さらに付言すれば、正社員の低賃金化と非正規労働者の激増は、いわゆる「主婦パート」や学生アルバイトなど従来の「家計補助労働」の家計における位置づけを著しく高め、家計にとって欠かせない収入源となっているケースは増えている。もはや「家計補助労働」ではなく、労働者の家計の大きな部分を支えるものであると認識すべきだろう。

 したがって、(1)最低賃金付近正社員の増加、(2)家計補助型でない非正規労働者の増加によって、「最低賃金=家計補助賃金」という位置づけは何重にも現実と合致しなくなっているのである。

◆「正社員男性に養われる主婦パート」家族モデルの危険

 三村氏は「正社員男性に養われる女性」という家族モデルを標準的なものとみなしているように思われる。これは、女性労働者を「男性に養われている/養われるであろう労働者」としてその雇用を不安定にし、また賃金を抑制してきた。その結果、シングル女性をワーキングプア状態にするとともに実質的に男性に養われることを女性に強制した。

 例えば、AEQUITAS(エキタス:ギリシャ語で公正・正義という意味)という最低賃金1500円を目指す市民運動団体がツイッター上で「最低賃金1500円になったら」というキャンペーンを行った際には「最低賃金1500円になったら離婚する」という声が見られた。シングル女性として生きることが黒田さんのような低賃金過重労働の生活を意味するとすれば、男性に養われることを選択することへの強制力が働かざるを得ない。女性が自由になるには、また両性の平等のためには、「家計補助賃金としての最低賃金」という「常識」を打破し、「生活賃金としての最低賃金」を実現していく必要があるだろう。

◆「生活賃金としての最低賃金」を

 これまで「最低賃金は主婦パートなど限定的な労働者にしか影響を与えない」「最低賃金=家計補助賃金」といった「常識」について検討してきた。明らかになったのは、正社員の低賃金化と非正規労働者の激増により、最低賃金が労働者生活にとって非常に重要な制度となってきているという実態である。にもかかわらず、最低賃金の金額はいまだ「家計補助賃金」の水準を出ておらず、労働者生活に様々な困難を生み出している。求められるのは、「生活賃金としての最低賃金」、すなわち、「最低賃金によって人並みに生きていく」ことを可能とするための最低賃金制度の改良である。

 では「生活賃金としての最低賃金」の水準とはどの程度のものになるべきであろうか?

 このような疑問に答えるため、現在労働組合によって生計費調査が行われている。都道府県ごとに単身者の生計費を明らかにしようというものである。そこでは、全国どこでも、単身者の労働者の生計費は公租公課など含めて月額22〜25万円となっており、月の労働時間を155時間とすると時給は1400〜1500円必要であるという結果が出ている。また、AEQUITASは「最低賃金1500円」を求めて路上での活動を行っている。筆者もこうした主張に賛成である。「全国一律最低賃金1500円」の実現を本気で目指すべきだろう。

 また、賃金の引き上げの方法としては、最低賃金制度の引き上げなど法律に定められた制度によるものだけでなく、労働組合と使用者との「団体交渉」(使用者と労働組合・労働者との話し合い。労働組合には団体交渉権が保障されており、使用者は労働組合からの団体交渉の申し入れを原則として断ることができない)による引き上げという方法もある。最近、首都圏青年ユニオンの組合員から「いまの賃金は安すぎる」と言う不満が相次いでおり、使用者との団体交渉によって賃上げを実現した例もある。筆者としては、最低賃金制度と団体交渉による最低賃金付近労働者の賃上げが急務であり、またそれは不可能ではないのだということを強調したいと思う。

<文/栗原耕平>

【栗原耕平】
1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。