ニトリグループのホームロジスティクスが導入した移動型納品訓練車「モバイル・トレーニング・ユニット」(記者撮影)

「小売りだけど商社も物流も製造もやっていく。そういう企業が勝ち残る。単に小売りだけ、ではだめなんです」――。7月3日に開かれた家具大手・ニトリホールディングスの決算説明会の壇上、似鳥昭雄会長はこの先も生き残る小売企業の条件についてそう強調した。

同日発表された同社の2019年度第1四半期決算は、売上高1673億円(前年同期比6.1%増)、営業利益は前年同期並みの304億円で着地。為替の影響で仕入れ原価などが上昇し粗利益率が悪化したものの、国内のニトリ既存店は足元で対前年比5%前後の伸びが続く。通期計画は売上高6430億円(前期比5.7%増)、営業利益1040億円(同3.2%増)と、33期連続の増収増益をもくろむ。

国内家具市場では“独り勝ち”

少子高齢化や新設住宅着工戸数の減少が響き、国内の家具市場は停滞状態が続く。郊外大型店への車での来店やまとめ買いの需要が薄れる中、イケア・ジャパンは2017年度以降営業赤字に転落。無印良品を展開する良品計画もファニチャー(家具)のカテゴリーの売り上げは伸び悩んでおり、国内の家具販売ではニトリがほぼ“独り勝ち”の様相を呈している。


国内外の店舗数は5月20日時点で589店に上る(記者撮影)

ニトリの強みは、顧客ニーズを捉えた品ぞろえの豊富さと圧倒的な価格競争力。その源泉は、冒頭の似鳥会長の言葉どおり、商品開発から原材料調達、製造、物流に至るまで、すべてを自社でまかなうビジネスモデルだ。とくに物流の内製化は同業他社と一線を画す徹底ぶりで、生産地から輸入した商品の輸送や倉庫の管理だけでなく、顧客への配送(いわゆるラストワンマイル)までグループ内で行っている。

これらニトリの物流業務を担うのが、ニトリホールディングス子会社のホームロジスティクスだ。ラストワンマイル事業ではニトリで購入された商品のうち、組み立て・設置が必要なダイニングセットやたんす、ソファなどの大型家具の配送を行う。各地の運送業者とパートナー契約を結んで全国ネットワークを構築し、年間800万件以上の配送を手がけている。

そのホームロジスティクスの物流拠点である川崎DC(神奈川県川崎市)で6月、1台の大型トラックがお披露目された。一見、普通のトラックに見えるが、実は車内に一般家屋の洋室や階段、廊下が再現された、特注の「移動型納品訓練車」だ。ボタンを操作すると、およそ5分でトラックの左右と上部が拡幅。車内に入ると、まるで配送先の住宅の室内にいるような状態で大型家具の搬送・組み立てを実践することができる。

ホームロジスティクスでは、「セールスマン」と呼ばれる配達員が基本的に2人体制で商品を配送する。室内に入り込んで作業するため、接客スキルとともに、商品の搬送・組み立ての過程で床や壁に傷をつけることがないよう、高度な技術を要する。

技術力を担保するため同社では、全国に約2000人いる配達員のうち年間約400人に対し、川崎と大阪・茨木にある施設で納品作業の研修を行ってきた。

2〜3年に1回の研修が可能に

配達員を抱える全国のパートナー会社からは「研修を受ける機会を増やしてほしい」という声があったが、施設が2カ所に限られているため、配達員が施設まで赴く費用や時間の負担が大きかった。

訓練車を導入した理由についてホームロジスティクスの五十嵐明生社長は「訓練の機会を増やすには、どこかに施設をもう1つ作るよりも、私どものほうから全国各地に伺う形のほうがいいと考えた」と振り返る。

訓練車の車内には、一般家屋用の壁紙や床材を使用。傷をつけないための養生の施し方から階段での商品の上げ下げ、さらに商品を2階から吊り上げて搬入する作業まで訓練することができる。

7月以降、ホームロジスティクスの社員が交代で運転して全国の拠点を回り、各地域の配達員に研修を実施する予定。訓練車の導入により研修機会の拡大が見込まれ、「(配達員一人ひとりが)2〜3年に1回は研修を受けていただけるようになる」(五十嵐社長)。


組み立てが必要な家具の販売は、店頭だけでなく配送・設置までを含めたサービスの内容が会社のイメージを左右しかねない。それだけにニトリにとって配達員の接客や作業スキルの向上は、会社全体の経営戦略の一環でもあるわけだ。

もっとも、このタイミングで研修強化に動いた背景には、社会問題化している配達員の人手不足対策の意味合いも大きい。ホームロジスティクスでは今年3月に全国の物流センターへの食堂の設置を完了させるなど、労働環境の改善を進めてきた。

ニトリ以外の商品配達を拡大へ

一方で配達員の間では、壁を傷つけるなど配送作業時に失敗した経験が離職につながってしまうケースが多かった。研修を強化して配達員の技術面での不安を取り除くことができれば、離職率を抑える効果も期待できる。ホームロジスティクスの五十嵐社長は「技術力を高めて、弊社で仕事を続けていただくことになれば」と期待を寄せる。

配達員への教育の徹底は、会社のイメージアップにもつながる。ホームロジスティクスではニトリの商品の配送がおよそ95%を占めるが、ニトリ以外の150社以上の企業からも大型商品の配達を請け負っている。

ニトリの商品だけでは地域や時期によって需要にばらつきがあり、トラック1台当たりの積載効率を平準化するためにも、同社ではニトリ以外の商品の配達を拡大していく方針だ。新たな荷主を開拓するうえでも、配達サービスの質の高さは大きなアピール材料となる。

一般的なSPA(製造小売業)ではなく、「製造“物流”小売業」を自称するニトリ。通常の小売企業の事業領域では考えられないような地道な取り組みの積み重ねこそ、今後のさらなる成長の下支えとなりそうだ。