トランプ大統領の支持基盤は現状以上に広がらないが、すでに支持している人々の信念は強固だ(写真:REUTERS/Kevin Lamarque)

2020年アメリカ大統領選に向けて、トランプ大統領は今のところ支持基盤を広げる試みは行っておらず、支持率は伸び悩んでいる。ギャラップの最新世論調査(7月1〜12日)では、大統領の支持率は44%、不支持率は51%だ。好調な経済が追い風になっているにも関わらず、「支持」が「不支持」を上回ったことは一度もない。

ただし、支持率は頭打ちでも、「5番街支持者」(注)とも呼ばれる根強い支持基盤があり、政権発足以来、支持率がほとんど下がらないのも特徴だ。景気拡大が史上最長を達成したこと、トランプ陣営の資金力・情報分析力に加え、現職が有利であることを考慮すると、現時点ではトランプ氏再選の可能性が高い。2016年と同様に得票率では大差で負けても、選挙人制度の仕組みによって再選を果たすことは大いにあり得る。

それでも、大統領選までは15カ月以上、民主党予備選までは半年以上と多くの時間が残されている。この間に何が起こるかはわからない。現時点で見えてきた、これから選挙戦を左右しそうなポイントについて、まとめてみたい。

「信任投票」でなく「トランプ vs.社会主義者」に

歴代大統領と異なり支持率がこれから大幅に高まる可能性は低いため、トランプ氏が再選するには、大統領選を自らの「信任投票」とすることは避けて、民主党の対抗馬との「比較の選挙」とする戦略が有効だ。2016年大統領選においても、トランプ候補はさまざまなスキャンダルが問題視されたにもかかわらず、自らが大統領として相応しいかどうかではなく、自らとヒラリー・クリントン候補とのどちらがよいか、という「比較の選挙」に持ち込んだことで勝利した。そのため、民主党候補を「社会主義者」、「不法移民を容認している」などと批判している。

すでにトランプ陣営は、「トランプ大統領か、社会主義者か」の選択をアメリカ国民に迫っている。ワシントンポスト紙-ABCテレビによる最新世論調査(6月28日〜7月1日)では、「仮にトランプ大統領と、あなたが社会主義者と位置付ける民主党候補が対決した場合、どちらを支持するか」との質問が設けられ、これに対する回答で、「トランプ」が「社会主義者」を49%対43%で上回った。トランプ陣営は民主党の誰が候補となったとしても「民主党の大統領候補は社会主義者である」とのレッテルを貼る試みを始めている。

注)2016年大統領選最中の支持者の集会において、トランプ大統領は「5番街のど真ん中で誰かを拳銃で撃っても支持者を誰も失わない」と語った。ここから、強固なトランプ支持者は「5番街支持者」とも称される。


トランプ大統領に標的にされたスクワッド。写真・左から民主党下院議員のアヤンナ・プレスリー、アレクサンドラ・オカシオコルテス、イルハン・オマル、ラシダ・トライブの各氏 (写真:REUTERS/Erin Scott)

7月にトランプ大統領は進歩派で非白人かつ女性の4人の下院民主党新人議員「スクワッド(Squad:分隊)」を攻撃した。民主党の大統領候補や民主党指導部はスクワッドを擁護したが、この行為は民主党の大統領候補にとっては命取りとなりかねない。民主党全体が極左であるというイメージを持たれるかもしれないからだ。

現実にはペロシ下院議長をはじめ民主党指導部が下院の議題を設定している。特に2018年中間選挙で共和党の牙城を奪って当選した多くの民主党議員は穏健派であるため、民主党進歩派の4人の議員は党内でも少数派であり、影響力は限定的だ。だが、トランプ氏がスクワッドの批判をすればするほど、民主党進歩派に注目が集まり、国民の民主党に対するイメージは極端な左に偏りかねない。トランプ氏は民主党大統領候補についてもスクワッドと同様の極左であるとのレッテルを貼って「比較の選挙」に持ち込むことが予想される。

2020年、再びラストベルトが焦点に

2016年大統領選を振り返ると、得票率ではクリントン候補がトランプ候補を2.1%ポイント(約290万票)上回ったものの、ブルーウォール(注)であったはずのラストベルト地帯3州(ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア)でトランプ氏がクリントン候補を計7万8000票上回る僅差で勝利した。これら3州は2016年までの20年間(1992〜2012年)、毎回民主党の大統領候補が勝利しているが、ヒラリー・クリントン候補がここに注力しなかったことは明らかな選挙戦略ミスであった。

したがって、2020年大統領選で民主党候補がホワイトハウスを奪還するには、ラストベルト地域のブルーウォールを再構築する必要があると考えられる。仮に選挙人が多い激戦州のオハイオ州やフロリダ州で共和党に負けたとしても、クリントン候補が勝利したすべての州に加えこれらのラストベルト3州で勝利すれば、大統領選を制することができる。

2008年・2012年の各大統領選ではバラク・オバマ元大統領に投票し、2016年にはトランプ候補にくら替えしたオバマ-トランプ有権者は「トランプ・デモクラット」と呼ばれるが、その支持を取り戻すことが最重要策となろう。問題は民主党が果たして、ラストベルト地域の「トランプ・デモクラット」にアピールできる候補を選べるかどうかだ。この人々はトランプ氏の強硬な移民政策や貿易政策を支持しているからだ。

民主党が進歩派の候補を選定する場合は、共和党と民主党の接戦州である南部のサンベルト(北緯37度以南で日照時間が長い地域)で勝利することによって、ホワイトハウスを奪還する戦術もありうる。若年層・マイノリティ・大卒の民主党支持者が増加しつつあるからだ。ただし、この地域はいまだに共和党、トランプ大統領の人気が根強いため、ラストベルト地域での戦いと比べて民主党にとってははるかに難しいものになる。

注)ブルーウォールとは民主党の牙城の州を指す。シンボルカラーが青の民主党が大統領選で勝利を重ねてきた州。


名乗りを上げている民主党の多彩な面々。まだ抜きん出た候補はいない( 写真: REUTERS)

民主党の大統領候補者による第1回民主党テレビ討論会(2019年6月26〜27日)までは、支持率は知名度に基づくものだった。2017年まで副大統領であったジョー・バイデン氏や2016年大統領選に出馬したバーニー・サンダース上院議員が先頭を走っていた。だが、今やその先頭集団にはエリザベス・ウォーレン上院議員、カマラ・ハリス上院議員、インディアナ州サウスベンド市のピート・ブティジェッジ市長などがくい込み、トップ争いは激しさを増している。

今日、民主党は大きく2つのグループに分けることができる。1つが「革新派」、もう1つが「復元派」だ。

革新派とは既存の政治体制の破壊、一新を望む進歩派のグループだ。ウォーレン、ハリス、サンダース、ブティジェッジなどが入る。対する「復元派」は、トランプ大統領のみを問題視し、既存の政治体制の一新までは望まない穏健派・主流派のグループだ。同グループには、バイデン氏のほか、エイミー・クロブチャー上院議員、マイケル・ベネット上院議員、ジョン・ヒッケンルーパー前コロラド州知事などが含まれる。だが、先頭集団に入っている復元派候補はバイデン氏のみであり、復元派グループは同氏がほぼ独占している状態だ。

選ぶのはバイデン氏かアウトサイダーか

NBCテレビ-ウォールストリートジャーナル紙の世論調査(2019年7月7〜9日)で、民主党候補の政策について民主党予備選の有権者を対象にした質問に次のようなものがある。「費用がかかり、法律にするのは難しい可能性があるものの、大幅な変化をもたらす大規模な政策を提案する候補を支持する」か、「費用は比較的抑えられ、法律にするのはより容易であるものの、変化はわずかな小規模な政策を提案する候補を支持する」か。

前者と答えたのは54%で、後者と答えたのは41%であった。つまり前者が革新派支持、後者が復元派支持といえ、民主党有権者は革新派支持者のほうが多い。だが、54%を4人で争う一方、41%をバイデン氏が独り占めするかぎり、同氏は予備選で当面残る可能性が高い。

民主党は予備選で党内闘争が激しく、候補はまずは予備選で勝利することに必死だ。現在の焦点は、本選で重要なラストベルトの州ではなく、アイオワ、ニューハンプシャー、サウスカロライナなど予備選の初戦州だ。その間にトランプ大統領はラストベルト地域をはじめ激戦州を巡り、早くも本選に向け選挙キャンペーンを展開している。

党内闘争が絶えないものの、次期大統領選でトランプ氏に勝利することが民主党支持者の一致した目標であり、「勝てる候補」を選定することが重視される。現状では、民主党支持者が考える「勝てる候補」とは、政治経験の長さや知名度など過去の実績に基づくものであり、バイデン氏が該当するとみられてきた。しかし、その座は危ういものでもある。


バイデン氏では戦えない?(写真:REUTERS/Brian Snyder)

民主党大統領候補の第1回テレビ討論会では、バイデン候補は人種問題に関して過去自らが推進した政策についてハリス候補から批判を受けた。そして、回答は説得力に欠ける内容であった。討論会後、バイデン氏は準備不足であったと釈明したが、本選でトランプ大統領の攻撃に対抗できるか不安視されるようになった。 

7月30〜31日、第2回テレビ討論会が行われる。「勝てる候補」のはずのバイデン候補が再び弱さを露呈すれば、民主党予備選の有権者の支持は他の候補に移ることもありうる。2016年大統領選でいえば、共和党予備選で当初は先頭にいたがその後は力尽きたジェブ・ブッシュ候補のような事態に発展するかもしれない。

近年の大統領選で予備選と本選の両方を勝利した民主党候補は、変革を訴えるアウトサイダーである。2008年の大統領選を制したオバマ候補は当初、予備選では勝てる候補とは思われていなかった。1992年に勝利したビル・クリントン元大統領、1976年に当選したジミー・カーター元大統領も同様だ。

ベトナム戦争、ウォーターゲート事件などを経て民主党有権者はワシントン政治に懐疑的となり、アメリカ政治の変革を公約にかかげるアウトサイダー候補を選んできた。バイデン候補は主流派の代表格であり、最もアウトサイダーから遠い人物だ。仮に民主党大統領候補に指名されれば、本選にこれまで出馬した候補の中では政治歴が最も長い候補となる。

「トランプ・デモクラット」の動向がカギを握る

本選では、2016年にはトランプ氏に投票したものの、2018年中間選挙では投票所に足を運ばなかった有権者がどのような投票行動に出るかが重要だ。最終的に民主党大統領候補が誰になるかで選挙戦は変わるだろう。

仮に民主党大統領候補が革新派である場合、ラストベルト地域のトランプ・デモクラットが支持するかどうかが極めて重要な問題となってくる。ラストベルト地域に多く集結するトランプ・デモクラットは社会思想が保守的であることからも、移民、人種、性差別などで進歩主義政策を打ち出す革新派候補には抵抗感を抱く可能性があろう。

一方、バイデン候補は自らを労働者階級の出身と位置づけ、本選での同階層の支持獲得を重視した選挙キャンペーンを展開している。バイデン氏のような主流派を民主党が選んだ場合、革新派支持の有権者が関心を失い投票しないリスクも懸念される。

だが、近年の民主党大統領と異なり、1976年以前のように政治歴が長く、アウトサイダー候補でない人物が本選では支持される可能性もある。なぜなら、今回はトランプ大統領の再選を阻むために投票するという民主党支持者が増えるかもしれないからだ。

ワシントン政治にある種の革新をもたらしてきたトランプ大統領に2期目を任せるのか、またはトランプ大統領の前の時代に戻ることを望み民主党復元派に託すのか、または新たな変革を公約する民主党革新派に託すのか、そのカギは「トランプ・デモクラット」が握っている。