”事故物件住みます芸人”松原タニシが「異界」に足を踏み入れた理由とは?

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「事故物件住みます芸人」として一躍有名になった松竹芸能所属のピン芸人・松原タニシが、自身2冊目となる著書を発売した。『異界探訪記 恐い旅 』と銘打たれた今作では、松原タニシが200 箇所以上の「異界」 を巡り、そこで体験した不思議な話を旅行記として編纂している。事故物件住みます芸人は、なぜ異界に足を踏み入れようとしたのか。そもそも異界とは何なのか。著書の刊行に際して、インタビューを行った。

―――松原さんが事故物件に住んだのはテレビの企画が始まりでいらっしゃるとお聞きしました。どうして、今でもなお、自ら進んで事故物件に住み続けていらっしゃるのでしょう?

松原タニシ(以下、松原):「幽霊や怪奇現象に出会いたい」という気持ちはもちろんあるのですが、実際に事故物件に住んでみて、みなさんが思われるような「怖い」だとか「気持ち悪い」「嫌だ」っていう感情がなくなったんですよね。事故物件に住むのが当たり前になってみると、わざわざ普通の物件を選んで住むっていうことが「普通」じゃないように思えてしまう自分がいるんです。今まで住んできたことを否定してしまうような気がしてしまう。

―――事故物件に住むのが当たり前になっている?

松原:そうですね。事故物件に住むことで、本を書かせてもらえたり、こうしてインタビューをしてもらえたり、世間が反応してくれたのも大きいですね。お笑い芸人だけで、メディアにも露出せずにやってきてた時とは全然違う感じです。

―――大半の人は、興味はありつつも、実際に恐怖体験をしたいとは思いません。どうして松原さんは、あえて事故物件に住んでまで恐怖体験をしようと思われたのでしょうか?

松原:今の時代、色々な怖い話とか噂話、都市伝説の類はインターネットやメディアから簡単に仕入れることができるんです。なんとなく楽しむ分にはいいかも知れないんですけど、一度オカルト方面に興味が出てくると、ついつい根拠や出所を調べたくなるんですね。そうすると、ネットとかに出回っている話は、いかに根拠のない話が多いかっていうのが分かる。誰かが噂話で言ったことに尾ひれはひれがついて、あたかもそれが真実であるかのようにひとり歩きしてしまう、ということに気付いたんです。

だったら、(自分が)実際に怖い話に身を投じて、そういう奇妙な出来事や不思議な超常現象が本当に起きるのかを確かめてみようと考えたんです。「怖い思いをしたい」から事故物件に住むとか、心霊の現場に行くのではなく、「確かめたい」っていう気持ちが強いですね。

―――真実を知りたいという、ジャーナリズムのような思想ですね。

―――ホラー映画などでよくテーマになることですが、実際に心霊体験を多く体験してきた松原さんにとっては、「実在の人間」と「心霊」、どちらの方が怖いですか?

松原:人間ですね。間違いなく人間。

―――どうしてそう思われるのでしょう?

松原:イメージとして心霊は怖いかも知れないですけど、実際に僕たちのことを傷付けるのは、人間の恨みや妬み、嫉みじゃないですか。ネットが普及して、SNSが広がって、世界中の人たちと気軽に繋がれるようになった素晴らしい時代なのに、実際に行われているのは揚げ足の取り合いや罵倒ばかりじゃないですか。そういう足の引っ張り合いをしても何も解決しないのに、僕たちはそれをやめられない。歴史を遡っても、人間の欲望なり自己顕示欲が発端になって争いが生まれているじゃないですか。人間の負の感情の方が、永遠に解決できないという意味で恐ろしいと思います。一方の心霊は、こちらの捉え方で怖くもなるし、優しくもなる。希望にもなったりする。

―――希望にもなる?

松原:「オバケなんてないさ」じゃないですけど、オバケなんてないさって思われている今の時代に、本当にオバケがいるとしたら、実はこの世界には、まだ分からないことがあるってことじゃないですか。そういう不思議な出来事や、まだ解明されてないものがあることが、人間にとって「良いこと」なのか「悪いこと」なのかは分からないけれど、少なくとも、その未知の先には、「楽しいこと」「面白いこと」があるんじゃないだろうか、って思えるんです。

―――松原さんにとって心霊は、単なる「恐怖の対象」ではなく、「解き明かせない可能性」なのですね。

―――今回発売された本は、事故物件ではなく「異界」をテーマにしています。具体的に「異界」とは何を指すのでしょう?

松原:「異界」っていうのは、さっきの話に繋がるかも知れないんですけど、まだ解明されていないものというか、逃亡できる場所というか。僕たちは現実世界、この世界で思い通りに生きられなかったり、それぞれの人生に問題を抱えていると思うんです。そういった場所から一度逃亡できる場所が「異界」です。自分が今しなければいけないことから一度抜け出すことで、また自分の現実に戻った時にヒントになるような場所。……というのが「異界」なのかなと。

―――世間には、心霊現象の存在を全く信じない方がいらっしゃいます。松原さんご自身の体験を本にしたり、お話になったりして、「異界」の話を信じてもらえると思いますか?

松原:信じてもらわなくても全然オーケーです、というスタンスでいます。信じない人は信じなくていいですし、「そうなんだ」と思ってくれる人は思ってくれていい。僕は僕のために確かめているだけで、「幽霊はいますよ」っていうの証明したいわけじゃないんです。ただ、自分が異界に行ってみたくて、行ってみたらこういうことが起きて、そのありのままの記録を本にしただけなので、どう捉えていただいても大丈夫です。

―――では、どのような方に今回の本を読んでもらいたいですか?

松原:僕としては、「忙しい人」に読んでもらいたいんです。色々な場所に行った旅行記でもあるし、1話1話が短いので、あまりがっつり読まなくても、ちょっとずつでも読めるようになっています。だから、忙しくてどこかに行く時間もないっていう時にパラっと読んでみたら、束の間の逃避行になるというか、疑似体験してもらえるんじゃないかって思います。

―――私も忙しい日々が続いているので、ぜひ読んでみたいと思います

松原:色々な人から「ぶっちゃけ、あれ全部本当じゃないでしょ?」みたいなことを聞かれることがあるのですが、全部本当です。全部本当だからこそ、正直、思っているほど色々なことが起きたりはしないんです。全部本当だから、そこまで色々起きたりはしていないけど、全部本当にしては、結構起きてるんじゃないか、っていうところを読者のみなさんに分かっていただけたら面白いです。疑い深い方にもオススメの一冊です。