これを持っていない奴はモグリ? JBのボックス・セット

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ファンクやソウルのリズムを取り入れたビートに、等身大で耳に引っかかる歌詞を載せて歌う4人組ロックバンド、トリプルファイヤーの音楽ブレインであるギタリスト・鳥居真道による連載「モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して」。クルアンビンの楽曲を考察した前回に続き、第2回となる今回はファンクの金字塔でもある「Get Up (I Feel Like Being A) Sex Machine」を徹底考察します。

第2回目は当連載の副題「パンツの中の蟻を探して」のサンプリングソースであるところのジェイムス・ブラウンの代表曲でファンクの金字塔でもあるあの曲を取り上げたいと思います。そうです。「ゲロッパ!」でお馴染み、「Get Up (I Feel Like Being A) Sex Machine」です。野郎ども! カウントいくぞ! ワンツースリーフォー!

まず冒頭でJBが「野郎ども、おれはもう準備できてんぞ、おい!」と声に出して表明します。それに対してバンドのメンバーたちは"Goahead"やら"Yeah!"やら喚いて合いの手を入れます。いわゆるコール・アンド・レスポンスです。ちょっと待て。なんで演奏が始まる前のおしゃべりをいちいち取り上げるんだ。そんなことを思った人がいるかもしれませんが、なぜかと申せば、コール・アンド・レスポンスによる「あなたと呼べばあなたと答える山のこだまのうれしさ」こそがファンクのアンサンブルを形作っていると思うからです。コール・アンド・レスポンスというより細かいフレーズの掛け合い、絡み合いと言ったほうが正確かもしれません。

JBは「俺は準備できてんの! セックス・マシーンみたいにやりたいの!」と意思表明をしたのち、「カウント取っていいか!」とメンバーに迫ります。メンバーがそれに応えると「ワンツースリーフォー」と倍のテンポでカウントし、演奏が始まります。ギター、ベース、ドラム、ホーン隊が一丸となって歯切れの良い8分音符を1小節分奏でると、JBが「ゲロッパ!」と言って飛び出してきます。「ゲロッパ」の「ゲロ」の部分は4拍目のウラなので文字通り飛び出していると言えます。来たる1拍目を先取りしていると言い換えても良いかもしれません。この飛び出し感覚もファンクの要のひとつです。

イントロで足並みを揃えて同じリズム・パターンを演奏したところから一気に展開し、各楽器が異なるパターンの演奏を始めます。もちろん各々が自由にバラバラのことをしているわけではありません。他の楽器が休符のところで他の楽器が音を出すモグラたたき状(あちらを叩けばこちらから)の箇所、重なるところは重なる卒業式の答辞状(みんなで力を合わせた… 運動会)の箇所があり、それぞれのパターンが他のパターンに近付いたり離れたりしてリズムの上で動き回っているわけです。高速道路のジャンクションのような構造に近いと言えます。

一例としてベースとギターの絡みをみていきます。ギターは「チャッ、チャッ、チャーラ」と高音弦をカッティングしているように聴こえるかもしれませんが、よく聴くと「チャッド、チャッド、チャーラ」と弾いていることに気付くかと思われます。1拍目、2拍目のオモテでカッティングしているのですが、それぞれの拍のウラで低音弦を単音弾きしています。「チャッド」の「ド」の部分です。その箇所はベースが休符なので、ギターの単音弾きがベースの合いの手として機能しています。こちらはモグラたたき状の例です。

上記の例はかなり細かいものですが、「Sex Machine」には、ほっといても耳に入ってくる印象的な掛け合いがあります。「ゲロッパ」などのJBの掛け声に対するボビー・バードの「ゲローナ」という合いの手です。二人の応酬を聴いているだけでも十分楽しいのですが、これに対して演奏陣がさらに合いの手を入れていると解釈すると「Sex Machine」を聴くことがより楽しくなるはずです。

「ゲロッパ」「ゲローナ」に続いて耳に飛び込んでくるのは既に言及した3拍目に演奏されるギターの「チャーラ」という付点8分音符と16分音符のフレーズです。最後の16分の箇所は次の4拍目からフライングして出て来たようなところがあります。ギターのフレーズに足をかけられて躓いてしまい、Gが体にかかったかのような感覚です。これは1拍目と2拍目のカッティングが前振りになっているからこそ効いてくる技といえます。拍子に合わせて小気味よく1歩目、2歩目を繰り出し、優雅に3歩目を決めて、4歩目を出そうとしたところで足をかけられるという流れです。

現在、躓いて体が強ばっている状態です。そこに間髪を入れず響くのが「トッ」という軽いけれども芯のある乾いたスネアの音です。一度この音を自分がドラマーの握るスティックになったと思い込んで聴いてみてください。スネアの打面に弾き返されてトランポリンさながら飛び跳ねているかのような気持ちになりませんか。スネアを合図に緊張から一気に解放されて空中を舞ったのち、重力に導かれてトランポリンに着地したところで、JBの「ゲロッパ」が飛び出してきてスタートに戻る。そんな構成になっています。4拍目のスネアで跳ね上がり、放物線を描きながらJBがいうところの"The One"に向かっていく感覚がJB流のファンクの重要なポイントです。この「ゲロッパ」「ゲローナ」「チャーラ」「トッ」という一連の合いの手が「Sex Machine」の目鼻立ちだと考えています。そのように意識してみると「Sex Machine」のグルーヴを支配しているのがブーツィー・コリンズのベースであることが逆説的にはっきりしてくるのがおもしろいところでもあります。さらにいうと、JB流のファンクには図と地という区別がないことがわかるかと思われます。

私がギターキッズだった頃は、ファンクって地味なフレーズの繰り返しばっかりでつまんねぇのと思っていた節がありましたが、ギター以外の楽器やリズムについて興味を持つようになってから改めて聴き直してみると、あまりの躍動感に驚かされたのでした。ポップスやロックが3分かけてジェットコースターを一周するのに対して、ファンクはとてつもない速度で何十周もする音楽です。しかもいきなりクライマックス。リズムに関する情報量の多さにはいまだにクラクラします。

まだまだ言及したりないことがたくさんあるのですが、JBの"Can we hit it and quit?"という呼びかけに対して"Yeah!"と答えて終わりにしたいと思います。Hit it!

鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー
Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」