「タピオカドリンク」ブームもあってか、路上に放置される容器が増えている(写真:共同通信)

東証1部上場で石炭事業が主力の三井松島ホールディングス傘下に日本ストローという会社がある。年間約55億本ものストローを生産し、飲料パックなどに付いている伸縮ストローで国内シェア約65%のトップメーカーだ。

最近はタピオカドリンクブームを背景に数量を伸ばしているが、世界的に進む「脱プラスチック」の動きが経営に影響するのではないかと懸念されている。

ストローが「脱プラ」の象徴になったわけ

ストローは脱プラスチックの象徴となっているが、ポイ捨てなどによって海洋に流出するプラスチックごみは世界で年間約800万トンにのぼるが、そのうちストロー由来のものは0.1%未満にすぎない。それでもストローが脱プラの象徴となった理由は2015年にネットで公開されたある動画がきっかけだ。

動画には鼻にストローが刺さったウミガメからストローを引き抜く痛々しい姿が映し出されており、脱プラの機運を高めるきっかけとなった。その後もストロー業界における脱プラの勢いはとどまるところを知らず、紙ストロー需要が急増している。日本ストローの稲葉敬次社長は「(昨年秋ごろは)紙ストローがあればいくらでも買うと問い合わせがあったほどだ」という。

しかし、同社はこれまで紙ストローの生産に消極的だった。プラ製ストローとは製法が異なり、プラ製ストローで培ったノウハウを生かすことが難しいからだ。原料であるプラスチックの一種、ポリプロピレンを熱して成型するのがプラ製ストローだが、紙製ストローは3枚の紙を編み込んで作るため、製造方法はまったく異なる。

だが、問い合わせが多いことを踏まえ、今秋から紙ストローの生産に踏み切る。

同社は紙ストロー以外にも生分解性プラスチックを使ったストローなど幅広い製品をそろえる。当然、老若男女が使うストローの安全性を高い水準に保つことは絶対の条件だ。例えば子どもがストローの口の部分を噛んで潰してしまっても問題なく使えなければならない。

先に述べた生分解性プラスチックは一定の環境下で分解される特長がある反面、コスト高で成型がしにくい。日本ストローはこれまでも乳業メーカーや飲料メーカーに対し、生分解性ストローを提案してきた。しかし、「お客様の反応は今ひとつ」(稲葉社長)だった。

その理由は日本のプラスチックごみの処理方法に問題があるからだ。

外食やホテル業界で普及する紙ストロー

生分解性ストローを分解するには、生分解性プラだけを分別収集し、専用の処理設備に搬入する必要がある。だが、日本のごみ収集は生分解プラスチックと通常のプラスチックを区別していない。コスト高で成型が難しい素材をせっかく導入しても、普通のプラスチックごみとして燃やされているのが実情で、「顧客も前向きになってくれない」(稲葉社長)のだ。

そういう意味でメーカーにとって生分解性プラスチックよりも紙のほうが取り組みやすい素材と言える。紙ストローの1本当たりのコストはプラ製ストローに比べて約10倍。当面は外食チェーンやホテルなどを中心に普及が進むとみられている。企業イメージに資するだけでなく、1個100円前後の紙パック飲料よりも、ストローのコスト上昇分を賄いやすいからだ。

製紙業界では、大手の日本製紙が今年4月から紙ストローの販売を始めた。日本国内の紙需要が減りつつある中、プラスチックの代替として紙が採用される余地は大きいとみる。「まずはストローという入り口に取り組むことで、(プラスチック製だった)袋や包装材用の紙需要を喚起したい」(長知明・紙化ソリューション推進室長)と強調する。

粗悪な紙製ストローの中には使い始めて十数分でふやけて使えなくなってしまうものもあるが、耐久性や口当たりなど高品質なストローで差別化を図る考えだ。「プラと変わらないくらいの使いやすいものをつくらないといけないと思っていた」(長氏)と意気込む。

海外で紙ストロー市場を開拓しようとしている日本企業も存在する。大手総合商社の丸紅は、国産の高品質な原紙を中国の紙ストロー生産メーカーに供給している。中国は現在、欧米向け紙ストローの製造基地となっており、中国国内で製造される紙ストローの約9割が欧米向けとみられる。

日本は廃プラの2割を海外に輸出

丸紅の原紙輸出数量は年間300トンほど。ストローに換算して2億本に相当する。紙ストロー需要が高まる中で高品質な日本製原紙の需要はますます高まっているという。丸紅紙パルプ販売の山口信一・包装資材営業本部長は「中国製紙メーカーの納入した製品にカビが生えていたり、発がん性物質が大量に見つかったりしたことでより高い安全性が求められるようになった」と指摘する。

ストローの脱プラをどう実現するかに各社はしのぎを削る一方、根本的な問題としてプラスチック使用量を減らすべきだという声も上がる。日本では廃プラ処理が国内だけで完結しないのが現状だ。


日本は年間903万トンの廃プラのうち、1割強、約130万トンを海外へ輸出している。輸出先は世界最大のプラごみ輸入国だった中国が多かったが、その中国は2018年に輸入禁止に踏み切ったため、行き場を失ったプラごみは東南アジアの国々に流れている。

だが、今年5月末にマレーシアが輸入されたプラごみを輸出国に返却する方針を示すなどプラごみは行き先を失いつつある。日本はアメリカ、ドイツに次いで世界第3位の「プラごみ輸出大国」であり、そもそも「使い捨てプラスチックの大幅な削減が重要だ」(グリーンピース・ジャパンの大館弘昌氏)と指摘する声もある。日本社会とプラスチックとの付き合い方が問われているといえそうだ。