引退会見に臨む、サガン鳥栖のフェルディナント・トーレス(筆者撮影)

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フェルナンド・トーレス、シーズン途中の決断

 引退とは、一部の実績を残した選手にのみ許される特権である。大部分の選手は、野球界用語でいえば戦力外通告、サッカー界用語でいえばゼロ円提示を受け、要はクビになる。

 本来ならフェルナンド・トーレスの契約は今年いっぱいまであり、来年も一年間のオプションが残っている。しかし、トーレスはシーズン途中の「引退」を選んだ。言うまでもなく、世界大会三連覇(2008EURO,2010南アフリカW杯、2012EURO)、チャンピオンズリーグ優勝もした男には引退の時期を選ぶ資格がある。

 そして引退にも二種類ある。余力を残して引退するのと、ボロボロになるまで戦い続けて本当に体が動かなくなって引退するパターンである。50歳過ぎても現役を続けるカズはまさに後者であり、筆者はどちらかといえばそういうタイプが好きだ。

 しかし、トーレスの引退理由は明らかに前者だ。

「私は自らに対しても要求が高く、その要求が今は満たせなくなっている。それならば、本当に体が動かなくなってフットボールを楽しめなくなる前にと今回の決断に至った」

 もう一度繰り返すが、トーレスには自らの引退時期を決める資格がある。それは最大限に尊重するしかない。

◆トーレスとサガン鳥栖の関係はどうなる?

 筆者が気になっていたのは、「今後のトーレスとクラブ(サガン鳥栖)との関係がどうなるのか」であった。本来ならシーズン最後まで契約を全うすべきだ、という筋論は確かにある。しかし、この会見には竹原稔社長も同席し、引退と同時にトーレスのアドバイザー就任が発表された。今回の決定が円満なものであり、今後もトーレスとサガン鳥栖が良好な関係を維持することが明らかとなったわけだ。

 会見場に足を運ぶと、受付で案内が渡された。その中に気になる文言があった。

「質疑応答は“日本語”もしくは“英語”にてお願いします」

 フェルナンド・トーレスの国籍はスペインではなかったのか? トーレスはイングランドでのプレー期間が長く、英語を話せるのはよく知っているが、スペイン人にスペイン語で質問して何が悪いのか。それでも、彼は実際に全てのやりとりを英語でこなしてみせた。

 質疑応答の時間となり、筆者も手をあげ、スペイン語で問いかけた。

「フェルナンド、スペイン語で質問してもいいですか?それとも英語にしますか?」

 最初は「どちらでも」と言っていたが、やはり母国語のほうが話しやすいのだろう。「ではスペイン語で」と言ってくれた。

「今シーズン、サガン鳥栖はJ1で生き残らなければなりません。今後残留に向けてカギとなる選手、キャプテンとして引っ張っていける選手は誰ですか?」

 現実問題として、サガン鳥栖は今シーズン開幕からずっと降格圏から抜け出せていない。本来なら昨年の横浜Fマリノス戦のように、トーレス本人が残留確定ゴールを決めるのが望ましい。しかしそれが叶わなくなった今、彼は誰に期待しているのか。

◆やるべきことは、「チームのために全員がまとまること」

 もし誰もスペイン語がわからないなら筆者自身がもう一度日本語で同じ内容を繰り返すつもりだったが、その必要はなかった。司会者の隣から一人出てきて、訳してくれた。

 では彼の答えを逐語訳しよう。

「私たちには昨年も同じ経験がありました。チームが(降格の)危機的状況にあるときに、チーム全体でまとまって戦うことが強さだと学びました。サガン鳥栖はチームで団結することが強さを生み出すと知ることが必要なクラブです。選手が個人的に戦うのではありません。確かに昨年は私が主将としての責任を負い、私たちは降格圏脱出という目標を達成できました。今年の私に同じ責任はありませんが、やるべきことは昨年と変わりません。大切なことは、このカテゴリー(J1)に残るためチームとしての団結を維持すること、チームとして機能すること、チームとして考えること、チームのために全員がまとまることです」