NTTドコモは6月から「最大4割値下げ」の新料金プランをスタートさせた(写真は2019年4月15日の新料金プラン発表会。撮影:今井康一)

6月1日から「最大4割値下げ」の新料金プランを始めたNTTドコモ。これにより、2020年3月期の営業利益は前期比18.1%減の8300億円に沈む計画だ。それと引き換えに顧客基盤を広げ、今後の非通信分野の収益につなげる狙いがあった。

ところが、ここにきて競争環境を変える大きな省令改正が飛び込んできた。総務省は6月中旬、通信業界で主流となっている2年契約での契約者の囲い込みにメスを入れることを決めた。

ドコモを含むキャリアは、2年契約を期間拘束のない契約よりも月額で1500〜2700円(税抜き、以下同)安くして契約者を集め、途中解約には9500円の違約金を課すことで他社への流出を防いできた。

だが、今秋から総務省の省令改正により、違約金の上限が1000円まで引き下げられ、2年契約と期間拘束のない契約の料金差額(月額)も上限170円となる。さらに、スマートフォン端末の販売の値引き額も上限2万円に規制される。

こうした携帯電話をめぐるルールの変更によって、携帯キャリアの経営にどんな影響を与えるのか。NTTドコモの吉澤和弘社長に聞いた。

ルール改正前に、できることからやっていく

ーー2年契約への加入を条件に端末代を割り引く「セット割引」や、端末代の大幅な値引きが今秋から禁止されますが、ドコモはほかのキャリアに先んじてすでに大幅な端末値引きをやめました。他社が「端末1円販売」を続ける中、影響はないのでしょうか。

他社では1円販売どころか、さらにキャッシュバックをつけているところもある。今でも週末に多額のキャッシュバックをつけて乗り換え客をとりにいく売り方が多く、業界として非常にまずいことだと思っている。総務省にもそういう話はしている。

この業界は、これから健全にしていく努力をしていかないといけない。法律や省令が改正される前に既存のやり方で契約をたくさん取って、顧客を2年間縛りつけておこうというような考え方ではだめだ。省令施行後に対応するというのではなく、(省令改正前に)できるところからやっていこうという考え方だ。

ーーモラル的には正しいのでしょうが、乗り換えを考える顧客には値引きやキャッシュバックを続けるauやソフトバンクの方が魅力的に映りませんか。

キャリアスイッチ(乗り換え)ではそうだろう。だから10月までは対ソフトバンクやauでは少し厳しくはなる。auやソフトバンクの販売方法が規制される10月以降は同じ条件になるので、そこからは競争環境は今よりよくなる。

頻繁に乗り換える人が一部に存在するが、そういう人たちに高額なキャッシュバックを続けると、結局そういう業界だと見られてしまい、マイナスだ。それを早く払しょくし、健全化を進めないといけない。


吉澤和弘(よしざわ・かずひろ)/1955年生まれ。岩手大学工学部卒業。1979年、日本電信電話公社(現NTT)入社。NTTドコモ執行役員、副社長などを経て2014年6月から現職(撮影:尾形文繁)

ーー省令改正の概要が判明する前の6月1日から新料金プランを始めた理由は何ですか。

現場を混乱させないように、年度末や春の商戦の時期と新料金が重ならないようにした配慮もあるが、(菅義偉官房長官から)「料金を4割下げる余地がある」という話が昨年8月に出てきた。それなのに、値下げが例えば今年の秋からとなると、(遅すぎて)それって何なんだ、という話になる。われわれも業界の健全化を図ろうという考え方の中で、この時期に下げると決めた。

ーーそれにしても、新料金を決めた後に、ここまで大きなルール変更があると想定していなかったのではないですか。

違約金の話で言えば、そもそも2年契約に入ればその分、毎月の料金が安くなるということに対して、大半の顧客はウェルカムだったと思っている。途中解約に9500円の違約金を課すのは、2年契約では期間拘束のない契約よりも料金を1500円安くしているからだ。途中で抜ければ2年契約終了まで予定していた利益がなくなるので、そのような設定にしている。

ただし、9500円は少し高いという声も耳にしてきた。だから、(違約金の)引き下げを論点とすること自体には賛成だ。ただ、上限1000円への引き下げは衝撃的だった。

再びの値上げは正直難しい

ーー違約金や端末値引きの上限について、総務省の金額の決め方には有識者の間でも疑問の声があります。

金額に対しては(私も)疑問はある。理由はロジカルではないからだ。われわれが5月末の総務省の研究会で示した「端末の値引き上限3万円」という案も、利益率や乗り換え周期から計算して出したものだ。だが、6月に入って総務省の研究会がクローズド(非公開)で開かれ、一気に今の流れになってしまった。

ーー2年契約は先の収入がほぼ約束され、獲得コストを含む費用を2年間トータルで回収できればよいので、料金を安くできている部分があると思います。違約金が大幅に引き下げられると、囲い込みの拘束力が低下するため、2年契約の料金を値上げする必要がありませんか。

ただ、6月1日からここまで安くしたものを、また値上げするのは正直なところ難しい。他社との競争もある。今回、違約金上限1000円への引き下げられた中で、料金をどうやって修正していくのか。微修正なのか、それとも修正しないのか。そこを今、検討し始めているところだ。

ーー10月からは楽天も本格参入してきます。

楽天は料金も安く、かつ期間拘束もないプランを出すと言っているが、こちらの修正や対応は当然、楽天の動きもみながら考える必要がある。先に料金を微修正して、また楽天のプランをみてからさらに微修正すると、契約者を混乱させてしまう。しっかり状況を見ながら考えていきたい。

ーー違約金が1000円に引き下げられると、今後の乗り換えは活発になりますか。

違約金が1000円になることで、お客さんがどこまで契約内容を見直して解約をしたいと思うのか。いま乗り換えをしているお客さんはどちらかと言うと、新しい端末を安く入手したいからという理由が多い。今後は違約金が下がる一方で、同時に端末値引きの金額も少なくなるので、そこまで乗り換えは増えないかもしれない。

ソフトバンクやauの4年縛りは問題だ

2年契約の違約金よりも、ロックイン(囲い込み)効果がもっとも高いのはソフトバンクやauの4年縛りだ(注:ソフトバンクとauは、高額なスマホ端末の販売を48回の毎月払いとし、2年後にその端末を下取りに出せば、25カ月目以降の残債を免除する売り方をしている。このプログラムの利用には、最初に通信の2年契約に加入することが条件になっている)。4年縛りの残債免除の条件の中には今も機種変更があり、あれではお客さんが容易に抜けられない。


「ソフトバンクやauの4年縛りは問題だ」と語るNTTドコモの吉澤社長(撮影:尾形文繁)

今でも両社は、(法改正でこのやり方が封じられる前に)この契約を取るために、一生懸命キャッシュバックをやっている。表では「端末と通信料金を分離しました」と言いながら、こういうやり方を続けているのは問題なのではないか。 

ーー省令改正前に結んだ契約には、今秋以降も9500円の違約金がかかります。こうした利用者の違約金を自主的に1000円に下げる考えはありませんか。

そういう考え方もあるが、そこの9500円の扱いはすごく難しい。われわれとしては今の契約者の違約金は9500円のままだと考えている。ただ、ルールが変わる前に、現行の2年契約をたくさん取ろうと、過度なキャッシュバックをつけることはもう絶対にしない。

ーー2年契約の拘束力が弱まっていく中で、今後はどうやって顧客をつなぎとめていきますか。

顧客基盤の中心は今も携帯電話の契約者だが、うちは(携帯電話の契約がなくても加入できる)会員顧客基盤をより重視する方向に徐々にシフトしてきた。dポイントやキャッシュレス、カード、動画などだ。今後も会員サービス向けのポイント総額や加盟店を拡大したり、決済や5Gに絡むコンテンツに投資したりして、携帯以外のサービスを利用する人を増やし、顧客基盤を強化していきたい。