私たちの生活の中になぜドイツ製品が多いのか、その理由が明らかになります(写真:Meinzahn /iStock)

モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画。ちょいと一杯に役立つアレコレソレ「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。

蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫。モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。今回のテーマは「ドイツ製品」。意外と知らない基本中の基本から、あまり知られていない逸話まで。あっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし。引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。

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01. 「ドイツ製」とは、ヨーロッパ中西部に位置するドイツ連邦共和国に本拠を置く企業が開発・製造したもの

02. 1871年、普墺戦争、普仏戦争に勝利したプロイセン国王ヴィルヘルム1世はドイツ帝国(帝政ドイツ)を創建

03. 以降ドイツの国産産業は「電機工業」と「重化学工業」を筆頭に、20世紀にかけて驚異的な発展を遂げていく

04. 工業の拡大を支えたのはドイツ銀行、ダルムシュタット銀行など〈4D銀行〉に代表される金融界だった

05. 加えてドイツが欧州の貿易中継点に位置し、伝統的に技術に対する強いこだわりを持っていたことも大きい

06. 背景には、中世〜近世にかけ西欧諸都市で結成された「ギルド」という各種の職業別組合の影響があった

07. 当時、市政運営を独占する商人ギルドに対し、手工業者たちは「手工業ギルド」を作って反発した

08. 中世の厳格な徒弟制度の下、手工業ギルドに参加できるのは職人を指導する親方資格保持者に限られていた

ドイツの物づくりを支える「マイスター制」

09. しかしギルドの存在によって製品の品質・規格・価格等が厳しく統制され製品のクオリティー維持が図られた

10. その後の市民革命によって西欧のギルドは解体されていくが、長く封建制が続いたドイツは例外だった


11. 19世紀にもその行動様式が残り、宰相オットー・フォン・ビスマルクもそれを意識した社会保険制度を作った

12. この制度は21世紀まで生き残り、ドイツ社会の行動様式を根本的に規定するものともいわれている

13. そのような歴史に加え、ドイツ語圏の高等職業能力資格制度「マイスター制」も強い物づくりを支えている

14. ドイツでは6歳に達すると、初等教育として「基礎学校」と呼ばれる4年制の公立学校に進学する

15. しかし中等教育以降は、「職業人向け」と「高等教育進学向け」の2つに進路が厳格に分かれる

16. 前者の場合、専門的に職業教育を行う「基幹学校」か、同時に高等教育準備も行える「実科学校」を選択する

17. 徹底した職業教育の後、マイスターになるには高等職業学校「ファッハシューレ」を修了しなければならない

18. ファッハシューレの入学資格は21歳以上で、専攻に関連のある実務経験が最低1年以上必要とされている

19. ドイツには約170種のマイスター資格が存在するが、職業教育が革新的プロダクトを生む土壌になっている

20. 素材から完成まで一括管理し高品質と安全性を誇るドイツ製品は19世紀末以降、各国で認められていった

21. なかでも第2次世界大戦後に世界的ヒットとなったのが、フォルクスワーゲン社の「ビートル」である

22. この自動車は、長年愚直に品質を追求してきたドイツ人の物づくりの〈象徴〉ともいわれている

日本でも人気のドイツ製自動車

23. 日本では輸入車の販売台数上位をドイツの「フォルクスワーゲン」「メルセデス・ベンツ」「BMW」が占めている


メルセデス・ベンツ Cクラス(写真:teddyleung/iStock)

24. 「メルセデス・ベンツ」はシュトゥットガルトを拠点に、ダイムラーが所有する乗用車・商用車ブランド

25. 〈メルセデス〉とは1899年当時、ダイムラーを支援していた企業家エミール・イェリネックの愛娘の名である

26. 1900年、モータースポーツ参戦のためにヴィルヘルム・マイバッハが制作したレーシングカーに冠された

27. それが「メルセデス35hp」である。このメルセデス・ブランドが非常に有名となり1902年に商標登録された

28. 「BMW」はミュンヘンを拠点とする自動車および自動二輪車、エンジンメーカーで、1916年に設立された


BMW 5 シリーズ(写真:y_carfan/iStock)

29. フル4シーターの4ドアセダン車をメインに据えつつもスポーティーな造りを心がけているのが特長

30. 航空機エンジンメーカーからスタートしたBMWのエンブレムの「円」と「十字」は回転するプロペラを示す

31. また「青」と「白」はドイツ・バイエルンの青い空と白い雲を表し、1929年から変わらず使用されている

32. 一方、「ポルシェ」のエンブレムはシュトゥットガルト市とバーデン・ヴュルテンベルク州の紋章がベース

33. そのシュトゥットガルトに本社を構え、高級スポーツカー、レーシングカーを専門に開発・製造している

34. 設立年には諸説あるが1930年頃、フェルディナント・ポルシェによりデザイン事務所としてスタートした


ポルシェ 911 s 旧型車(写真:Gaschwald/iStock)

35. ポルシェが生んだ名品のなかでも1963年発売のスポーツカー「911」は改良を重ねながら現在も人気が高い

36. その一方で2002年には「カイエン」をフォルクスワーゲンと共同開発。人気根強いSUV市場に参入している

37. 堅実な中級セダンで知られる「アウディ」は、1901年元ベンツ工場長アウグスト・ホルヒがヴィッカウで創業

38. 創業社名は「ホルヒ」だが1910年に変更。ホルヒはドイツ語、アウディはラテン語で〈聞く〉を意味する

39. 1863年創業、アスピリンを世に送り出した世界的医薬品メーカー「バイエル」はレバークーゼンに本部を置く

40. アスピリンのベースになったのは民間療法で用いられていたヤナギ樹皮から抽出したサリチル酸であった

41. 株式を公開しない製薬会社として世界最大といわれるのが1885年設立の「ベリンガーインゲルハイム」だ

42. インゲルハイムを本拠地に医療用医薬品、一般医薬品、動物薬のほかバイオ医薬品分野での活躍も目覚ましい

43. 電機部門でドイツを代表する「シーメンス」は世界で初めて電車を製造、1881年には営業運転を開始している

44. ミュンヘンに本社を置き、鉄道車両のVVVFインバーターやMRI装置、補聴器等でも市場を占有している

45. 赤ロゴの電気工具で知られる「ボッシュ」は1886年ロバート・ボッシュが創業。ゲルリンゲンに本社を持つ

46. 自動車機器、産業機器、消費財、建築関連機器を主要製品に、業界では世界最大のシェアを誇っている

47. IBM出身の5名のエンジニアによって1972年に設立された「SAP」は欧州最大級のソフトウェア会社である

48. ヴァルドルフに本社を置き、主にビジネス向けソフトウェアの開発を手掛け、ERP分野では世界一といわれる

技術の高さでシェアを誇る光学機器や化学品関連製品

49. 光学機器メーカー「カール・ツァイス」は1846年にカール・フリードリヒ・ツァイスがイェーナで創業した

50. 顕微鏡工房にはじまり、1923年には世界初の近代的プラネタリウムを製造。眼鏡、写真レンズの人気も高い

51. 高級レンジファインダーカメラ〈Mシリーズ〉や一眼レフカメラ〈Rシリーズ〉等を開発・販売する「ライカ」


現在も賛美されているライカ M3(写真:Stratol/iStock)

52. 顕微鏡メーカーを前身にカメラ製造に着手したのは1905年。1953年発売「ライカM3」は現在も賛美される

53. 一方、映画用カメラメーカーとして世界のプロから信頼を集めるのが1917年創業の「アーノルド&リヒター」

54. 本社はミュンヘンにあり、1967年以降「アカデミー賞アカデミー科学技術賞」を13回も受賞している

55. 1912年に設立され、ヘッセン州に本拠地を置くヘルスケア企業グループ「フレゼニウス」は4企業から成る

56. うちフレゼニウス・メディカルケアが製造販売を行う人工透析装置&関連機器は世界シェア約40%を占める

57. 世界最大の総合化学メーカー「BASF」は1865年マンハイムで創業し、1913年にアンモニアの生産を開始した

58. BASFのレパートリーはドイツの化学会社でも特に多く化学品から石油・ガス事業、高機能製品等も扱う

59. 建設機械メーカー「リープヘル」は、13歳から職人の道に入ったハンス・リープヘルが1949年に仲間と創業

60. 独自開発した建設用タワークレーンを原点に油圧ショベル、鉱業、家電に至るまで事業を拡大し続けている

61. ケイ酸塩を用いた汎用洗剤を最初の製品として若きフリッツ・ヘンケルが1876年に創業した「ヘンケル」

62. 1907年発売の合成洗剤〈Persil〉は洗剤革命ともいわれるが、接着剤の製造販売でも世界最大の売り上げを誇る

63. ヴィンネンデンに本拠を置く「ケルヒャー」は1935年に設立。業務用、家庭用の清掃機器等を製造販売する

64. 1950年に〈高温高圧洗浄機DS350〉を開発し特許を取得。現在では清掃に関わるほぼ全分野を展開している

65. 1899年にギュータスロー近郊で設立された「ミーレ」は洗濯機、食洗器、冷蔵庫等の家電で知られるメーカー

66. 自社製品を自国で製造し内製率が非常に高いことが特徴で、ドイツ社会では就職希望先の上位に挙げられる

67. 日本でも電気シェーバーや電動歯ブラシが人気の「ブラウン」は、1923年にラジオ製造を目的に創業した

68. 1932年複合ラジオとレコードプレーヤーを世に送り出し、電気シェーバーの生産は1950年代に開始された

世界から支持の厚いスポーツ用品メーカー

69. サッカー日本代表のユニフォームでも知られるスポーツ用品メーカー「アディダス」の本社はバイエルン州

70. 靴職人の息子ダスラー兄弟の弟アドルフが1949年に設立し、1965年テニスシューズ〈ハイレット〉を発表

71. このシューズがのちの〈スタン・スミス〉となった。一方、兄ルドルフが立ち上げたのが「プーマ」である


兄弟の分裂がきっかけにスタートした「アディダス」と「プーマ」(写真:GoodLifeStudio/iStock)

72. 兄弟分裂をきっかけにスタートした「アディダス」と「プーマ」だがいずれも世界のスポーツ界の支持は厚い

73. 高級時計ブランド「ランゲ&ゾーネ」はザクセン王国宮廷時計師フェルディナント・アドルフ・ランゲが創始

74. 1845年グラスヒュッテに移住した彼の工房開設をきっかけに、町は精密時計産業の地として発展を遂げた

75. そのグラスヒュッテでドイツの時計メーカーとして主に軍用クロノグラフを製造しているのが「テュチマ」

76. 1939年にドイツ空軍の依頼で開発された〈フリーガークロノグラフ〉の設計思想は現在も引き継がれている

77. 1861年に壁掛け時計メーカーとしてシュテンベルクで創業した「ユンハンス」はドイツ最大の時計メーカー

78. 1972年のミュンヘン五輪では公式サプライヤーを務め、1985年には世界初の置時計式電波時計を誕生させた

79. 現在はスイス傘下にあるが、ドイツ起源の筆記具として「モンブラン」と「ペリカン」は外せない

80. 「モンブラン」は1906年ハンブルクの文房具店主と銀行家、ベルリンのエンジニアの3人で万年筆製造を開始

81. 1924年モンブランの代表作〈マイスターシュテュック〉を発表した。一方ペリカンはハノーファーで創業


「モンブラン」の万年筆(写真:abalcazar/iStock)

82. 絵具とインク工場からはじまり1929年に筆記具製造を開始。独自のインク吸い入れ方式で人気を呼んだ

83. 製図用万年筆を主に生産している「ロットリング」は1928年創業、ハンブルクに本社を置く筆記具メーカー

84. 長い線をぶれずに引ける精巧なペン先の口金、一定量のインクが出続ける設計が特長で愛好者が絶えない

85. ハイデルベルクに本社を構える「ラミー」は元パーカー社の営業カール・ヨーゼフ・ラミーが1930年に創業

86. 1962年には〈機能によって形づくられるデザイン〉というバウハウスのコンセプトを掲げて革新の道を歩む

87. 「ファーバーカステル」は1761年にニュルンベルクで創業。1851年後継者ローターが鉛筆の基準を作成する

88. これが〈六角形デザインの鉛筆〉で、この長さ、太さ、硬度の基準は現在も世界で使用され続けている

89. マルスのロゴが印象的な筆記具・製図用品メーカー「ステッドラー」もニュルンベルクに本社を置く

90. 早くから環境問題に取り組み、100年以上の歴史あるマルスルモグラフ鉛筆にも森林保護認証地木材を導入

卓越した技術で生まれた世界最高価なヘッドホン

91. 1967年に世界初オープンエア型ヘッドホン〈HD414〉を誕生させた音響機器メーカー「ゼンハイザー」

92. ハノーファーに本社を構え、1991年真空管アンプと組みで世界最高価なヘッドホン〈Orpheus〉を発売した

93. 「性能は倍に、価格は半分に」を社是とする音響機器メーカー「ベリンガー」は1989年ウィリッヒで創業

94. 創業者ユーリ・ベリンガーはロベルトシューマン音楽院出身で、彼が自作したエフェクターがヒットとなった

95. 1924年にベルリンで創業した「ベイヤー」は1937年に世界初となるダイナミック型ヘッドホンを開発した

96. 第2次世界大戦中は操業停止し、本拠をハイルブロンに移して再開。その音響システムは世界で採用されている

97. 中世から刃物の町として有名なゾーリンゲンに本拠を置く刃物メーカー「ツヴィリング J.A.ヘンケルス」

98. 社名の〈ツヴィリング〉はドイツ語で双子を意味し、その双子マークを登録した1731年が創業の年とされる

99. 「シュタイフ」のぬいぐるみは1880年にギンゲン在住のマルガレーテ・シュタイフの手によって誕生した

100. 1903年の発表当時パッとしなかった〈ベア〉だが、アメリカのルーズベルト大統領に贈られて大ブームとなった

(文:寺田 薫/モノ・マガジン2019年8月2日号より転載)

参考文献・HP/「マイスターの国」(河出書房新社)「ドイツ同族大企業」(NTT出版)「万年筆の達人」(耷出版社)「鋼のおはなし」(日本規格協会)、地球の歩き方、OSMO&EDEL、トラスコ中山、旭化成ほか関連HP