猪口 真 / 株式会社パトス

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アドビから、ユーザーがデジタルコンテンツにどのように接し、どう感じているのかに関する貴重な調査結果が公開された。

企業は商品情報に加えて、ユーザーに有益なコンテンツを提供することで、企業(ブランド)へのロイヤリティを高めようとマーケティング活動を行っている。その活動に関して、気づいていることだとはいえ、ユーザーの厳しい評価がくだされている。

アドビといえば、イラレとフォトショの会社だと思っている人は多いかもしれないが、現在、世界有数のマーケティングの会社でもある。

アドビは、2018年11月に、B2Bマーケティングの会社マケルトを約5,200億円もの大金を投じて買収した。あまりニュースに上ることも少なかったが、実はこれは大変なことだ。

これまで、広告やマーケティング関連での主導権は、WPPや電通などの広告&マーケティング企業がIT企業や小粒でもピリリとしたマーケティングエージェンシーを買収しながら大きくなっていったが、現在は完全に逆転しているといえる。アドビやオラクルは、もはや一介のIT企業ではない。その証拠に、アドビの企業価値は約11兆ともいわれている。

さて、そのアドビが行った調査デーだが、すっかりマーケティング企業としてのスタイルで、定期的にワールドワイドの調査を行い、市場に提供している。日本語になっているものはまだまだ少ないが、今後マーケッターにとって貴重なリソースとなるのは間違いない。

今回発表したデータは、アドビのリリースによれば、消費者のコンテンツに関する意識調査「2019 Adobe Consumer Content Survey」というもので、日本人のデジタルコンテンツ消費に関する5つのトレンドを公表したもので、米国、オーストラリア、インド、日本の4カ国のデジタルデバイス(スマートフォン、タブレット、PCなど)を1台以上所有する18歳以上のユーザーを対象として実施し、日本国内では1,004人を対象に行った、となっている。

そのアドビの調査結果をもとに、いくつか検証してみる。まず、デジタルコンテンツに触れる時間を紹介している。

若者を中心として、テキスト、画像、動画にかかわらずデジタルコンテンツとの接触が増加しているという。調査によると、日本の消費者は1日平均4.8時間をデジタルコンテンツの閲覧に費やしている。18 歳から34歳の世代では、全体平均より1.2時間増え6.0時間となっており、59%以上が複数台のデバイスを使用してデジタルコンテンツにアクセスしているという。

ユニークなのは、年齢と共にデジタルコンテンツへの接触時間は減るが、65歳を超えるとまた増えるらしい。単純に空き時間が増えるということか。

ここで、アドビのプロダクトマーケティング担当ディレクターであるケビン リンジーがユニークな見解を示している。

それは、「消費者はFOMO(fear of missing out)を実感しています」というもので、要は仲間に乗り遅れる、取り残されていることに、恐怖を感じるというものだ。スマホを起点に常に仲間と共有できるために、有益、無益にかかわらず、とにかく情報に触れて乗り遅れないようにしておきたい気持ちが強いという。この状態が続くのは良い傾向だとは思わないが、こういう意識は今後さらに増えるかもしれない。

我々、コンテンツマーケティングを提供するものとして頭が痛い結果となったのは、企業のWebサイトを見るにあたって、イライラさせることについてのアンケート結果だ。

調査によれば、最もイライラしてしまうこととして「コンテンツを見つけるまでにページやスクリーンをたくさん見る必要がある」(33%)、「関係の無いオファーを受ける」(33%)、「ページの読み込みが遅い」(32%)という結果になっていた。

ページの読み込みのスピードは、単にデータの重さだけではなくサーバーや回線などのコストの問題もあり簡単ではないが、今後の大きな課題だろう。

また、「企業のコンテンツで最も不快に感じることは何か」についてでは、「だらだらと長い/文章が下手」(43%)、「パーソナライズされすぎていて気持ちが悪い」(25%)、「自分自身や置かれている状況に関連性がない」(24%)、「自分のデバイスに最適化されていない」となっている。

こうしたことは、動画についても同様で、動画へのアクセスや閲覧は行うものの、「日本の消費者の60%が動画の「解像度が低い」または「動画の読み込みが遅い」とコンテンツの閲覧を完全にやめる」となっている。

「だらだらと長い」ことがよくないことだというのはわかってはいるものの、約半数のユーザーがあげている(ダントツの1位)ことには、多くのマーケッターが感じていることではあるが、想像以上に厳しいと感じているのではないか。

コンテンツを十分に伝えようとするあまりに、重く冗長的なコンテンツとなることが増えている。これは、完全に編集力のなさが露呈している。もちろん短ければいいということではないが、ものごとを、「端的に、わかりやすく、しかも面白く」伝えることに、発信者はさらに注力しなければならないことが明らかになった。

現在多くの企業や躍起になっている、適切はパーソナライズやデバイス対応はもちろん必要だが、その前に、発信すべきコンテンツを再編集することが今求められているということなのだろう。