群馬のパスタは量が異常?群馬出身の私が、地元を離れて気づいた「大盛パスタの謎」について調べてきた

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群馬のパスタは他県とちょっと違う。

群馬出身の筆者がそれに気づいたのは、上京して少し経ったころ。都内でパスタを頼むたび、「地元のとなんか違うなぁ」と思っていた。

大きなお皿にちょこんと上品に盛られていたり、具材たっぷりで麺が少なめだったり。それでいて、妙にお腹が満たされないのだ。

あるときふと、メディアが 「群馬のパスタは大盛りである」 と教えてくれた。それで理解をした。東京が少ないんじゃない。群馬が多いのだ、と。

同時に群馬がパスタ激戦区とも知った。なかでも、高崎は「パスタの街」といわれ、なんと約150店のパスタ提供店が軒を連ねるという。通常サイズの倍くらいはある大盛りを出すお店も多い。

そして、そんな大盛文化のルーツといわれるのが老舗イタリアンレストラン『シャンゴ』。群馬にまだイタリアンが根付いていなかった1968年(昭和43年)に創業し、ここから巣立ったお弟子さんたちが新たに店を構え、切磋琢磨したことで、群馬のイタリアンが発展を遂げたんだそうだ。

県内だけに8店舗を構える「ローカルチェーン店」でもある。静岡にとっての「さわやか」、千葉にとっての「赤門」、九州にとっての「資さんうどん」といったところだろうか。地元民にとっては、ごはんを食べにいこうと思うとき、ごく自然に選択肢にあがりがちなお店だ。

上京するまでは、パスタに地域差があるなんて知らなかった。地元の当たり前は、当たり前じゃないのだ。ご当地と知った今こそ、その特異性にもっと突っ込んでみたい。そこで、代表取締役2代目、関崎晴五さんを訪ねた。

「なぜ、群馬のパスタは大盛りなんですか?」

すると、関崎さん自身もまた、元祖の店に生まれながら、群馬の大盛文化にカルチャーショックを受けた経験を持つことがわかった。

当事者ですら、びっくりするとは一体どういうことなんだ……!

とんかつ&ミートソースの圧倒的ボリューム!名物「シャンゴ風スパゲッティ」

インタビューの前にまず、問題のパスタを見てほしい。

写真はMサイズ(パスタ、乾麺の状態での計上で200g)。ちなみに、これでもまだ最大サイズではない。この上にL(250g)があり、LL(300g)もある。

商品の名は「シャンゴ風スパゲッティ」。『シャンゴ』の看板商品だ。じっくり煮込まれた、黒みすら帯びているミートソースの下には、揚げたてほやほやのかつ。たっぷりかかった粉チーズが、パスタの熱でとろっと溶ろけ始めている。

口に運ぶと、見た目ほどのこってり感はなく、意外とぱくぱくいけてしまう。ソースのコクはひたすら深く、麺はなかなか減らない。美味しいうえに胃袋もぱんぱんだ。

かつカレーに似ていると感じた人もいると思う。少なくとも筆者は思った。「このパスタ、カレーになりたがっている気がする」と。

そして、その読みは間違ってなかった。『シャンゴ』には昔、カレーを置いていた時代があり、その影響から、初代店主が発明したのがこのメニューなのだという。

カレーのかわりにミートソースをかけ間違えたのか、その逆なのかはわからないんですが……。かつカレーの仕組み(かつにソースをかける)をパスタでやってみたらどうか、ってことで生まれたと聞いています。

おお、そうなんですね。そっくりなはずです。

そういった発想から生まれたメニューは他にもありまして。たとえば「ペイザーナ(塩味・田舎風たっぷり野菜パスタ)」。これのアイデアのベースは「焼きそば」なんだそうです。

焼きそば! その視点で見ると、「田舎風たっぷり野菜」という言葉が、さっきまでとは違った印象で見えてきます……。

大盛りのきっかけは明快「沢山食べてもらえるように」

そんな『シャンゴ』のパスタが大盛りになったきっかけは何だったのだろう。

「沢山食べてもらえるように」だと聞いています。

明快!

父は、幼少期に第二次世界大戦を経験しているんです。食べたい気持ちはあっても食べ物がない。食に対して、苦労をした世代です。だから、将来大きくなって、料理人になった時には、「美味しいものをたらふく食べてもらいたい」と。そんな願いが込められた結果が、この量なんです。

おお……大盛りって、ビジュアルのインパクトばかりが先行しがちですが、真っ正面からの、真摯な思いから生まれた文化なんですね。

ところで、初代店主は関崎さんのお父さまですよね。つまり関崎さんは、幼少のころからお店に触れているわけで。この「量」に違和感を感じたことは全くないのでしょうか。

いえ。ありますよ。

(あるのか!)

昔は、多いとか少ないとか思うことは特になくて、ふつうに食べてましたね。

高校を卒業後、上京して、南麻布のイタリアンで3年修行したあと、イタリアに3年修行に行き、そのあと1年くらい、東京で働いていたんです。

それで、久しぶりに帰ってきて、『シャンゴ』のパスタを食べてみたら……量が多かった(笑)

離れてみて、気がついた感じなのですね。

東京やイタリアでは、主に具沢山で麺の量が少なめなパスタを作っていたんですが、群馬のパスタ文化はまさにその逆で。

逆!

ジレンマもありました。帰ってきた当時は、先代とも、そのことでぶつかり合ったことがあるんです。ですが、最終的には「郷に入ったのだから、郷に従おう」と。

僕が戻ってくる以前から、群馬県のパスタ文化は確立している。革新的なことをするのは、あまり意味がないと思ったんです。

郷=パスタ大盛り……。

それでも、30歳のころ、「Sサイズ」(150g)をつくりました。飽食の時代とはいえ、お客さんは、料理を食べきれずに残してしまったとき、申し訳ない気持ちにもなったり、勿体ないと感じることもあるだろうと思いまして。

量を食べられない人向けの選択肢があるのは素敵です。

でも、女性も7割くらいはレギュラーサイズ(Mサイズ)を注文しますね。

そうか…… 群馬県民の胃袋がすでに「大盛りパスタ」と親和性高いんですね。

ところで、ちょっと待って下さい(メニューを見ながら)。セットメニューのサラダも、ずいぶんと大きくないですか?

はい。ちょろりとしたサラダでは、群馬県のお客さんたち、満足してくれないだろうと思って。セットメニューも、一品ごと、きちんと確立させることを、コンセプトのひとつにしています。

「ドルチェセット」という、デザートを3品選べるセットもあるんですが、そのデザートも、ひとつひとつ、しっかりしたサイズ感のものが付いてきますよ。

一品しっかり付いてくるだけでもすごいのに、3品もですか! 頼まれる方、けっこういらっしゃるんですか?

はい! いますよ。「デザートは別腹」とはいいますが、みなさん、ふつうにぺろりと食べていらっしゃいます。

群馬県民の胃袋の強靭さよ……。

「群馬の店」だからこその、群馬ならではのこと

ところで、大盛り以外にも、群馬ならではの特色ってあるんでしょうか。

魚介を使ったメニューが多いかもしれません。海なし県に住んでいるゆえ、群馬の人達は、魚介にすごい憧れを抱いているんですよ。僕もそうなんですけど。

わたし(群馬出身)もです……。

具材もパスタの量に合わせて、ドカッと入れたいとも思うんですけどね。パスタの量がこれだけドカッとあるところに、具材もドカッとだと、倍くらいのお値段とらなきゃいけなくなってしまうので……。

値段もですが、ボリュームもさらにすごいことになりそうです!

あと、パスタを「テイクアウト」するというのも、群馬ならではかもしれません。よそだと、「えっ?」て言われるんですよね。家に着いたころには、麺が伸びてしまうので。

たしかに!群馬ではなぜ、パスタのテイクアウトがあるのでしょうか?

群馬には「おっきりこみ」という郷土料理があって……

山梨の「ほうとう」のような、煮込んで食べる太麺のうどんですよね。

群馬の人たち、家で「おっきりこみ」を作って食べるときに、前の日に作り置きした、ぶよぶよになった状態のものでも、気にせず食べたりするんですよね。だから、伸びた麺にそんなに違和感を覚えないのではと。

カルボナーラも、卵だから、時間を置くと固くなってしまうんですけど……、それでも食べることができるのは、土地柄なのではないかと思っています。

伸びた麺を気にしない県民性……。面白いけど、いいのだろうか(自問自答)

写真は「シャンゴ風スパゲッティ」のテイクアウト。仕上げにはたっぷりの粉チーズを。家に帰るころには、ソースの熱で溶ろけている

生産者と消費者の距離をもっともっと近づけたい

他にも何か群馬ならではのこと、ありますか?

そうですね。郷に従いながらも、「どうやったら自分の持ち味を活かせるか」と考えたとき、群馬県産の食材をより多く取り入れようと思うようになりました。

パスタも、以前はイタリア産の太麺を使っていたんですが、今は高崎産の小麦粉を用いた乾麺を使っています。2年くらいかけて自社開発したんです。

2年……!

あと、食材が、どんな人の手で、どうつくられているのか、もっと具体的にしたいとも考えています。

「安心安全」というワードは、かなり定着していますが、書いてあるだけだったり、言ってるだけのこともある。より安心できる仕組みを作りたいと思い、メニューに生産者の写真を載せているんですが、いずれ、メニューいちめんに載せることができたら……とも思っています。

生産者の顔が見える野菜、時折スーパーで見かけますが、レストランチェーンでも、生産者の顔がしっかり見えるのって面白いなと思います。

生産者の方をお店に招待することもあるんですよ。自分たちが育てた食材が入った料理を、お客さんが「美味しいね」って食べている様子を見て、励みにしてもらえたら……と思いまして。

距離、近いです……!

生産者と消費者との距離を縮める役目を、飲食業界は意識してやっていかなくちゃいけないんじゃないかなぁって思っています。

「これが『群馬スタイル』なのだと、自信を持って発信していきたい」

群馬に根付く大盛り文化に戸惑う日もあったはずの関崎さん。でも今は、「自信を持って『群馬スタイル』を発信したい」ときっぱり。

群馬愛、お強いですよね……?

群馬愛というか、郷土愛っていうんでしょうね。強いんじゃないかなぁとは思います。今だに「上毛かるた」(県民の多くが幼少期に習う郷土かるた)の文言も全部言えますよ。

(かるたの文言、わたしも言えなくはないが、ここまで郷土愛は強くはないぞ……すごい……)

取材してみて、取材前の何十倍も、これぞまさに全身全霊の「ご当地パスタ」なのだなぁと感じた。

群馬のパスタは、大盛りなだけではない。群馬の文化がたくさん詰まっている。

群馬に行く機会があったらぜひ食べてみてほしい。別に大盛りじゃなくてもいいよって人には、Sサイズもあるから。

シャンゴ 問屋町本店
群馬県 高崎市 問屋町
イタリア料理

ネッシーあやこ

ネッシーあやこ
群馬県出身、東京都在住のライター兼イラストレーター。食べものという食べものをすぐ口に入れたがる。特に好きなのは、派手じゃない郷土料理とカレー。スーパーと100円ショップが好き。 Twitter