弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入!酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは?第2本目も、心から愛する栃木の銘酒から一番人気の逸品を紹介!

photo:Tetsuya Ito Hibiki Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita

2本目に選んだのは、すっきりさわやかなバランスのいい飲み口の「仙禽 初槽 直汲み なかどり」

栃木県さくら市に江戸時代後期に創業した蔵元「仙禽」より、「仙禽 初槽 直汲み なかどり」720ml 1600円(ひいな購入時価格)/株式会社せんきん

娘・ひいな(以下、ひいな)「今月のテーマは数珠つなぎになっていて、1本目は酸を感じるもの、2本目もまあまあ酸があって、3本目が違う酸で魚に合うもの。4本目は魚に合う、違う味わいの日本酒という流れになってる」
父・徹也(以下、テツヤ)「なるほど。で、2本目も『仙禽』なんだね」
ひいな「『仙禽』はね、すごいの! 大好き!」

ひいな「お父さんって、ナチュールワイン好きなんだよね。こう見えて(笑)」
テツヤ「めっちゃナチュールな顔してるもんな!」
ひいな「日本酒とワインって似ているところがあって。『仙禽』ってすごく水を大事にしているの。『ドメーヌ化』っていうんだけど。ワインだったら、その土地で育ったぶどうを使うのって当たり前なんだけど、『仙禽』もお米からつくってるの。米づくりで使ったのと同じ水を使って仕込んでいて、酒造りにも『ドメーヌ化』が進んでいて。その考え方はお父さんも好きなんじゃないかなと思って」
テツヤ「うん、ワインにも通じるね」
ひいな「通常。お酒造りにおいてお米は、山田錦と五百万石という酒造好適米を使うんだけど、『仙禽』は栃木県さくら市の地元の米を使って、地元の水で醸してる」
テツヤ「その土地で完結してるんだね。いい酒造だね」
ひいな「『仙禽』が作ってるお米はすべて『ドメーヌさくら』っていう名前になってるんだよ」
テツヤ「佐倉市といえば、長嶋茂雄だよな」
ひいな「それは千葉県の佐倉市(笑)。『仙禽』は栃木県のさくら市!
『仙禽』は土地の個性が『仙禽』の個性だって言い切ってて。そういう蔵がいま増えてるの。蔵で米を育てたり、契約農家で米を育てたり。ワインと同じになってきてる。お父さんそういうの、好きでしょう?」
テツヤ「うん。それにしても、やっぱり親子だね。好きなものにのめり込むのが似てるんだな。俺は競馬だけど(笑)」
ひいな「お酒がおいしいと、何でおいしいんだろう?って追求したくなる」
テツヤ「競馬も一緒。種馬とか、どこの人が育ててるのかな?とか気になる」
ひいな「酒米もまさにそう。酒造好適米ではないお米を使ってるお酒もあったりして、知れば知るほどおもしろいなって」

恒例の酒器選び!今回は夏っぽいガラスの酒器で、さらにさわやかすっきりと!

すっきりとした飲み口をさらに味わうために、ガラスの酒器がオススメとのこと。

ひいな「『なかどり』は透明なガラスの酒器で飲んでみて。一本目に飲んだ『あらばしり』と比較してほしい」
テツヤ「吟醸系はグラスで飲むことが多いよね。繊細な酒器は持つのも飲むのもドキドキするな」
ひいな「夏に冷酒を飲むにはぴったりだね」
テツヤ & ひいな「乾杯!」

テツヤ「ぜんぜん味が違うね! さっき飲んだ『あらばしり』と同じ酒なのに。『なかどり』って感じがする(笑)」
ひいな「また適当なこと言ってる(笑)」
テツヤ「『なかどり』もおいしいね。『あらばしり』と違う酸の感じだね。おいしい〜! 」
ひいな「うまみがあるよね。『なかどり』が好きな人が多いのもわかる」

合わせるおつまみは、いい漬かり具合の「自家製 ぬか漬け」

ほどよく漬かった、かぶ、にんじん、だいこん、きゅうりのぬか漬けの乳酸発酵は相性バッチリ。

ひいな「『なかどり』は和の酸にも合うかなと思って、ぬか漬けと合わせてみた。ぬか漬けと合わせて飲んでみて」

(ぬか漬けを食べてもう一杯)

テツヤ「う〜ん、合うねぇ。それにしても『なかどり』うまいな。ちょっと置いとくと酸がまろやかになるね。俺、『なかどり』が好きだな」
ひいな「好みが分かれたね」
テツヤ「『あらばしり』はね、ちょっと苦味を感じる。『なかどり』は調和されていておいしい。完成されたお酒って感じ。でも、『あらばしり』が好きって言った方がかっこいいよね。なんか通っぽい(笑)」

同じ樽から取れた同じ日本酒でも、こんなに味が違うとは! 親娘で好みが真っ二つ!?

テツヤ「『なかどり』は飲めば飲むほどうまいねぇ。『あらばしり』も、もう一回飲んでいい? とりあえず、同じグラスで飲んでみようかな。あーーーー、ぜんぜん違うね、やっぱり。でも『あらばしり』もうまいな(笑)」
ひいな「しゅわしゅわしてるし」
テツヤ「でも、ずっと飲めるかっていわれると難しいかもな。『なかどり』のほうがクイクイいける。ずっと飲めるね」
ひいな「でもお店で、『あらばしり』『なかどり』『せめ』の3種類があったら、私はやっぱり『あらばしり』を飲んじゃうと思う。『あらばしり』『おりがらみ」』っていう言葉に反応しちゃう」
テツヤ『あらばしり』と『おりがらみ』は一緒なの?」
ひいな「別なんだけど、『あらばしり』も自然に澱がからんでるから、似てるのかな。『山崎醸』ってお酒は『春かすみ』って名前でお酒を出していたり。澱が入ってるのが霞に見えるから」
テツヤ「日本的だねぇ。情景が目に浮かぶねぇ」
ひいな「いつ飲んでも同じ味じゃないの。それが日本酒の良さでもある。時期によって、飲むものの味が変わるの」

テツヤ「日本酒初心者の俺としては、『なかどり』のほうが飲みやすかったね」
ひいな「その意見が聞けてうれしい。初めて好きになった日本酒が『仙禽』だから、お父さんがどっちを好きでもいいの(笑)。同じ日本酒で同じ槽でもこんなに違うのか!っていうことの驚きが日本酒を好きになったきっかけなんだと思う。栃木にある『仙禽』の酒蔵にもいつか行ってみたいな』
テツヤ「栃木のお酒って他にもあるの?」
ひいな「『鳳凰美田』とか『東力士』とか、栃木にはいいお酒がまだあるんだよ。こないだは群馬の土田酒造まで酒蔵見学しに行ってきたし、いま北関東がアツい!」
テツヤ「東京から若い女の子が一人で蔵見学に行ったら、さぞ驚かれたんじゃない(笑)?」
ひいな「お父さんも一緒に蔵見学行こうよ! 今度はそれも記事にしたいね」

★第一夜1本目「仙禽 初槽 直汲み あらばしり」はコチラから
★連載まとめはこちらから
(次回は8月3日(日)更新予定です)