ボローニャ・冨安健洋の現地での評判を番記者がレポート「興味津々」
冨安健洋のボローニャでの初練習は笑顔に包まれていた。チームは7月11日から、アルプスに近いカステルロットでサマーキャンプを行なっているが、冨安は少し遅れて16日に合流。練習前には自己紹介代わりにダンスを披露し、チームメイトとの距離を一気に縮めた。
夏休みとあって、多くのちびっこサポーターも練習を見に来ていたが、冨安は笑顔で気軽にサインやセルフィー、ハグに応じ、まずはサポーターのハートもがっちりとつかんだようだ。冨安獲得の際は、ビデオゲーム風のアニメを制作して彼の加入を歓迎したボローニャの公式サイトは、今回もこの様子を動画で紹介した。
そんなボローニャが冨安に注目をし始めたのは、今から約9カ月前のことだった。興味深い日本人選手がいるというスカウトの報告を受けたヘッド・スカウトのマルコ・ディ・ヴァイオは、彼のプレーを見に行き、すぐに気に入った。11月にはシント・トロイデンと交渉を始めるが、その間にディ・ヴァイオは4度も冨安を見にベルギーまで足を運んでいる。チームと交渉すると同時に、冨安を口説きにかかり、冨安自身が「SI(イエス)」と答えた7月まで、それは続いた。
シント・トロイデンからボローニャに移籍した冨安健洋 photo by Getty Images
冨安とボローニャの契約は5年。移籍金1000万ユーロ(約12億円)は、シント・トロイデン創立以来の最高額だという。ボローニャにとって、彼は2人目の日本人となる。2004年の6カ月間、中田英寿がロッソブルー(イタリア語で赤と青の意味)のユニホームを着てプレーしている。
「見ていてくれ、彼はきっと君たちをあっと驚かせるはずだ」
冨安が合流した翌日、チームのテクニカル・コーディネーター、ヴァルテル・サバティーニは我々メディアに向かって自信たっぷりにこう言った。
ボローニャが冨安を気に入ったのは、その性格のよさとゲームを読む力、そして何より守備において3つのポジションでプレーできる柔軟性だ。彼本来のポジションはセンターバックだが、3バックの右サイドストッパー、または4バックの右サイドバックとしても起用することができる。
しかもまだ20歳の若さだ。これからどんどん成長していくことが期待できるし、イタリアのサッカーに馴染むのもきっと早いだろう。こうした理由でボローニャは冨安獲得に踏み切った。
そんな冨安にボローニャサポーターも興味津々だ。まだ実際のプレーは見てはいないが、ボローニャが強く彼を欲しがっていたのはそれなりの才能がある証拠だし、動画サイトなどで見る彼のプレーは将来性を感じさせてくれるからだ。
冨安はベテランのブラジル人DF、ダニーロ・ラランゲイラとコンビを組むことになるだろう。ダニーロは昨シーズンにボローニャを救った選手のひとりだ。
昨シーズンの半ばまで、ボローニャは壊滅的な状況にあった。1月の時点で20チーム中の18位。そのままでは降格はほぼ確実だったが、監督がシニシャ・ミハイロヴィッチに代わると奇跡の復活を遂げ、最終的には10位でシーズンを終えることができた。もし冨安がミハイロヴィッチの指揮する4−2−3−1の右CBでプレーする場合は、現在レギュラーのイブラヒマ・エムバイェとポジションを争うことになる。
今シーズンのボローニャは、チームを救った多くの選手を手元に残し、彼らをベースに戦うつもりである。イタリア代表経験もあるMFロベルト・ソリアーノとFW二コラ・サンソーネをレンタルから買い取りオプションで獲得。FWロドリゴ・パラシオとの契約も1年更新した。また、22歳のリカルド・オルソリーニもユベントスから1500万ユーロ(約18億円)で買い取り、右サイドの攻撃の要にするつもりだ。
冨安以外に新たに獲得した選手は、DFのマッティア・バニ(←キエーヴォ)、ステファノ・デンスビル(←ブルージュ)、MFイェルディ・シャウテン(←エクセルシオール)。ジョイ・サプートがボローニャの会長に就いてから5年、これほど補強に金を使ったことはないが、これで終わりというわけではない。チームの質を上げる優秀な中盤を探しており、ヨーロッパ有数の若手の逸材と言われる19歳のデンマーク人、アンドレアス・スコウ・オルセン(ノアシェラン)を狙っている。
新加入の選手は若く優秀で、チームにパワーと、創造性と、未来を与えてくれるだろう。先行きの明るさを感じるチームにサポーターの期待も増しており、今シーズンの年間予約席の売れ行きは好調だ。昨年は最終的に1万3500席だったが、すでに1万席に達している。冨安はいい時にボローニャにやって来たと言えるだろう。
ひとつだけ気がかりなのは、ミハイロヴィッチ監督の体調だ。数日前、彼は自ら白血病にかかっていることを公表した。現在は治療に入り、サマーキャンプには同行していない。ミハイロヴィッチの手腕に頼るところも多いチームであるだけに、不安は残る。ただしクラブは監督の交代は考えていないようで、ミハイロヴィッチの復帰を待つつもりだ。その理由を聞かれたサプート会長は次のように答えた。
「なぜなら彼がボローニャの監督だからだ。多少時間は必要かもしれないが、彼の帰りを我々は待っている」
サポーターも、ミハイロヴィッチのもとで、冨安ら新メンバーが加わったチームが快進撃を見せることを望んでいる。