■2018年の大学スポーツ騒動から相談が増加

子どものいじめ問題を、弁護士を使って解決を図る場合、依頼する保護者がもっとも労力を要するのは「お子さんから詳しく話を聞くことだ」と、いじめ問題に詳しい山上国際法律事務所の山上祥吾弁護士は説明する。いじめられている子どもは、恥ずかしい、親に心配をかけたくない、といった理由で話したがらないことが多いそうだ。山上氏は「慎重に、粘り強く話を聞くことが大切ですね」と言う。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Marcos Calvo)

いじめは民法上の『不法行為』、集団の場合は『共同不法行為』で、刑法に抵触する可能性のある場合も多い。法律でいじめを解決する場合には、まずはできる限り証拠を集めることが望ましい。

LINEでのいじめは、スクリーンショットを撮って残しておく。また、学校内で起こっていることに関しては「スマホやデジカメなどを持ち込めるのであれば、学校の中で録音したり撮影したり」するのがよいそうだ。証拠として提出する場合には、原則として同意のない録音・録画の違法性が問われることはない。

民事裁判では、損害賠償請求、つまり慰謝料を請求する形となる。集団内でいじめを受け、半年間不登校になった場合で100万〜200万円の請求が相場。「障害が残ったなど、被害の程度によっては数百万円にのぼることもあります」。いじめを看過していたなど、安全配慮義務が果たされていなかった場合は学校の責任が問われる場合もある。

ただ、裁判まで起こさなくても「いじめた子の保護者に内容証明を送るとだいたい、それでいじめが収束する」のだ。弁護士から書面が届けば、いじめっ子の親も子どもにやめるよう注意する。「これが一般的で有効な手立てです」。

■「いじめが増えたわけではなく、保護者の意識が変化した」

さて、いじめ問題は刑法上、殴られた場合には暴行罪、それによって怪我が残った際には傷害罪が適用される。また、金品を巻きあげる行為は恐喝罪だ。悪質な無視などによって精神的苦痛を受け疾病に罹患した場合も、「傷害罪が適用される可能性がある」という。

加害者を刑事罰に問いたい場合は「被害届を提出するか、告訴するかの二択」だ。

ただ、学校内で起こることに警察は介入しにくい側面もあり、告訴は受理される可能性が低い。

公立の小・中学校には、他の児童を守るために問題のある児童の登校を禁止する「出席停止」もあるが、教育委員会が決定を下す措置のため、弁護士を通じて訴えたところで認められるとは限らない。

内容証明、それでも止まらないのであれば民事裁判が現実的な手段といえるだろう。

山上氏の肌感覚では、2018年の大学スポーツ騒動以来、いじめに関する相談は約2倍に増加。「いじめが増えたわけではなく、保護者の意識が変化した結果ではないか」。

学校や教育委員会が対応してくれればよいが、そうでないケースも多い。「なるべく早く弁護士に相談してください」と語る。

○:SNSの画面を撮影しておく
×:証拠がなくても警察に捜査を求める

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山上祥吾
東京弁護士会所属
1998年慶應義塾大学経済学部卒業。2009年山上国際法律事務所設立。日本弁護士連合会 国際交流委員会委員も務める。
 

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(梁 観児 写真=iStock.com)