すっかり売り手市場となった近年の新卒採用。入社日直前になって「内定辞退」を伝えてくる学生もいる(写真:den-sen/PIXTA)

近年の新卒採用で人事を悩ましているのが「内定辞退」だ。企業の採用意欲が高まると、学生有利の売り手市場になり、複数内定を得る学生が増える。


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どうしても欲しい学生ほど、他社も評価するだろう。そして複数内定を得た学生は1社を選び、他の企業に対し内定辞退をする。

中には10社の内定を取る学生もいるわけだが、その裏では9社の企業が内定を辞退されていることになるわけだ。

人事を悩ませる「内定辞退」

近年は企業の採用意欲が高く、複数内定を持つ学生が増えている。HR総研が2020年卒学生を対象に6月後半に実施した調査では、すでに複数内定を持っている学生が6割もいる。

1人からも内定辞退をされない企業のほうが珍しいだろう。人事の悩みは深く大きくなるというわけだ。

学生と企業の出会いは恋愛に例えられることが多い。一緒になればそのときは幸せだろうが、別れはつらい。内定辞退ではどのような別れ方がいいのか?

HR総研が6月後半に採用担当者を対象に実施した「2020年卒採用動向調査」から探ってみたい。

新卒採用についてメディアが大きく取り上げることが増えており、とくに新聞は定期的に記事を掲載している。日本経済新聞では、火曜日夕刊に「就活のリアル」を定期掲載するほか、「就活探偵団」という企画もある。

5月15日付の就活探偵団は、「内定辞退の正しい伝え方、『直接会って、まず感謝』を」というタイトルだった。探偵団は読者に対し、4月末時点で「7割近くが内定を持ちながらも就活を続けているのが実態」と報告し、内定辞退を出さないための企業の工夫を紹介している。最近では本人だけでは心もとないので、親向けの「同意書」を用意する企業が増えているそうだ。

さらに探偵団は学習院大学が4月に開いた「内定獲得後のマナーセミナー」を取材し、担当事務長の話を紹介している。要旨は、内定を辞退する場合は礼を尽くし「先に内定していた企業の人事担当者に連絡を取ること」、「メールの送りっぱなしや電話で完結してはダメ。必ずその企業に足を運ぶこと」。

担当者と面会したときは「内定をくれたことへの感謝を、いの一番に伝えること」。それから「内定を辞退したい旨を落ち着いて説明する」と書かれている。

丁寧な指導だと思う。礼と感謝はコミュニケーションの基本だ。いつも礼を尽くし、感謝の念が相手に伝わるかどうかは別として、よき人間関係の土台には礼と感謝がある。世間知らずで、若く、経験が足りない学生に対しては、基本を指導すべきだと思う。

「必ず訪問」にかなりの反響

しかし、この記事は掲載されるやいなや、かなりの反響を呼び、疑問を呈するものが多かった。その意見を集約すると次の通りとなる。

企業は、理由を説明せずに学生を落とすのに、学生が辞退するときには訪問しなければならないのか?

企業に行けば、引き止められて厄介なことになる。

地方学生の場合は、交通費がかかる。

企業はそんなに暇ではない。

会いに行かねばならない理由がわからない。

疑問の背景には、メールや電話でもきちんと連絡すればそれでマナーにかなっているという価値観があるのだろう。また、探偵団の記事は、「メールや電話だけではダメ」、「必ずその企業に足を運ぶこと」ときつく表現している。

しかし、このような記事の読み方は単純過ぎる。確かに採用選考時期の採用担当者は多忙を極めているから、学生の内定辞退を聞くために時間を割きたくないこともある。そんなことは学習院大でも先刻承知のはず。「必ず」は学習院大が学生を指導するときに礼儀を強調するために使っているのだと思う。

企業はどのような内定辞退の連絡方法を期待しているのだろうか? HR総研は、6月に採用担当者向けの調査を実施し、「最も望ましい内定辞退の連絡方法」を択一式で回答してもらった。その結果、圧倒的に多いのは51%の「電話」で、実に半数を占めている。

電話だと内定辞退の理由をちゃんと聞くことができるほか、こちらの説得次第で、もしかしたら翻意させることができるかもしれないという淡い期待も込められている。

「メール」で良いとする企業も24%ある。「直接訪問」は11%と少ない。あるいは意外に多いと言うべきかもしれない。「文書」はさらに少なく8%だ。

連絡方法よりも「時期」

電話が2分の1、メールが4分の1、直接訪問は1割強、手紙は1割弱だが、おそらく企業は連絡方法よりも「時期」を気にしていると思う。

4月、5月の内定辞退なら不足分を補う方策はまだいくらでも立てられる。6月でもなんとかなる。しかし、正式内定日の10月1日以降に辞退されると補充するのは難しくなる。

もっとも内定辞退を伝えてくるのなら、時期が遅れたとしてもまだその学生は良心的と言える。いわゆる「サイレント」の学生もいるのだ。

内定を出してから連絡を取ろうとしても、「電話に出ず、メールにも返答しないままで確認が取れなくなる」というケースもあるし、「4月1日の入社式に姿を現さず、そのまま消滅」ということもあるそうだ。


内定辞退にまつわる企業のコメントから具体的な事例を紹介しよう。まず連絡が取れない「蒸発」の事例だ。

「一時的に連絡が取れなくなり、連絡が取れた時には内定辞退の連絡であったこと」(メーカー・301〜1000人)

どん詰まりでの内定辞退もある。

「入社1カ月を切った(3月末)ところで、こちらからの入社日の再確認の電話で辞退を告げられた」(商社・流通・301〜1000人)

大学の企業に対する礼儀も薄れているらしい。企業からの「学生と連絡が取れない」という問い合わせに対し、次の通り、大学が「本人には言ってある」という返答では大人の応対とはいえない。

「本人からの意思決定の連絡が一切無く、再三再四の電話・メール連絡にも折り返しの連絡がなかった。大学に問い合わせても『本人には言ってありますけどね』と取り付く島もない」(サービス・1001人以上)


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大学の入学式や卒業式に、両親や場合によっては祖父母も出席するそうだが、親離れしていない学生も多いようだ。今回のアンケートでは、母親から辞退の連絡を受けたというコメントがあったが、就活中の日程の問い合わせや落ちた理由を聞くために電話してくる母親は珍しくないそうだ。

「『親が(当社への)就職に反対して、院進学を勧めたので辞退したい』という学生がいた。結果としてそのような主体性のない人物を採用せずに済んでよかった」(マスコミ・コンサル・300人以下)

「お母さんからの電話と手紙での辞退がありました」(メーカー・301〜1000人)

企業が好感を持つ内定辞退

すべての内定辞退を企業が嫌うわけではない。ウソがなく誠意のある学生に対しては、たとえ自社の内定を辞退されても、好感を抱く。これは学生の内定辞退に限らず、取引先との関係でも成り立つ公式かもしれない。

「夢であったNHKのアナウンサーに合格したので辞退しますと言われた時は、業界もまったく違うので、社長も含めて全員で純粋に応援した」(メーカー・300人以下)

「電話で、丁寧な連絡があった。どの業界でどんな仕事なのか、誠実に吐露してくれた」(情報・通信・300人以下)

内定辞退されてもその学生に好感を持つのは、その辞退の仕方によって自社が評価した通りの人材だったことがわかったからだろう。そういう学生だから欲しいが、そういう学生なら他業界、他企業に行っても応援したいと考えるのは、人の心理として当然だと思う。