占星術研究家の鏡リュウジさんと、ビッグコミックスピリッツで『サターンリターン』を好評連載中の漫画家・鳥飼茜さんによる「サターンリターン」対談。Vol.1は、漫画のタイトルにもなっている「サターンリターン」について伺いました。 出生時と同じ位置に土星が戻ってくる「サターンリターン」、それは28〜30歳の時期に見られる現象で、まさにアラサー女子はその真っ只中か、抜けたばかりという人も多いかもしれません。「時」について認識を新たにする時期とも言える「サターンリターン」、あなたはちゃんと成長して大人になっていますか?〜Vol.1〜はコチラ

生きていること自体が怖い

―「サターンリターン」の影響として、大人になるのを恐れていると、大人になることを拒否してしまうというお話が出ました。鳥飼さんにとって、恐れていることはありますか?

鳥飼茜さん・以下鳥飼)自分がこの漫画を描くことにおいて、実は死ぬってことが凄く怖いんです。本当に、異常なくらい怖いです。

だんだん死をテーマに描くことで、“生きてること自体が怖い”って思うようになってきました。前は、死ぬのが怖いから生きていたいって思っていたんです。若い年齢の時に、友人が自分から亡くなってしまったのを見てから、“どうして死んでしまうのだろう”って疑問に思ってしまって……。理由がわからないというか。

生きてることは気持ちがいいし、死ぬことは怖いことのはずなのに、なんでそれを選んでしまうのだろうって、ずっと謎に感じていたんです。

そのことを今描こうとしていると、自分が怖がっていたのは、本当は死ぬことよりも、生きてることの方が怖いかもしれないって思っていたり。

「死ぬことが怖いです」と語る鳥飼さん。

鏡リュウジさん・以下鏡)なるほど。

鳥飼)鏡さんのお話を聞いていて、自分も大人でいるのが怖いんだなって思いました。

鏡)大人でいるのが怖いって思っている人って、意外と沢山いるんですよ。僕も実はそうなんです(笑)。

鳥飼)意外です!

鏡)生きるということは、生まれるということだから。生まれたら死ななきゃいけないわけですね。

鳥飼)それです!

鏡)肉体を持っているというのは、有限の存在ということ。人間は、時間という限界がないとなにもできないのです。そのパラドックスがあります。

鳥飼)そのことを子ども時代は忘れていられるというか、死がない世界で生きていられたんです。どうしても死を受け入れがたさがあったんです。でも今、テーマとして描いているから、とっても辛いところもあるんです(笑)。

鏡)漫画に見開き真っ黒のページとかありますね(笑)

鳥飼)これ、ちゃんとマジックで塗ってあるんです。デジタルが苦手なんで、漫画はアナログで描いているんです。この黒いページに、鬼が写っているっていう感想が編集部に届いたんですよ(笑)

すべて手書きで塗ったという見開き。『サターンリターン』(小学館刊・発売中)15〜16ページより。

鏡)見えちゃったんだ(笑)

鳥飼)自分の漫画に、いろいろなものを投影されることは、私は嬉しいです。

土星回帰は「悪魔が来りて笛を吹く」!?

土星って、本当に凶星?

―鏡さんの「サターンリターン」の解説を、鳥飼さんはどう思われましたか?

鳥飼)私が考えていたサターンリターンの意味と、近いところにあったんで、安心しました。

―では、土星は凶星と言われていますが、本当に怖い星なのでしょうか?

鏡)古い占星術ではマレフィック(凶星)と呼ばれていて、「害をなすもの」という意味だったんです。でもルネサンスの時代に、土星に関する解釈が大きく変わり、「考える賢者」いわゆる思索、哲学者の星であるという意味に変わっていきました。

ヨーロッパの世界観では、土星は「メランコリーの星」と呼ばれているんです。「メランコリア」と言って、我々が使う「メランコリー」の語源でもあるんですけれど。

当時、人間の体には、4つの体液が流れていると言われていました。血液、粘液、黄色い胆汁、黒い胆汁、この黒い胆汁が「メランコリア」なんです。メラは黒、コリアは胆汁という意味です。ちなみにメラニン色素の「メラ」って、ここからきているんです。

「メランコリア」という状態は、土星がもたらせていると考えられていたんです。だから、メランコリーの思索は憂鬱で、臆病でいいことなし。でもルネッサンスの時に、フィレンツェで活躍をしたマルシリオ・フィチーノ(哲学者・占星術師)が、土星の価値を大きく変えたんです。

土星は地球から遠い星なので神に近い、落ち込んだりするのは、深い思索であるという説を唱えたんです。そのため、土星は哲学者の星という解釈に変わったんです。

「メランコリー」って、あごの下に手を置く考えるポーズなんです。これって、ロダンの考える人のポーズなんです。

鳥飼)おお! 芸術世界にも影響をもたらしているのですね。

鏡)この「メランコリア」は、すごく大きな動きだったんです。実は、土星は錬金術の面もあったんです。錬金術では、黄金を作るために、それまでの議材となる物質を一回真っ黒にして、殺さなければならないのです。

その真っ黒になっている状態というのが、「ニグレド(錬金術でいう黒化の状態)」。ユング的な見解では化学変化ではなく、人間の心の変化を指すと言います。

人間は、再生するには闇を通らなければいけない、それが土星的な体験という。自分の限界を知る体験だったり、闇と向かい合う体験。まさにこの漫画の真っ黒のページですね。

鳥飼)本当だ!

鏡)「サターンリターン」は、しんどいけど、錬金術的な変容とも言えるんです。

鳥飼)黄金になるためのプロセスなんですね。

「「サターンリターン」はしんどいけれど、金に変わるための通過儀礼でもあるんです」と語る鏡さん。

鏡)人生という冒険の中での大きなチャレンジといえますね。「サターンリターン」の時は、“そこからの人生を、自分はこれで行ける”と思える時期でもあるんです。自分の武器を手に入れたというか、自分の射程距離がはっきりわかってくるんです。

鳥飼)えーーそうなんですね。自分が「サターンリターン」の時は、出産した時期なんです。でも、子どもを持ったことで生まれ変わったってところまでは、まだ思えないですね。子どもに関しての感じ方が幼い部分があるので……最近母性に関するエッセイの依頼をされてるんですが、すんなり書けず苦戦しています。

鏡)例えばどういうところですか?

鳥飼)自分の子どもの育て方とかを書くと、非難を浴びたりするんです。

鏡)窮屈な世の中ですね(笑)。逆にそれが、土星体験じゃないですか。

鳥飼)そうなんですか!?

鏡)決めつけられている世間の枠組みはこんなもんだっていうのが、明確に見えてきたんです。土星ってシャドウ(影)なんですね。ネットで批判とかするような人は、“シャドウの投影”なんです。自分が見たくないって思っているものに、投影しちゃうんです。それで敵意を生じてしまう。

鳥飼)相手の問題なんですね……(ため息)。

鏡)ご自身の人生だから。正直でいることが正解だと思いますよ。ちなみに、来年の2020年末には、土のエレメントから風のエレメントに星の配置が変わるので、自由な時代になるはずです。

漫画『サターンリターン』ができるまで

―漫画の構想はいつごろから準備していましたか?

鳥飼)今のスピリッツの編集の方から「スピリッツで何か描きませんか?」っていうこと自体は、3〜4年前から言われていて。

その間、ほかにも連載があったので、終わらせてから腰据えてこの漫画を描きたかったので、待ってもらいました。そうだ、今日は鏡さんに、理津子(「サターンリターン」の主人公)の星座設定も聞いてみたかったんです! 

主人公・理津子。『サターンリターン』(小学館刊・発売中)より。

鏡)難しい質問ですね。

--ミステリアスだから、蠍座でしょうか?

鏡)この思い詰めているところは乙女座っぽいかも。

鳥飼)あー!自分が、まじめだから、まじめじゃない人を描くのが難しいんです。地面に引き留めてしまうっていうのがありますね。では、乙女座っていうことで(笑)

―今までの漫画の登場人物は、星座設定を決めていましたか?

鳥飼)今まで描いていた漫画の主人公は、自分と同じ獅子座のつもりだったんです。それが一番、描きやすかったんで。

まじめなとこもあるし、自由でいたいというところもあるし。でもこの『サターンリターン』の加地理津子というキャラクターは、私が今まで描いたキャラクター中でも、本当にわからないんです。

読者に共感を持ってもらおうとして、描いているキャラクターではないんです。でも一人の人間のありようを忠実に再現できれば、共感ではなくて響くものがあるって思っているんです。

みんなにわかってもらえる人から一番遠い人を描こうとしています。なので、なに座かわからなくなってきましたね(笑)

鏡)水瓶座だったりして。

鳥飼)あー。意外ですね。

鏡)理屈で行こうとしてるところが、水瓶座っぽいですね。

奥『サターン 土星の心理占星学』(鏡リュウジ訳・リズ・グリーン著)、手前『サターンリターン』(鳥飼茜著)。

次回、「サターンリターン」を乗り越えるにはどうすればいいのかについて教えていただきます。〜Vol.3〜に続きます。