誰しも、突然、人生の「まさかの坂」に転がり落ちてしまうことがある。

 若い有能な芸人たちが、闇営業を行う仲介者から誘われ、そこに集まった人たちの前で、芸を披露した。

 実は、そこは反社会的な人たちの集まりだった。その時、写真を撮られ、最近になって週刊誌に掲載された。

 芸人は、悪いことをした意識がないのにもかかわらず、会社を通さない営業だったこともあり、謹慎処分を言い渡された。

 中には、もう二度とスポットライトを浴びることがなくなる芸人がいるかもしれない。芸能生活の道を断ち切られ、人生の「まさかの坂」を転がり落ちてしまう。

 運が悪かったのか。

 このようなことは、芸人ばかりではなく、誰にでも起こりうることだ。

 他方、今、成功している人たちの中には、過去を振り返って、「あの時が運命の分かれ道だった、ぎりぎり危機を乗り切った、運よく人に助けられた」と安堵している人もいるだろう。

 人生には「まさかの坂」がある。ふとした油断や対策の不備などのために道を踏み外し、「まさか」が起こった時、一瞬にして、その後の人生のすべてを失ってしまうこともあるということだ。

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罠を仕かけられたら
あなたは自分を守れるか

 メディアでは、反社会的勢力の前で芸を披露した芸人の写真が繰り返し放送されている。

 先輩芸人やコメンテーターの中には、処分を受けた芸人たちに対して、「当日パーティなどに参加し、普通とは違う異様な空気感を感じ取った時に、そこから立ち去るべきだ」「気をつけて対応すべきだ、脇が甘い」などと批判している。

 当人にしてみれば、頼まれて行っただけなのに「こんなことになるなんて」と相当悔やんでいることだろう。

 注意しろと批判することは簡単だ。しかし、もし、自分が、ある会社の紹介で反社会的勢力の催しに呼ばれた場合、その会場に行く前に断ることができただろうか。

 極めて難しいのではないか。異常な事態が発生する前に、危機を感じ取ることは、並大抵のことではないからだ。

 「契約会社を通していれば、そんなあくどい仕事にかかわることはない」「ひたすら真面目に芸の道を貫けば、反社会的勢力と接触することはない」と言うかもしれない。

 しかし、「まさかの坂」を転がり落ちるケースはたくさんある。

 信じていた人が、ある日突然裏切る。誠実に真面目に生きてきたとしても、罠にかけられることもある。

 詐欺師などの反社会的な人たちは、あの手この手で、嘘で固めた罠を仕かけてくる。罠にかかった人を脅して金銭を巻き上げるのだ。

 今回の場合、運悪く反社会的勢力と接触した人は処分され、接触がなかった人は、これらの芸人を非難した。

 芸人も含め、このような経験をした人たちは、よく思い出してほしい。

 仕事を受けるときその瞬間に、「何か変だな」「ちょっと違うな」と思ったのではないか。

 その時、「まあいいか」「成行きで」とムードやその時の流れで進んで行ったか。それとも、適切な措置を取って、危機を防ぐことができたのか。かなり難しい選択と行動であったに違いない。

 ポイントは、「何か変だ」と感じたら、それをそのままにして、危機から逃れるチャンスを逃してはいけないということだ。これこそが、運命の分かれ道だからだ。

危機から逃れるには
情報活動の「兆候分析」が役に立つ

 危機の対策を採るタイミングには2つある。一つは危機事態が発生してからで、もう一つは危機発生前に「兆候」を察知した時だ。

 大きな問題が発生する直前、あるいは起こりつつあるときには、「兆候(予兆)」がある。その兆候に気づいて、何が起こるのか、起きつつあるのかを予想し、対策を取ることが、危機管理の第一歩である。

 このことを「兆候分析」という。何気ない断片情報などから従来とは異なる新たな動きを察知し、予測する分析方法である。

 私は30年以上、我が国周辺の軍事情勢の情報分析をしてきた。情報を分析していると、「今、現れている断片情報に、何か変だ」と感じたことが、まれにあった。

 ある時、「変に感じたこと」をそのまま放置して、自衛隊機が危うく危険にさらされてしまいそうになったことがあった。

 情報分析の責任者として、「なぜ、あの時感じた疑問を問題発生の前に、自分自身と関係者全員の力を集中させて、解明しなかったのか」と反省している。

 危機一髪で大事故に至らなかったので良かったが、「まさかの坂を転がり落ちる寸前だった」と肝を冷やした。

「変に感じたことを見逃してはいけない」というのが、防衛省・自衛隊などの情報分析の現場で感じてきたことであり、敵の戦略を見破るか見破れないかのターニングポイントだった。

 その事案後、情報分析の経験を重ねるたびに、「ちょっと待てよ」と自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる習慣を身に着けたつもりだ。最大の教訓事項だ。

 まず、「何か変だ」と感じた時に、この情報にしっかりと注目することにした。絶対に見逃さないことにしている。

 あるいは、一呼吸して何か変だと感じることを、なぜ変に感じるのだろうと考える余裕を持つことにしている。

 断片的な情報とは、ジグソーパズルの一片と思えばよい。これらをつなぎ合わせて絵が浮かび上がってくる。これが、情報になる。

 かけらをつなぎ合わせていくうちに、その中に「変だ」と感じることがある。その際、次の4つが大切になる。

〆5こっている「何か変だ」という感覚(断片情報)を見逃さない
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「変に感じること」の本質を調べる
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「兆候分析」とは
「何か変だ」と感じたことを調べること

 では、どうすれば危機を未然に防止できるのか、避けられるのか。

 私は長く情報分析の仕事に携わっていた時のこの教訓が、まさかの坂を転がり落ちずに、危機を防ぐことができる有効な方法ではないかと思っている。

 芸人が、闇営業の仲介を通して反社会的勢力に呼ばれて、仕事をしたことを例に挙げ、怪しげな断片情報の、どこに注目してどのように対応すべきかについて、具体的に説明する。

〆5こっている「何か変だ」という感覚(断片情報)を見逃さない

 これまでに経験したことがない、いつもと違う感覚を持った時、「待てよ」「なぜだろう」と注目する。

「何か変だ」と思うことが3つあれば、それはストップ信号だと見なしてよい。

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「何かはっきりとは分からないが、変な感じってなんだろう」と考えること。

 それは、人そのものか、その人の行動か、または表情か、何かを隠そうとしている表れなのか。

 例えば、仲介者が、お客の職業のことをあいまいに伝えた。自分としては明確になっていない。そこには、何かが隠されている、怪しいかもしれないと思うべきだろう。

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 不明なこと、筋道が通らないことがあれば、なぜなのかを調べる。通常であれば、相手のことがはっきり分かるのに、今回は不明である。

 こんなことは普段あり得ない。これまでに経験したことがない何かが起こっているのではないかと想像することが必要である。

 交渉中の話の内容に、論理矛盾がある、お世辞が多い、儲け話が多いことがある。著名な人の名刺を見せて知り合いだということもある。

 このような時は、相手の作り話であったり、何かを隠そうとしているからこそ、変に感じるのだろう。

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 思いつく質問を投げかける。

 例えば、芸人であれば、「お客様は誰」「お客様が誰なのか、よく分からないのはなぜ」「この話、うますぎないか」「何かが隠されていないか」というように、自問自答する。

 さらに、納得できるまで直接質問すれば、「実は、何々です」となって、問題点が解明され、悪い商談は、断ち切れになるだろう。

 組織の管理者であれば、「何か変なこと、奇妙なことが起きているぞ」「何か問題があるのではないか」と、組織を活用して、あるいは部下に変な感じのものを調べ上げさせることだ。

 さらに、なぜ今、こんなことが起きているのか、変な感じに関連するものはないかを調べる。

 この時、管理者は、関係者任せにするのではなく、管理者と関係者が一体となって調べることだ。ルーティンワークで忙しい関係者に任せてしまえば、ついつい後回しにして危機事態に陥ることになるからである。

迫ってくる危機からどうやって自分を守るのか

 反社会的な事件が起きると、「反社会的勢力や営業の仲介が悪い、嘘が悪い、記者会見をやって謝れ」と言う。

 無差別殺人が起きると「犯人は残酷、被害者は可哀想」、災害が起きると「被災者は可哀想、警報や指示が出れば、早め早めの避難だ」となる。

 危機に対しては、行政、企業、関係者の警告を受けて行動することは大事である。だが、自分や組織が危機意識を高めて、自分で対策を採ることこそが最も重要である。

 危機は、危機を受ける本人に迫っているわけだから、その本人が感じ取って、危機の大きさを理解し、相応の対策を採ってこそ、自分を守ることができるのである。

 何らかの兆候を感じたらどうするのか。生命にかかわることであれば、直ちに行動を開始することだ。

 生命にかかわるようなことでなければ、「待てよ」と一度立ち止まって、「変に感じる」という兆候に注目し調べることが必要である。

筆者:西村 金一