「診断が出たとき、私は意外とショックを受けませんでした。その時、どんな感情だったのかを表現するのは難しいのですが、『あ、とうとう来たんだ』という感覚でした。そうやって現実がすとんと、自分の中に落ちてきたのです」

【写真】『やすらぎの刻〜道』の収録風景

 柔らかな口調でこう語るのは、女優の八千草薫さん(88)だ。


©馬場わかな

 今年2月、ヒロイン役を務める予定だったテレビドラマ『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)を、体調不良を理由に一部降板。それと同時に所属事務所のホームページで「がん闘病中」であることを公表した。

 現在も療養生活を続けている八千草さんが、病気を通して考えたこと、これまでの女優人生、人生の心構えなどを語った。

精一杯生きていくしかない

「(自分や病気のことについて話すのは)なんだか恥ずかしいですが……」

 インタビュー会場となる会議室に現れた八千草さんは、そう言ってはにかみ、言葉を選びながらゆっくりと語りはじめた。その言葉はしっかりとした重みを持ちながら、どこか軽やかでもあり、会議室はふんわりとした心地よい空気に満たされていった。 

「今の私は80歳を超えていて、この先そんなに長く生きる年齢ではない。寿命がすぐそこに見えているという事実が、私を冷静にさせました。それに、くよくよ悩んだからといって病気は治りません。『まぁ、病気になってしまったものは、しょうがないな』そう思って、日々をしっかりと、精一杯生きていくしかないのだと思います。決して強がりを言っているのではありませんよ(笑)」

「どうにもならないことは考えなくていいのです」

 その死生観は、日々の暮らしで培われてきたようだ。自然・動物好きで知られる八千草さんは、自宅で猫と犬を飼っており、庭にはビオトープを作ったほど。公益財団法人日本生態系協会の理事も務めている。

 動植物から学んだことについて、こう語った。

「時間というのは、人間にも動物にも植物にも平等に与えられるものです。死も一緒です。生きとし生けるものに、確実に訪れます。私も病気をしたことで、自分の『死』が近づいたことを感じました。

 ですが全ての生き物の中で人間だけが、取り返しのつかない過去を嘆いたり、どうなるか分からない未来を不安がったりしています。過去や未来のことを心配しても何にもなりません。どうにもならないことは考えなくていいのです」

 では人間は、何を大事にして生きるべきなのか――。

 その答えが明かされる八千草さんのインタビュー全文は、「文藝春秋」8月号の「がん闘病手記 ちょっとだけ無理をして生きたい」に掲載されている。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年8月号)