってプラスになった月は1回もない。大きなサイクルを俯瞰すれば、18年4月までは客数増が客単価減を補って既存店売上高の落ち込みを下支えしたサイクル、18年5月から11月は両方が落ちて既存店売上高前年比を大きく落としたサイクル、18年12月以降は客単価が増加しても客数が減少して既存店売上高が大きく振れたサイクルで、4月以降は客離れが顕著になって7月の急落を招いた。

 

価格の上方乖離が客離れを招いた

 もっと長期に俯瞰すれば、05年度(06年2月期)の商品単価716円/客単価2369円から年々アップして16年度には商品単価910円/客単価2687円と、27.1%/13.4%もインフレしている。その後はどちらも下落に転じて18年度は商品単価859円/客単価2553円まで下がったものの、05年度と比べればまだ10.8%/7.8%高い水準だ。

 家計消費の衣料品購入単価はこの間に12%もデフレしており、社会負担増による低所得勤労者層の手取りの目減りを考えれば、「しまむら」の価格ポジションは顧客層から2割以上も上方に乖離したと見なければならない。

 経営陣は単価アップで売上げが回復すると思い込んでいるようだが、中期的に見ても長期的に見ても、「しまむら」は単価の上方乖離で顧客の離反を招いてきたのは明らかだ。四半期・半期の売上げと荒利を確保する技術論としては分からないでもないが、それは目先の数字を見て顧客との長期的な関係を顧みない近視眼とそしられてもやむを得まい。実際、「しまむら」の1店当たり売上げは05年度の91.6%、坪販売効率は88.6%に減少している。商品単価がインフレした分、顧客が離反していったと見るべきではないか。

 

3つのミックス革新を欠いた

 長期的な視点で見れば、さらに指摘すべきは3つのミックス革新を欠いたことだろう。それはカテゴリーミックスと荒利ミックス、そして調達ミックスだ。

1)カテゴリーミックス

「しまむら」の経営指標をさかのぼれる03年2月期のカテゴリーバランス(部門別売上げシェア)を最新の19年2月期と比較すると、婦人衣料が3.8ポイント(以下Pと略す)、インテリアが1.5P上昇して寝装具が3.2P、ベビー・子供服が1.6P、洋品小物が1.5P下降したぐらいで、変化の小さいことに驚かされる。この間に、全国百貨店の婦人服・洋品が25.5%から19.2%、紳士服・洋品が7.7%から6.6%、家庭用品が6.1%から4.1%に下降し、化粧品が4.0%(06年の4.3%から推計)から9.5%に上昇したのと比較すれば、むしろ逆行していたのではないか。

 

 もしも「しまむら」が「米国のしまむら」といわれるコールズのように化粧品やジュエリーを本格的に品揃えしていればカテゴリー構成は大きく変わり、売上高も伸びたと思われる。

 

2)荒利ミックス

 ドン・キホーテが食料品の荒利を意図的に抑えて集客し、雑貨の高荒利で収益を確保していることはよく知られているが、「しまむら」の荒利は値入れと消化のテクニカルな結果にすぎず戦略性を欠いている。

 

 さかのぼれる03年2月期と最新の19年2月期を比較すると、インテリアが5.1P、洋品小物が4.2P、婦人衣料/寝装具/靴がともに3.4P、肌着が3.1P、紳士衣料が2.7P上昇して全体でも28.2%から31.3%に3.1P上昇しているが、この間の販管費率の上昇の3分の2ほどしかカバーできておらず、肌着が最も高荒利でベビー・子供服が最も低荒利という関係も変わらない。この間のSPA化も納期を長期化して消化回転を低下させただけで荒利益率にさほど貢献せず、ドン・キホーテのように荒利を抑えて集客するカテゴリーと荒利を稼ぐカテゴリーといった戦略的荒利ミックスは微塵も見えない。

 頻度が高い肌着や価格を比較されやすいブランド衣料(OPS商材)の荒利を戦略的に抑えてジュエリーや季節雑貨で荒利を稼ぐといった知恵は働かなかったのだろうか。もし戦略的に仕掛けていれば、売上げを伸ばして全体の荒利益率ももっと上向いたのではないか。

3)調達ミックス

 かつての「しまむら」は産地問屋の機動性を活用した短納期調達で変化に対応し、年間在庫回転は12回以上、歩留まり率(実現荒利益率÷値入れ率)は85%以上という大手衣料チェーンでは比類のないマーチャンダイジング効率を実現していたが、問屋企画のロット発注という事実上のSPA調達(量販店衣料部門と近似)が増えるにつれリードタイムが伸びてリスクが大きくなり、消化回転が急速に悪化していった。実際、直近では6カ月以上の長納期発注が4割に迫り、3〜6カ月未満の中納期発注が6割で、2カ月以内の短納期発注は数%に留まるという硬直的な調達状況に陥り、19年2月期の在庫回転は年間7.58回(連結)、歩留まり率も81%台(「しまむら」)まで落ちたと推計される。

 擬似SPA的なロット発注の長納期調達が肥大して消化歩留まりが低下し収益を圧迫するというのは量販店衣料部門が陥った隘路で、どうして分かり切った轍を踏んだのか理解に苦しむ。量販店衣料部門で利益を稼いでいるのはVMIが主流の肌着部門(ナイティ、靴下を含む)だけで、スーパーマーケットやコンビニまで侵略して絶好調のドラッグストアもVMI依存度が高い。

 VMI(Vendor Managed Inventory)とはシーズンごとに小売りチェーンとベンダーが棚割りを協議して設定しEOSでベンダーが補給するもので、ベンダーは消化進行に即して生産ラインまで制御する。VMIの精度を上げるべく、ウォルマートは各店舗の担当者が棚を目視して補給量を補正し、ワークマンは消化進行予測のアルゴリズムを高頻度に修正してベンダーに提供いる。

「しまむら」の場合、肌着やベビー、洋品雑貨、化粧品・化粧小物はVMI中心、靴と子供服は企画仕入れとオフプライス調達を併用、婦人服・紳士服は短納期/中納期の企画仕入れ中心に長納期の企画仕入れは防寒アウターや定番ボトムなどに限定し、オフプライス調達を併用するのが合理的だと思う。オフプライス調達といっても、持ち越しの流通在庫ではなくオンシーズンのキャンセル品や余剰品をロット調達するのが肝ではないか(米国オフプライスストアでは“計画的な余剰品”調達も少なくない)。さすれば、ロスを値入れでカバーする悪習を回避し、旬で低価格なお値打ち品を顧客に提供するという「しまむら」本来の役割を取り戻せるに違いない。

生活圏の顧客のためにC&Cサービスで応えよ

 ディストリビューションセンターに補給在庫を持たず店舗在庫もミニマムな「しまむら」にはEC向け在庫の裏付けがなく、荒利益率が31.3%しかないのに35%もの手数料を要するZOZOに出店するという茶番劇が続くわけもなく、18年7月の出店から1年も経ない6月20日に撤退している。しまむらがEC出店を表明した直後に当サイト『しまむらのEC進出を阻む事情』(18年2月1日)で『続くわけがない』と断じたが、指摘通りの結果となった。

 しまむらの事情に加え、宅配料金の大幅値上げでECを取り巻く状況は一変している。非効率で割高な全国区ハブ&スポーク物流の大手宅配業者に依存してはECの収益は望めないから、店受け取りや低料金のローカル運送業者を使った店出荷を駆使して物流費を抑え、顧客利便(早く送料無料で試して受け取れる)と在庫効率を高めるC&Cにシフトせざるを得ない。

 店舗網を持った有力小売りチェーンにはその手があるが、店舗網を持たないEC専業者は収益の目処が立たなくなる事例が頻発しており、C&Cサービスを提供する第三者の出現が希求されている。しまむらの自社ルート便網と1428店(19年2月期末)、全社では2205店という生活圏に密着した店舗網はC&Cサービスのプラットフォームとして最適だ。

 一時はラストワンマイル拠点として注目されたコンビニは人手不足とレジ渋滞、スペースの狭さで期待外れとなっており、手慣れたパート従業員が多数そろい、レジカウンター周辺も広くて余裕があり、レジ前に複数のフィッティングルームが集中する「しまむら」は受け取りやお試しの拠点として期待される。共稼ぎが当たり前で不在が多いしまむらの顧客としても、近所の「しまむら」でEC商品を受け取ったり試したりできる利便は大きいし、フィッティングやお直しのサービスが受けられるのも有り難い。

成功体験を捨て去る勇気はあるのか?

 近年のしまむらの経営行動は商品政策にしても店舗運営にしても数値目標達成を図るテクニカルな動きばかりで、長期的な経営理念に基づく顧客への思いやりが感じられない。

 店舗を見ても、いくら安い商品を売っているとはいえ、きれいでも楽しくもないし、パートさんたちの労働も効率化・標準化されているだけで、提案制度はあっても個人の知恵や工夫が生かされているようには見えない。幾度も価格を引き上げようと図ってきた(実際にかなり上昇している)姿勢も経営本位で、決して豊かとはいえない顧客層への思いやりを欠いている。顧客が『何かが違う』と思うところがあるとしたら、些細なことで「しまむら」への愛着を失い、離反するかもしれない。

 原点的な企業理念のところで『顧客を思いやる』気持ちが通っていないと、さまざまな局面ですれ違いが生じて業績も陰っていく。近年のしまむらを見ていると、そんな懸念を否めない。そうかといってデジタル化やオムニコマースで事業展開を一変させるダイナミズムがあるわけでもなく、古い成功体験や技術を反芻しているようにしか見えない。

 かつて『ユニクロかしまむらか』と言われた両者の業績は大きく開いてしまったが、それはSPAに徹したか否かで分かれたのではない。一時代の成功体験とそれを実現した技術を捨て去って次の段階へ飛躍できたか否かが分かれ目であり、柳井正氏が『成功は一日で捨て去れ』と断じたのは本音だと思う。実際、ユニクロは成功を捨て去って次のステップへ飛躍すべく、幾度も経営陣を入れ替えている。

 しまむらに問われているのは、一方で顧客を思いやり従業員の活力を引き出す企業理念の一貫性、一方で成功体験を捨てて状況を打破するドラスティックな経営刷新ではないか。