世界的な評価や、若手蔵元の台頭などで注目を集めている日本酒。当サイトでも「CRAFT SAKE WEEK」や「SAKE COMPETITION」といった記事でトレンドをレポートしてきました。そんななか、日本酒文化の発展に寄与することを目的に活動するSAKE PROJECT が、赤坂の飲食店「nomuno2924」(ノムノニクフジ)にてメディア向け限定イベント「SAKE PROJECT presents “SHUGO 会”」を開催するとのこと。イベントでは贅沢なお肉と日本酒とのペアリングが楽しめるとのことで、これはもう、行かない理由はない! というわけで、その模様をレポートします!

↑今回の会場は赤坂の「nomuno2924」(ノムノニクフジ)。日本酒と燗酒からヒントを得た“燗肉”のペアリングが話題のお店です。自慢の「燗肉コース」は、セルフ飲み放題込みで8000円(税抜)。「新政」をはじめ、秋田県の日本酒を豊富に用意しています

 

まずは日本酒が最適な温度で保存できる日本酒セラーがお披露目

この”SHUGO 会”を支援したのは、中国のハイアール・グループ傘下として知られる家電メーカーのアクア。アクアといえば、デザイン性に優れた冷蔵庫やリーズナブルな洗濯機などで知られています。冷蔵庫のカテゴリでは、昨年に冷凍/チルド/冷蔵を切り替えられる「COOL CABINET」を発売。さらに今春、500Lクラスで奥行きが最薄で、著名なプロダクトデザイナー・深澤直人氏がデザインした冷凍冷蔵庫「TZシリーズ」をリリースし、話題となりました。今回のイベントは、そんなアクアが発売した日本酒セラー「SAKE CABINET(サケ・キャビネット)」のお披露目も兼ねています。

↑こちらが「SAKE CABINET」。おおよそ一升瓶9本、四合瓶12本まで収容できる、大きすぎず小さすぎないサイズ感。クラウドファンディングで8万9820円から販売されていました

 

↑「SAKE CABINET」の設置イメージ

 

「SAKE CABINET」最大の特徴は、日本酒の保存に適したマイナス5℃で管理できること。温度幅としてはマイナス10〜10℃で5℃ずつ設定でき、遮光性も担保されています。

↑本体の上部にある操作パネル

 

市場規模を考慮してクラウドファンディングを活用した

本機は先行して、クラウドファンディングサービスの「Makuake」でプロジェクトを開始(支援は現在終了)。1193万6080円と、目標の400%近い金額を集めたとのことです。では、なぜクラウドファンディングを活用したのでしょうか? その理由には、日本酒が置かれている状況も関係していました。

 

「それは、マーケットのサイズによるものです。私たちのリサーチでは、日本酒がすごく好きな方は約5万人。そのなかで、セラーを利用いただける超愛飲家の方は、1万5000〜1万6000人ぐらいではないかと想定しました。弊社のような企業がその規模に向けた機器を作るとなると、なかなか実現は難しいのです」(アクア・経営戦略本部の永井千絵ディレクター)

↑アクア社・経営戦略本部の永井千絵ディレクター。「SAKE CABINET」開発チームのひとりです。新規事業として「日本らしい、日本から海外に発信できる家電を作れないか」という思いが、日本酒セラー開発のきっかけだとか

 

ワインセラーであれば、多くのメーカーから様々な機器が販売されています。一方、個人が購入できるクラスの日本酒セラーはこれまでありませんでした。それはワインに比べると、日本酒のディープな愛飲家が少ないから。そこで、発売前に需要を予測できて開発費用も補える、クラウドファンディングを活用したというわけです。

 

「これまで日本酒セラーがなかった理由には、技術的な部分もあるでしょう。セラー自体は、フリーザーの開発技術があれば作れます。ただ、マイナスの温度帯を一定に制御することは簡単ではありません。弊社はこれまで数々の筐体を作ってきましたから、その技術を日本酒向けに応用することで、小さなマーケットでも日本酒セラーを作ることができたのです」(永井さん)

↑一升瓶の縦置きが可能な構造になっているのもポイント。今後、庫内にQRコードを設けてアプリから読み込むことで、所有者限定の日本酒を購入できるシステムを構築していくそうです

 

マイナス5℃は研究者と蔵元が推奨する温度

設定温度に関しても聞いてみました。マイナス5℃が最適とのことですが、どうやって調べたものでしょうか。

 

「開発にあたっては、日本酒のプロフェッショナルの方にご協力をいただきました。ひとりは酒類学の最前線のひとつである東京農業大学醸造科学科微生物工学研究室の、数岡孝幸准教授。マイナス5℃で日本酒を保存するという方法は、日本酒の酒質、特にフレッシュさを維持するために有効であると教えてくれました。もうひとりは『伯楽星(はくらくせい)』や『愛宕の松(あたごのまつ)』などの人気銘柄を醸す宮城の老舗・新澤醸造店の蔵元杜氏である新澤巌夫代表。マイナス5℃での管理を実践している方で、本機の開発や『Makuake』での販売に際して多大な協力をいただきました」(永井さん)

↑新澤醸造店の代表・新澤巌夫さん。写真はSAKE COMPETITION 2016でのインタビュー時に撮影

日本酒セラーの普及は、造り手にとっても大いに望むところ

今回、スペシャルゲストとして招かれたのが、銘酒「真澄」で有名な宮坂醸造の後継者・宮坂勝彦さん。氷点下での温度管理の重要性について語ってくれました。

↑宮坂勝彦さん。蔵は長野県の諏訪にあり、全国60%の酒蔵で使用されている「七号酵母」発祥の蔵元としても有名です

 

「日本酒は多彩で、なかには常温熟成させることでうまみが開く酒もあります。とはいえ、基本的にはフレッシュな味わいが第一。これは酒だけではありませんが、低温のほうが劣化のスピードを抑えられるんですね。マイナス5℃と決めてはいないにしても、品質を大切にしている蔵であれば、しっかり温度管理する領域に入ってきていると思います」(宮坂さん)

 

蔵元が川上であれば、飲み手は川下。いくらおいしい酒を造ったとしても、実際に飲むときに味が劣化してしまっては、元も子もありません。その意味でも、消費者側がよりよい管理環境をもつことは、造り手としては願ったり叶ったりだと宮坂さんは言います。

 

「この日本酒セラーの登場で、私たちからお客さんへ管理の話をする際も、伝え方が変わってきます。これまではワインセラーとか、冷蔵庫でもいいとお話ししてきました。ただし冷蔵庫は開け閉めが多いので、外気に触れて温度変化も激しい。日本酒の品質にとってはよくはないんです。だからこういう専用のセラーがあることはすごくいいことだと思います」(宮坂さん)

↑「七号酵母」で醸される宮坂醸造の日本酒の特徴は、華やかでありながら、飲み疲れせず食事に寄り添う味わい。イベントでは空気に触れさせずにじっくりろ過した「真澄 突釃(つきこし)」(写真右から2番目)、「真澄スパークリング」(写真右)など様々なタイプが提供されました

 

絶品肉料理と日本酒のペアリングに酔いしれた!

さて、いよいよイベントはお肉と日本酒のペアリングを楽しむ時間に突入。会場の「nomuno2924」は、上質な肉に絶妙な熱を入れる「燗肉(かんにく)」で有名なお店だけあって、数々の絶品肉料理がふるまわれました。加えてゲストの宮坂氏が持ち込んだ「真澄」の自信作や、店主が個人的に熟成させたという激レアな「新政」も大放出。これはもう、楽しくないわけがない! 筆者をはじめ、参加者は取材を忘れて美酒・美食に酔いしれました。

↑ウニをのせた和牛との組み合わせ「和牛のウ肉」。とろけるような料理が絶品で、合わせる日本酒のキャラクターや温度帯で味わいが変わることを実感

 

↑ラムのレアカツ。濃厚なうまみと羊らしいミルキーな風味が、カツになることでいっそう凝縮。これが日本酒とよく合うから面白い!

 

↑こちらは「nomuno2924」の齋野啓太店主が個人で秘蔵していた「新政 立春朝搾り」の平成二十七〜三十一年もの。超が付くレア酒です。それぞれを比較すると、熟成が進むにつれて味が乗り酒質が引き締まっていくのがわかります

 

この「SHUGOの会」は次回、8月ごろに都内で開催を予定しているとか。これは次回も見逃せませんね! なお、「SAKE PROJECT」の公式サイトには「SAKE CABINET」の詳細情報も掲載されているので、日本酒好きの方はぜひチェックしてみてください!