冷凍保存されたジュゴンの死骸(写真提供:北限のジュゴン調査チーム・ザン)

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◆生息が確認されていた3頭のうち、唯一のメスだった

 7月17日、国の天然記念物のジュゴンの死骸の解剖が実施された。今年3月に、沖縄県今帰仁(なきじん)村の運天漁港で見つかった死骸だ。港に引き揚げられた体は傷だらけで血が滲み、目からは赤い血の涙が流れていたという。人魚のモデルにもなった愛らしいジュゴン。その変わり果てた姿に心を痛めた人も多いだろう。

 死んだジュゴンは通称「個体B」と呼ばれ、沖縄で生息が確認されていた3頭のうちの1頭で、唯一のメスだった。他の2頭が行方不明になり、名護市辺野古での新基地建設工事による影響が懸念されてきた中での悲報だった。

◆解剖の目的は「死因究明」ではなく「ジュゴン標本化」!?

 ジュゴンは天然記念物で、国際自然保護連合や日本の環境省も絶滅危惧種に指定する希少な生き物だ。フィリピンやオーストラリアなど暖かい海に生息し、沖縄のジュゴンは最も北に棲む「北限のジュゴン」としても知られている。発見から4か月近く、今帰仁村の漁港の施設で冷凍保存されてきた。

 死因については当初から、「今帰仁村が沖縄美ら島財団に解剖を依頼して究明にあたる」と報道されてきた。今帰仁村議会は5月末に18万5000円を「ジュゴンの解剖費」として補正予算を可決した。

◆今帰仁村の解剖関係予算の中には、「死因究明」の費用は計上されていない!?

 名護市の市民団体「北限のジュゴン調査チーム・ザン」代表の鈴木雅子さんに話を聞いた。鈴木さんは「国の天然記念物のジュゴンの解剖関係予算を、一自治体である今帰仁村が負担するのはおかしい。専門的な解剖の実施を要望するとともに、死因究明の責任主体を明らかにしてほしい」と訴えている。

 チーム・ザンは、ジュゴンと生息地の保護を目的に、餌場である海草(うみくさ)藻場の調査や、辺野古新基地工事や不発弾処理等の脅威からジュゴンを守るために長年活動してきた。

 鈴木さんたちは死んだジュゴンを「B子母さん」と親しみをこめて呼んでいる。6月には今帰仁村住民有志とともに、解剖に関わるとされる環境省、沖縄県、今帰仁村に、専門的な解剖の実施に加え、解剖工程、執刀者、解剖費用内訳の開示を求める要望書を2回提出した。

 その要望に応じて、今帰仁村が開示した村議会の資料を見せてもらった。驚いたことに「死因究明」の文字はなく、予算の説明は「ジュゴン標本化事業」となっていた。

 さらに内訳をみると、標本化監修アドバイザーの県外大学准教授への報償と旅費で12万7000円。残りの5万8000円は冷凍冷蔵施設の賃借料とジュゴンを移動するためのクレーン車の使用料となっていた。

 解剖そのものに関する費用は村では予算化されておらず、天然記念物であるジュゴンの死因究明の主体や解剖内容について疑問は深まるばかりだ。

◆3月14日にジュゴンの鳴音を頻繁に検出、沖縄防衛局は工事の影響を否定

 ジュゴンの死との因果関係が真っ先に疑われたのは、日本政府が進める辺野古新基地建設工事だ。個体Bは古宇利島付近を生息域としており、埋め立て用土砂を搬出する西海岸から、辺野古のある東海岸への土砂運搬船などに影響を受けた可能性も指摘されてきた。

 防衛局は、運搬船の航路は岸から10キロメートル以上離れているため個体Bが確認されている海域は航行しておらず、「工事との関連性はない」としている。しかし科学的根拠は示せていない。

 6月3日、那覇で開かれた沖縄防衛局の「環境等監視委員会」では、個体Bの死骸が発見される4日前の3月14日、ジュゴンの鳴音が通常を上回る頻度で記録されていたことを明らかにした。

 同委員会の資料「資料5 ジュゴンの生息状況等について」によると、15日以降に鳴音は検出されておらず、個体Bが死亡したのは14日から18日までの間と推察される。