日本人が大好きなハワイ、そしてインバウンド急増に沸く沖縄。2つのリゾートを徹底比較することで見えてきた観光地のあり方を問う(デザイン:池田 梢、記者撮影)

「ウミガメだ!」

6月下旬、成田空港の搭乗ゲートの一角で、子供たちが歓声を上げていた。

窓ガラス越しに映るのは、これからハワイに向けて飛び立つ、特別なウミガメ塗装を施された仏エアバス製旅客機「A380型機」の姿だ。航空大手の全日本空輸(ANA)は5月24日から、2階建てで520席を誇るA380を成田─ホノルル路線に導入し、攻勢をかけている。

ANAのハワイ路線攻勢にJALも対策を打つ

ライバルの日本航空(JAL)にとって、ハワイ路線は1959年から定期運航便を飛ばす思い入れの強い路線。2010年の経営破綻時もハワイ路線はリストラの対象外としていた。ANAの攻勢に対し、ハワイアン航空との提携や、サービスを刷新するなど、対策を打つ。


星野明夫・日本ハワイ旅行業協会前会長は「ハワイには一度夢中になると、何度も行きたくなってしまう魔力がある」と語る。星野氏はJTBハワイなどに勤め、10年以上ハワイに住んでいる。「ハワイの魅力は過ごしやすい気候と貿易風がもたらす風。気候風土や独自の文化に加え、歴史的にリゾートして確固たるブランドを築いてきた」(同)。

一方、沖縄の本島西海岸にある恩納村(おんなそん)には7月26日、「ハレクラニ沖縄」が開業した。ハレクラニはハワイのワイキキにある老舗の高級ホテルで、三井不動産が保有している。同社は恩納村にはワイキキと同じだけの可能性があると踏み、ハレクラニの開業に踏み切った。

沖縄は19世紀までの450年間、琉球王国として培った独特の文化が売りだ。魔よけの「シーサー」が散見される那覇市のメインストリート・国際通りや赤瓦が青空に映える首里城は、沖縄県民が「日本であって日本ではない」と語る象徴だ。「やんばる」と呼ばれる本島北部の豊かな森林や、八重山諸島など離島の静かなビーチや自然も大きな魅力となっている。

ハワイはなぜ世界のトップリゾートなのか。沖縄はそのポテンシャルを生かし、世界有数のリゾートになれるのか。7月29日発売の『週刊東洋経済』は「ハワイvs.沖縄」を44ページにわたって特集している。

ハワイと沖縄という2つの観光地が日本で注目を高めているのは、JALとANAのエアライン対決やハレクラニのように両地にまたがるホテル開発が進んでいるからだけではない。

両者の観光客数は1000万人弱、人口も150万人弱とほぼ同じ。複数の島々からなる諸島で、それぞれ日本とアメリカに併合されたという歴史や米軍が大きな基地を置いているところも似ている。ビーチリゾートで、観光を主要な産業としているなど、さまざまな構成要素が近しいのだ。

ただ、同じ観光地であっても、その質は異なる。両方とも2018年の観光客数は1000万人弱、観光客1人が1日に支払う金額も2万円強(東洋経済の試算)とほぼ同じながら、平均滞在日数はハワイの8.94日に対し、沖縄は3.75日と大きく差がついている。そのことが観光収入の差に結び付いており、ハワイの約1.9兆円に対し、沖縄は約7000億円にとどまる。

滞在日数に大きな差がつく理由は、そもそも長期休暇を取るアメリカ人、短期休暇の日本人という習慣の違いがある。ただ、両者の中心地であるワイキキと国際通りを比べると、ワイキキは開放的な空間にビーチとリゾートホテル、商業施設が集中している。一方で、国際通りはビーチへのアクセスは遠く、小さな商店が集中し、雑多な空間となっている。

日本人の滞在も沖縄よりハワイのほうが長い

日本人の旅行者にハワイと沖縄で評価できる点を聞くと、ハワイは「気候や雰囲気の良さ」なのに対し、沖縄は「海の美しさ」となっている。日本人の観光客が、ハワイという空間の中で、ハワイらしい食べ物や買物を楽しむというライフスタイルに旅行理由を見いだしているのに対し、沖縄は海の美しさが好印象というレベルにとどまっているのだ。そのため、同じ日本人の滞在でも沖縄よりハワイのほうが長くなっている。

ただ、ハワイもここまで順風満帆に来たわけではない。1990年代のバブル崩壊で日本人観光客が激減するという苦しい時期があった。実際、日本人の観光客数は1997年の221万人から、2018年に157万人とピークには戻っていない。アメリカ本土からの観光客をうまく取り込み、近年は観光収入や観光客数で成長を遂げている。

一方、観光収入では遠くハワイに及ばない沖縄にもポテンシャルがある。琉球王国から続く、深い歴史と文化だ。

世界の旅行事情に詳しい、星野リゾートの星野佳路代表は「今、世界の旅行者が求めているのは“地域らしさ”だ」と指摘する。かつて欧米の有名ブランドを冠したホテルホテルチェーンであれば、どこの国で泊まっても、清潔な部屋と快適な空調やシャワーが保証されていた。しかし今では、有名ホテルチェーンでなくてもそうした快適さは当たり前になった。

「旅行者の洗練度が上がった結果、方言や食べ物、習慣など、地域ごとの魅力が観光資源になる時代がきた。そうしたものを表現することは、恥ずかしいことではなく、格好いい時代になっている」(星野氏)。

沖縄の現在の観光振興策は空港や道路などインフラの整備が中心だ。世界の旅行者を呼び込むには、より時代のトレンドや潮流に合わせて、洗練する必要がありそうだ。

『週刊東洋経済』8月3日号(7月29日発売)の特集は「ハワイvs.沖縄」です。