by Schmid-Reportagen

地球温暖化がもたらす大きな影響の一つとして、高山や極地に存在する氷河の融解が挙げられます。研究者らは気温や水温、海流などから氷河の融解スピードを推測していましたが、オレゴン大学やアラスカ大学などの研究者たちが実際に海面下の氷河融解速度を測定したところ、これまでの氷河融解モデルは「非常に不正確」であり、予測よりもはるかに早いスピードで氷河の融解が進んでいることが判明しました。

Direct observations of submarine melt and subsurface geometry at a tidewater glacier | Science

https://science.sciencemag.org/content/365/6451/369

Underwater glacial melting up to 100 times faster than thought, study finds | The Independent

https://www.independent.co.uk/environment/glacial-melting-climate-breakdown-sea-level-rise-study-a9021266.html

Oceans Are Melting Glaciers from Below Much Faster than Predicted, Study Finds | InsideClimate News

https://insideclimatenews.org/news/25072019/glacier-melting-warming-oceans-climate-change-arctic-antarctica-study



海面下の氷河を溶かす主要因としてこれまで考えられていたのは水温や気温、海流であり、これらのデータをもとに氷河融解のモデルが作成されていました。研究チームはモデルに頼るだけでなく、実際に氷河がどれほどのスピードで融解しているのかを測定するため、アラスカ南東部にあるルコンテ氷河の融解を直接観測しました。

氷河学者や海洋学者、エンジニアなどで構成された研究チームは、ソナーを使って水面下の氷河がどのような輪郭なのかを測定したほか、氷河から溶け出した水の流れや温度、塩分濃度などについても測定。これらのデータに加え、タイムラプス撮影を用いて氷河の融解を観測し、気象観測所のデータで氷河表面の融解についても測定したとのこと。

2年にわたる観測の結果、これまでの氷河融解モデルよりもはるかに早いスピードで海水中の氷河融解が進行していることが判明しました。論文の共著者であるレベッカ・ジャクソン氏は、「私たちは水面下の氷河融解が予想されていたよりもはるかに早いことを発見しました。場合によっては、予想の100倍ものスピードで氷河が溶け出しています」と述べています。



かつてのモデルでは氷河融解を単純化しすぎていたと研究者らは指摘しており、たとえば水面下の氷河がどのような形状になっているのか、あるいは海水の塩分濃度なども融解速度に影響しているとのこと。海水の下にある氷河の融解速度は、いくつもの要因が複雑に絡み合っているそうです。

地球温暖化による氷河融解は深刻な問題となっており、毎年アルプス山脈全体の氷の3倍にあたる氷河が溶けているとの研究結果も発表されています。

毎年アルプス山脈の全氷雪の3倍に相当する氷河が失われている - GIGAZINE



また、海に向かって突き出している氷河では下の部分が海水に浸かっているため、水面下の氷河が融解することによって全体のバランスが崩れ、海水の上に出ている部分が崩壊して海に落下することがあります。そのため、水面下の氷河融解速度に関する従来のモデルが変更されることは、氷河の融解について考える上で非常に大きな意味を持つとのこと。

氷河の融解がもたらす影響としては「海水面の上昇」などがよく語られますが、研究チームでは「一気に融解水が流れ込むことにより海水がかき混ぜられ、栄養素のバランスが変化してプランクトンを増加させる」「より多くの淡水が海水に流れ込むことで塩分濃度が変化する」といった生態系への影響を指摘しています。

地球温暖化による氷河融解は、単に温暖化のもたらす象徴的イベントというだけではなく、人々の生活にも大きな影響を及ぼします。研究チームはより正確な氷河融解モデルを作成することが、氷河融解に伴う人々の備えにとって重要だと述べました。



by Tim Rawle