東京都江東区にあるマザウェイズ・ジャパンの本社(登記上の本店所在地は大阪市)。6月末に突然、自己破産を申請した(記者撮影)

都市部のショッピングセンターを中心に約100店舗を展開していた子供服販売店「motherways(マザウェイズ)」。フリルやリボン、キャラクターの絵柄などを施したデザインの独自企画商品を販売し、子育て世代のママの間で広く人気を博してきた。

その運営会社のマザウェイズ・ジャパン(登記上の本店:大阪市)が6月末、大阪地方裁判所に自己破産を申請。7月16日に自己破産手続きの開始決定を受けた。

「前澤さん、マザウェイズを買ってください」

「マザウェイズ復活切望」「マザウェイズ・ロス」――。

倒産のニュースが駆け巡った7月1日以降、SNS上では閉店を惜しむ投稿が続出した。中にはTwitter上で、「ZOZOTOWN」を運営するZOZOの前澤友作社長に対し、「マザウェイズの会社を買ってください」などと支援を要望するメッセージを投稿するユーザーも複数いた。

数年前まで息子の普段着にマザウェイズを愛用していたという都内在住の主婦(40歳代)は「海外にあるようなかわいらしいデザインが手頃な値段で買えたので重宝していた。商業施設で店をよく見かけたし、お客も入っている印象だったのに」と、同社の倒産に驚きを隠さない。

倒産に伴い、同社は7月2日から全商品6割引の「閉店売り尽くしセール」を一部店舗で突如開催した。会員向けに配信されたメールでは、「人員確保等の諸事情で営業できない店舗もある」との説明があり、セール開催店舗には顧客が殺到した。その多くの店舗では会計まで2〜3時間待ちの長蛇の列が発生したという。

信用調査会社の帝国データバンクによると、破産手続き開始の決定を受けたのはマザウェイズ・ジャパンと関係会社の根来(大阪市)、ネイバーズ(同)の3社。マザウェイズ・ジャパンは1991年に設立、2019年1月期の売上高は約81億円だった。破産管財人を務める弁護士事務所によれば、3社合計での負債は70億円程度。ブランド売却などの可能性については「未定」という。

突然の倒産劇に、アパレル業界内でも衝撃が走った。売り上げが苦戦していたことは一部で知られていたものの、子供服メーカーの幹部は「あまりに急な倒産で驚いた」と語る。実際、マザウェイズは今年3月にも大阪市内や群馬・前橋市内に2店舗を新規出店しており、表面上は倒産の兆候がほとんど見られなかった。

子供服市場での競争厳しく、資金繰りが悪化

だが、複数の関係者によると、マザウェイズの昨年秋冬シーズン(2018年10〜12月頃)と今年春先(2〜5月頃)の売上高は、前年同期比でそれぞれ10%以上も減少。同社は10社以上の金融機関から多額の借り入れを行ってきていたが、売り上げが減る中で支払い利息負担ものしかかり、資金繰りが厳しくなったようだ。

倒産の背景の1つにあったのが、子供服市場での競争の激化だ。マザウェイズでは、新生児から小学校高学年(身長150センチ)までを対象とした衣服と雑貨を展開していた。はやり廃りが激しいアパレル業界だが、子供服の場合はトレンドの変化による影響が少なく、子どもの成長に合わせた買い換え需要も見込める。

だがその半面、成長の早い幼少期は1つの商品を着用できる期間が限られるため、顧客の低価格志向が強い傾向にある。急速な少子化が進む中、国内の子供服市場は「限られたパイのシェアの取り合いで価格競争が年々激化している」(大手アパレル幹部)のが実情だ。

ここ1、2年は、しまむらが展開する子供服専門業態「バースデイ」や西松屋も、既存店売り上げのマイナスが続く苦しい状況だ。一方で、ユニクロは子供服でもデザイン性の高い商品やコラボ企画を拡充して親子での購買を促し、市場シェアを拡大。国内ユニクロの2018年度キッズ・ベビー部門売り上げは、4年前比で約7割増の670億円に伸びた。

低価格志向の強まりやユニクロの攻勢を受け、1990円を中心に商品展開していたマザウェイズは安くもなく高くもない、中途半端な価格帯と感じられたようだ。知人に勧められ、マザウェイズで娘の結婚式参列用の服を購入したという主婦は「値段は安いと感じなかった。後でユニクロを見たら似たような商品がもっと安く売られていた」と話す。

現金化できない不良在庫が膨れ上がる

もっとも、市場環境の厳しさ以上に、マザウェイズ特有のビジネスモデルの問題も大きかった。同社が強みとしていたのが、豊富なアイテム数とカラーバリエーションだ。つねに4000種以上のアイテムを取り扱っているデザインの幅広さが、マザウェイズの強みでもあった。

S・M・Lのサイズ展開が一般的な婦人・紳士服と比べ、身長約10センチ刻みでのサイズが必要な子供服の販売は在庫がかさみがちだ。それに加えて、マザウェイズのように膨大なアイテムとカラーを常時取りそろえるとなると、売れ筋から外れた商品の在庫は急速に増えていってしまう。

「現金化できない不良在庫が膨れ上がっていったことがマザウェイズの倒産の最大の要因」と、前出とは別のアパレル関係者は推察する。

倒産する直前まで出店を続けた同社だが、最近は知名度の低い商業施設や大型ショッピングセンターの中でも奥まった一角に出店するケースも目立っていた。既存店が苦戦する中で増収を求めるあまり、出店時の採算性精査が後回しとなっていた可能性も否定できない。

SNS上ではユーザーの悲鳴が広がる一方、販売員とみられる投稿者らによる突然の解雇に対する戸惑いや怒りをつづった投稿も散見された。ファッションに対する家計支出の減少が続く環境下、在庫がたまって収益悪化に苦しむ企業が珍しくないアパレル業界なだけに、マザウェイズが残した教訓は大きい。