近ごろ人気のクラフトビールですが、クラフトビールといえばIPA、IPAといえばホップの風味というのを聞いたことがありますか?
このたび、キリンビールグループのブルワリー「スプリングバレーブルワリー」から、日本産ホップを使ったレアなIPAが数量限定で発表されました。さっそくご紹介したいのですが、その前に「ホップって何?」と思った人も多いのではないでしょうか。

インド向けだったからIPA

ホップの説明をする前に、「IPAって何?」と思った人も多いでしょう。

IPAはインディア・ペールエール(India Pale Ale)の略で、ビールタイプの名称です。「ペールエール」というのはイギリスの伝統的なビールで、上面発酵タイプのビール。ちなみに日本人が「とりあえずビール」で飲んでいるメジャーなビールは下面発酵タイプです。ペールエールは「エール」と比べると色が薄め。ということで「薄い」とか「青白い」という意味の「ペール」が冠されているのです。

なぜ「インディア」なのかというと、18世紀、当時イギリスの植民地だったインドに輸送されたことに由来します。インドまでの長い航海中、ふつうのエールは腐敗してしまいました。そこで、ホップを大量に添加した腐りにくいペールエールがインドに輸送されるようになりました。

ホップはもともとビールに使われていた原料で、ビール特有の苦味もホップあればこそ。またホップには乳酸菌など菌の繁殖を抑える作用があり、長い航海が必要なインド向けのペールエールには大量のホップが投入されたのです。これがインディア・ペールエール、すなわちIPAです。

ホップはツル性の植物。写真は日本産のホップ「MURAKAMI SEVEN」。

ホップはツル性の植物で、「毬花」(まりはな)と呼ばれる花のような部分がビールの原材料に使われます。身近にある植物ではありませんし、日本で栽培している農家もごく少数なので、実際に目にしたことのない方が多いのではないでしょうか。

IPAにはまるビール女子

そういうわけで、IPAは苦味が強いビールです。しかし「IPAを飲んではまった!」というビール女子も多いようです。中には以前はビールの苦味が苦手だったのに、IPAを飲んだらビールが好きになったという人もいますから、IPAは単なる苦いビールではないのですね。

ホップの役目は、苦味づけと雑菌の増殖抑制のほかに、あと2つあります。泡持ちをよくすること、そして香りです。

ビールの何とも言えない爽やかな香りは、ホップが入っていればこそ。そしてホップの品種や、製造工程で加えるタイミング、量によって、そのビールの味わいや風味が変わってきます。

日本産ホップの爽やかなIPAが登場

先日、スプリングバレーブルワリーが醸造した新ビール「MURAKAMI SEVEN IPA」の数量限定発売が始まりました。

スプリングバレーブルワリー東京で「MURAKAMI SEVEN IPA」を発表する“ホップ博士”村上敦司さん(中央)。

MURAKAMI SEVEN(村上セブン)とは、ホップの品種名です。キリンビールの“ホップ博士”と呼ばれる村上敦司さんが約20年前に交配し、育種してきた日本産のホップをたっぷり使ったIPAです。

「MURAKAMI SEVEN IPA」を試飲してみました。IPAだから苦み走っているのかと思ったら、そんなことはなく、むしろ華やかな香りを感じました。上質な苦味、イチジクやマスカット、柑橘系のフルーティーな香り。ホップの風味もしっかり感じられるエールでした。MURAKAMI SEVENの特徴を、村上さんは「個性は強いが出しゃばらない感じでしょ?強いて言えば、和服姿の女性の奥ゆかしさ」と表現しました。

夏なので浴衣でも着て、ゆるゆると、夕涼みしながら飲みたいですね。とても爽やかです。

スプリングバレーブルワリー(東京、横浜、京都)のほか、BEER TO GO(銀座)で提供中。「タップ・マルシェ」のある飲食店では7月8日から提供。

取材・文/佐藤恵菜