ITベンチャー「クローバーラボ」の社内バー。社員が酒を酌み交わしながら交流している =7月10日、大阪市北区(須谷友郁撮影)

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 会社の上司や同僚と仕事終わりに酒を酌み交わす「飲みにケーション」。

 働き方改革が進み、仕事とプライベートの時間をきっちり分ける人が増える現代に、飲み会を再評価する動きが出てきた。創業期の社員の一体感を高めるためにベンチャー企業が積極的に飲み会を推奨したり、世代や部署を超えて情報共有する機会としてとらえたりする企業もある。令和スタイルの飲み方を追った。

チャット時代、会話乏しく

 「何か困ってることとかないの?」

 ITベンチャー「クローバーラボ」の大阪市北区の本社にある一室。壁一面に日本酒や焼酎、ウイスキーなどさまざまな酒瓶が100本近く並び、冷蔵庫にはソフトドリンクもストックされている。昼はミーティングに使われる一室だが午後7時になるとアルコールが解禁され、社内バーとなり、社員がふらり立ち寄り酒やお茶を片手に話に花を咲かせる。

 同社の社員の平均年齢は29歳。普段上司になかなか話しかけづらいという若い社員も多いという。

 「社内バーで、お酒の力も借りながら仕事の悩みを聞き出したりしています。そうすると会社の風通しがよくなって、仕事も効率化する気がします」とプロデューサーの川本浩三さんは話す。

 平成21年創業の同社はゲーム製作や、ブランド腕時計のレンタルサービスなどインターネットを使った幅広い事業を行う。社内でのやりとりはメールやチャットで済ませることも多く、社員の中には「結局1日誰とも話さなかった」という人も少なくない。

 バーの設置を決めた小山力也社長は創業間もないベンチャー企業にこそ人と人のつながり、一体感が必要だと考える。「社内バーによって社員同士がコミュニケーションを取りやすくなり、さらには取引先の人も興味を持ってくれて、縁が深まるきっかけになる」

離職率低下、効能?

 8年創業のさくらインターネット(大阪市北区)も29年に社内バーを設けた。バー横にはセミナールームがあり、勉強会を行った後に酒を酌み交わすこともあり、さらには不定期に経営幹部と社員の意見交換会を酒も交えて行うこともあるという。

 いちはやく社員同士の飲み会の“効能”に目をつけて推進してきたのは日立ソリューションズ(東京都品川区)。本部長と課長、部長と一般社員といった階級差のある社員同士の懇親会(飲み会)への補助金制度を19年に設けた。当時、同社は業績が伸び悩み、合併も経験し、離職率も上がっていた。そこで日中行った会議の後に、自由に意見交換ができる場をもうけようと制度を開始した。

 さらに子育て中で時短勤務の社員や、お酒を飲めない社員にとって、夜の懇親会の補助金制度だけでは不公平が生じるとして、ランチでの補助金申請もできる仕組みをとっている。また昨秋からは「茶飲みケーション」を導入。勤務時間内の社員の親睦に会社が飲料や菓子を提供している。

 補助金は昨年度約3千万円となったが同社は「離職率も下がり、社員のモチベーションも上がっている」とその効果を確信している。

新入社員、飲み会敬遠

 とはいえ、やはり若い人にとって会社の飲み会は負担になりつつあるというデータもある。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングが毎年、新入社員1200人を対象に行っているアンケートによると、今年度の新入社員のうち24・9%が「会社の人と飲みに行くのは気が進まない」と答えた。26年度の調査では「気が進まない」と答えたのは12・8%にとどまっており、5年で倍増した。

 一方で「上司や仲間と時々飲みに行きたい」と答えた社員も今年度は75・1%いて、調査を行った丸山健太研究員は「基本的にはプライベートの時間を大切にする働き方が若い人の間で広まっているが、それでも時々、適度な割合では同僚とのコミュニケーションを必要としている」とする。

 確かに、昭和のサラリーマン社会で飲み会、懇親会は、職場の人間関係の管理や組織化、活性化に利用されてきたが、平成に移り、個人の成果主義や仕事の合理化が進み、飲み会などのコミュニケーション手段はだんだん少なくなっていった。

 では令和時代の飲み方はどのようなものになっていくのだろうか。

 近畿大学経営学部の松山一紀教授(組織経営分析)は「特にベンチャー企業など若い組織にとって、飲み会などの懇親会は組織化や成熟化に役立つ。年齢や階級を超えて人間関係を構築できるからだ」と指摘する。ただ、働き方や働く人の属性、国籍も多様化する現代において、「飲みにケーション」一本やりというわけにはいかない。「それぞれにあった飲み物、食べ物、時間で懇親の機会を持つなど、現代の働く事情に合わせたコミュニケーションのあり方が必要だ」と強調した。