本業は好調でありながらともに赤字を出したLINEメルカリ。写真は、3月の業務提携発表会に登壇したLINEペイの長福久弘COO(左)とメルペイの青柳直樹代表(右)(撮影:風間仁一郎)

7月24日、LINELINE)は2019年6月中間連結決算で純損失が266億円になると発表。前年同期は29億円の純利益だったが、QRコード決済の競争が激化したことでキャッシュバックキャンペーンなど顧客獲得コストが増大。広告事業は1107億円の純益(前年同期比11.5%増)と好調だったが、決済事業が大きく足を引っ張った。

翌25日にはLINEのパートナー企業でもあるメルカリが、2019年6月期の連結業績予想で、137億円の損失を出す見通しであることを発表。こちらも本業は好調であるものの、モバイル決済サービス「メルペイ」のプロモーションコストがかさんで損失を出している点はLINEと共通している。

25種類のQR決済が乱立する日本

昨年末以来、過熱しているQRコードなどを用いたスマホ決済は、筆者が把握しているだけでも25種類が乱立しており、今後も増える可能性がある。QRコード決済が盛んな中国でも主流のサービスはアリババ、WeChat、ユニオンペイの3種類で、米国もビザ、マスター、アマゾンの3種類だ。

QRコード決済はシステム開発や初期投資のハードルが比較的低く、参入しやすいとはいえ、消費者側では「なんちゃらペイ」としか思い出せないほどの乱立ぶりだ。

競合の増加に加え、キャッシュバック競争の激化が損失拡大を加速させている。昨年末に参入したソフトバンクとヤフーの合弁モバイル決済子会社ペイペイが仕掛けた大型キャッシュバックキャンペーンに対抗するため、メルペイはゴールデンウィークに決済金額の最大70%をポイント還元するキャンペーンを実施した。LINEも、LINEの友だちなら誰にでも1000円分のポイントをプレゼントできるキャンペーンを5月に行っている。

7月にもペイペイ、LINEペイ、メルペイは合同でセブンイレブンにおける20%キャッシュバックキャンペーンを実施し、顧客獲得のためになりふり構わぬバラマキが行われている。

キャンペーンには顧客獲得とともに加盟店増を狙う意図もあるため、いずれは競争も落ち着くだろう。ここまで多くの参入、顧客獲得キャンペーンへの投資が過熱している理由は、10月1日の消費増税に合わせて始まる「キャッシュレス・消費者還元事業」だ。2020年6月までの9カ月間、店舗の種類により5%、あるいは2%のポイント還元が、消費増税による消費低迷の緩和を狙って実施される。

対象となるのはクレジットカード、デビットカード、非接触ICカード、それにQRコードなどのスマホ決済だ。参入が比較的容易なQRコード決済に群がるのは、政府がキャッシュレス推進協議会を通じて主導する、キャッシュレス社会実現に向けた動きに反応したものと言える。

この国を挙げたキャンペーンを通じ、キャッシュレス取引が社会に定着したときに「実際に使ってもらえる決済サービス」になっているための顧客獲得キャンペーンといえる。

QRコード決済が普及した中国との違い

しかしQRコード決済が中国で普及した背景には、少額決済のインフラが整備されていなかったことがある。日本の場合、すでにFeliCaを用いた非接触ICカード決済の端末が普及している。初期コストも下がってきていることから、QRコード決済の比率が中国のように激増するとは考えにくい。

各社の投資は消費者還元事業が続く2020年6月まで続くだろう。しかし、QRコード決済はアプリ一つで簡単に使い始めることができるものの、乗り換えの障壁もほとんどない。獲得した顧客が定着するかは、LINEならば通話・チャットサービス、メルカリならばフリーマーケットサービスとの連動性など、本業側をどのように生かすかの提案性に依存する。

身を切って獲得した顧客が将来の収益を本当に生み出すのか。「○○ペイ」の先にある収益モデルについて、各社はそろそろ具体的な形で投資家に説明すべきときだ。