三重県の山奥には、一人の芸術家が人生をかけて作り上げた「陶芸空間」がある――。

そんなツイートをきっかけに注目を集めているのが、松阪市の山中にある「陶芸空間 虹の泉」だ。

こちらはツイッターユーザーのあびる(@A_hit_A)さんの投稿。「日本の山奥に存在する異世界」として、西洋風の胸像等が並んだ陶器の庭園の様子を紹介すると、「すごい」「本当に日本かよ」との反応が相次ぎ、話題になっている。

この「虹の泉」は、三重県出身の陶芸家・東健次氏(1938-2013)が亡くなるまでの35年間の歳月をかけて作り続けた作品だ。敷地面積は5800平方メートル。その一面に、東氏の陶芸作品が広がっている。

東氏が亡くなってから6年。今回Jタウンネット編集部は東氏の遺族に改めて話を聞いた――。

「誰も見たことがない、大きくて美しい世界を作りたい」


19年7月9日、Jタウンネットの取材に応じたのは、故人の妻・良子さん。作品の制作経緯について聞くと、生前の健次氏はスリランカについて話していたとして、次のように振り返った。

「シーギリヤロックやインド洋の眩しい光に出会って、『誰も見たことがない、大きくて美しい世界を作りたい』という理想を抱いたと聞いています」(良子さん)

スリランカでインスピレーションを得た健次氏。しかし、技術面、資金繰り、土地の問題があり、作品作りが始まったのは着想から十数年の時を経た1979年のことだったという。以来2013年の5月に亡くなるまでたった一人で作品を作り続けたそうだ。


あびる(@A_hit_A)さんのツイートより


あびる(@A_hit_A)さんのツイートより

「私からすると、一人の人間にこれだけのことができるのだという事実を知っていただきたいと思います。人それぞれ夢を持っていると思いますので、夢の扉を開くカギみたいなものと思ってくれたら」

健次氏の作品についてそう語る良子さん。ツイッターを通して多くの人に虹の泉が知ってもらえることは「ありがたい」として、

「感性が柔らかい若い方にたくさん見てもらいたいです。虹の泉を超える夢を具現化してもらいたいという思いがあっていまでも関わっています」

と残された作品の保全に携わる自らの心境を述べた。

4月から11月までの第2・第4日曜日には良子さんが虹の泉を訪れ、一般公開している。公開時間は10時から16時まで。中学生以下は無料だが、作品維持のため入場料代わりに寄付を募っている。平日などに訪れる場合は、近隣の道の駅「波瀬駅」でチケットやパンフレットを入手可能だ。

たった一人の人間が、生涯をかけて作り上げた芸術空間。訪れたものを圧倒する作品群にぜひ触れてもらいたい。