YOUはどうして野球部に? 「いまどき中学野球部員」のリアルな声

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「いまどき中学野球部員」のリアルな声

埼玉・川口市立上青木中は3年生5人、2年生4人(そのうち硬式クラブでプレーする選手が1人。平日の練習のみ参加)、1年生10人で活動。新チームは、実質13人で大会にのぞむことになる。

野球部に入った経緯や野球の魅力、坊主頭に関する素直な感情など、中学球児のリアルな声を聞いてみた。

【3年生】

■「強制坊主なら入部していません」

まずは3年生から。夏は川口市大会で敗れてしまい、部活動は引退。エースでキャプテンの篠田椋助くんと、キャッチャーの石井遥斗くんは、小学生からの野球経験者。市の選抜チーム・川口クラブにも選ばれていて、8月に開催される全日本少年軟式野球大会(横浜スタジアム)に出場する。

篠田くんは中学に上がる際、硬式クラブと軟式野球部で迷った結果、部活動を選んだそうだ。

「野球を楽しくやりたい、というのが一番の気持ちでした。入ってみて感じたのは、部活の場合は学校の友達と一緒に野球ができるので、チームの輪が作りやすい。それが、部活の良さだと思います」

髪型は丸刈り。でも、野球=坊主頭という固定概念は持っていない。

「強制的な坊主をなくすことで、中学から野球を始める子が入りやすくなっていると思います。うちは1年生が10名も入ってくれて、びっくりしました。仮入部のときにたくさん声をかけて、1年生が楽しそうに野球をやっている姿を見て、嬉しかったです」

一方、篠田くんとともに川口クラブに選ばれている石井くんは、非丸刈り派だ。

「3年間、一度も坊主にしていません。もし、強制坊主だったら野球部には入っていません。理由は……、恥ずかしいとかではなくて、何かイヤで」

――坊主頭の意味はどこにあると思う?

「ぼくはないと思います」

ないからこそ、強制的に丸刈りにすることに抵抗感がある。

では、高校で野球を続けることはどのように考えているのだろうか。

「やるつもりでは考えています。でも坊主頭のこともあって、どうしようかな……という気持ちもあります」

こうした悩みを持つ中学3年生は、きっと全国にたくさんいるだろう。

穂刈竜誠くんと大竹孝太郎くんは、中学から野球を始めたコンビだ。

「何をやろうか迷っていたら、篠田くん(キャプン)が誘ってくれて。はじめはルールも知りませんでした。練習でやってきたプレーを、試合でも発揮できたときが一番楽しいです」(穂刈)

髪型は丸刈り。あまり抵抗はなかったという。

大竹くんは、3年間で一度だけ坊主頭にしたことがあったが、そのとき以外は伸ばしている。

「坊主にする意味がわからなくて……、帽子をかぶりやすいぐらいしか思いつきません」

2人に野球部で学んだことを聞くと、「挨拶や感謝の気持ち」と教えてくれた。

今年1月に開催された「埼玉ベースボールフェスタin川口」では、子どもたちをもてなす役割を担い、野球の楽しさを伝える側に回った。

「ベースボールフェスタを通じて、少しでも野球の楽しさを伝えて、野球に興味を持ってもらえたら嬉しいです」(大竹)

【2年生】

■週休2日だからこその楽しさ

2年生でサードを守る渡辺裕太くんは、中1の春まではシニアに入っていたが、6月から野球部に入った。

「ケガをしたこともあったんですけど、学校の友達と少しゆったり野球をやりたいと思って、部活に入りました。悩んでいたときに、大野先生(監督)が『うちでやれば?』と誘ってくれて、うれしかったです。先輩たちも、途中から入ったぼくにとても優しくしてくれました」

クラブと部活の両方を経験したなかで、感じることがあるという。

「学校生活の中で友達と野球の話ができるのが、部活のいいところです。あとはシニアでは土日が1日練習で自分の時間がなかったんですけど、上青木中は日曜と月曜が休みで、平日の練習も18時まで。自分にはそのぐらいのほうが合っていて、野球をするのがめちゃくちゃ楽しいです」

レフトの榊原悠太くんと、セカンドの栗原妃南さんは中学からの野球デビュー組だ。

「野球部は雰囲気が厳しいと思っていたんですけど、仮入部が楽しかったのが決めてでした」と榊原くん。サークルベースボールやフリスビーなど、野球につながるような遊びをやったという。

髪はスポーツ刈りよりも長い。

「坊主だったら、かなり悩んだと思います」

坊主頭を強制することで、野球の入り口が狭くなるのだとしたら、それはもったいない話だろう。

栗原さんは2年生唯一の女子部員。小学校ではミニバスをやっていて、中学校では陸上部に興味を持っていた。ところが、仮入部期間に大野先生に誘われて野球部に参加したところ、先輩が楽しそうにプレーしていた姿に魅かれて、入部を決めた。

「野球はバスケットよりもプレーの幅が広くて難しいんですけど、その分、できないことができるようになるのが楽しいです」

未体験のスポーツだからこそ、上達していく過程に楽しさを感じている。

【1年生】

■グラブを買ってもらったときが一番嬉しい

最後は1年生。何と10人中8人が、中学から野球を始めた。そのうち3人の選手に、野球部に入った理由を聞いてみた。

耳が隠れるぐらいの長い髪の鍋田祐希くんは、小学校のときに水泳とテニスをやっていたが、野球にも興味があったという。仮入部のときにやったキャッチボールが楽しくて、野球を選んだ。

「もし、坊主頭だったら水泳部に入っていました。何で野球をやるのに坊主頭にしないといけないのか……、めちゃくちゃ疑問に思います」

鈴木佑京くんは、大きな声が特徴。その声を活かせる部活はどこかと考えたときに、野球部が候補に挙がったという。

「仮入部のときに、一番真剣に頑張っていると感じたのが野球部でした。中学では何かひとつのことを真剣にやりたいと思っていたので、迷わなかったです」

試合に少しずつ出るようになるにつれて、そのポジションへの「責任感」が芽生えてきたという。

今は部活を終えたあとに壁当てをしたり、素振りをしたり、うまくなるための練習をしている。「野球、楽しいです!」と笑顔で語ってくれた。

成川愛莉さんは、女友達と話し合って、「みんなで野球部に入ろう!」と決めた。

「仮入部は陸上部と野球部を見ました。キャッチボールでうまく捕れたときに、『いいね!』と先輩が優しく声をかけてくれて、それが嬉しかったです」

ルールはまったく知らなかったが、友達と一緒だったことで不安は少なかったと振り返る。

3人に野球を始めてから嬉しかった思い出を聞くと、「親にグラブを買ってもらったとき」と口をそろえた。

「スラッガーのグラブを買ってもらいました。グラブを手にしたことで責任感も生まれて、もう辞められないなって思いました(笑)」(鍋田)

「お父さんと一緒に行ったんですけど、買ってもらえたときが一番嬉しかったです」(鈴木)

「自分では詳しく分からないので、お店の人に選んでもらいました。今は、自分のグラブでフライを捕れたときが嬉しいです」(成川)

野球を始めたきっかけや時期は違うが、みんなに共通しているのは「野球が好き、楽しい」という純粋な気持ち。部活が休みの日は公園や土手に集まり、練習をすることもあるという。いい意味で、野球に疲れていない。

好きこそものの上手なれ――。

ひとりひとりが、それぞれのペースで着実に上達している。(取材・写真:大利実)