レジのない店「アマゾンゴー」は、なにがすごいのか。米国で現地調査を行ったマーケターの伴大二郎氏は「一度でもアマゾンゴーを使った人は、コンビニでのレジ待ちに強いストレスを感じるようになる。いくつかの条件が整えば、コンビニは本格的に淘汰されるだろう」と指摘する――。
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■アマゾンゴーの収益性はコンビニの1.5倍

2019年1月、アメリカの小売りニュースサイト「Retail Dive」に、Amazon Go(アマゾンゴー)の1店舗当たりの売上が年150万ドル(約1億6000万円)で、アメリカの通常のコンビニの1.5倍になっているという記事が出た。その記事には、2021年までに3000店舗45億ドル(約4800億円)の売上を目指す計画だと書かれていた。

私は小売りのマーケターとして衝撃を受けた。日本の小売りでもっとも店舗当たりの売上高が大きいのはコンビニだが、その1.5倍の収益性があるというからだ。その事実を確かめるため、私は2018年12月と2019年2月の2回、渡米し、アマゾンゴーの実力をこの目で確かめてきた。まずは2月に私が目にした光景を、皆さんにお伝えしたい。

2019年2月11日月曜日11時ごろ、私はサンフランシスコの中心部ミッションストリートを歩いた。そこには日本でもなじみ深い「セブン-イレブン」がある。日本とは若干違ってレジは入口の真正面にあり、常に3〜4人のお客が並んでいる。入口からレジに向かう通路が埋まっているので、回遊しにくいつくりだ。日本のほうが洗練されているという印象をもった。

■ミールキットは豊富だがワインコーナーはない

アマゾンゴーはそこから徒歩5分ほどの場所にある。セブン-イレブンに比べれば、人通りは明らかに少ない場所だ。店の入口にはスタッフが立っている。サッとアプリを開きエントリーに向かうと、ほほえみかけてくれた。もう使い方を知っていると理解してくれたのだろう。

すれ違いざまにひとりの女性がサラダとサンドイッチを持って出て行く。シアトルでは手作りのサラダやサンドイッチが人気だったが、ここでも売れ筋は同じようだ。

店舗の広さはシアトルよりやや狭い。ミールキットは豊富にあるがシアトルにあったワインコーナーはない。エリア、顧客、店舗面積などを考慮した品ぞろえだ。チョコレートと水をリュックに入れて出ようと思うと、スタッフがカットフルーツを補充しだした。ランチタイムに向けて、サラダ、サンドイッチ、カットフルーツを並べているのだ。

メロンやグレープの入ったカットフルーツを手に取り、入口横にあるイートインコーナーに向かう。私が食べている間に、4人が出入りした。店を離れようとしたとき、入口に立つ笑顔を絶やさないスタッフは、アジア系の客にアプリのインストールの手順を説明しているところだった。

■30秒程度の滞在で「8〜10ドル」が使われていく

2019年2月12日火曜日、朝、昼、夜に10分間ずつ各店舗に滞在し、比較調査を行った。まず、サラリーマンやOLが歩く姿が目立ち始める7時30分にホテルを出て、調査を開始する。

アマゾンゴーには7時40分から滞在した。7時40分時点では、6人のお客さんとイートインでサンドイッチを食べる男性の合計7人がいた。10分間の入店数は5人と1組(※観光客らしき4人グループのため参考値)。10分間の退店数は7組だった。

ほとんどのお客さんはサンドイッチコーナーでサンドイッチを手に取り、半分がドリンクコーナーに向かい、残りの半分はサンドイッチの棚に多面展開されているドリンクを取った。

この「入口から入ってすぐのサンドイッチコーナーでドリンクも取り、30秒程度で退店するお客さん」の多さに驚いた。1人8〜10ドル程度の購買が次々と行われているのだ。

店内のスタッフの数は確認できただけで3人。入口でアプリ説明をするのだが、この時間に説明を受ける人はいなかったので笑顔を振りまいていた。女性7割、男性3割ほどの客層で当たり前のように買い物をしている。

■客の年齢層が高いセブン-イレブン

続いて、セブン-イレブンへ。こちらは7時55分から滞在した。7時55分時点では5人のお客さんがいた。そのうち1人が会計中で3人が並んでいる。10分間の入店は4人で退店が3人、10分後のレジの列は3人になっていた。

パン、ドーナツ、ホットミールのホットサンドとドリンクが多く買われていた。チョコバーを取った客がレジに並ぼうとすると、列が邪魔で来た通路を戻って回らなければならなくなっていた。1人当たり購買金額はおそらく7ドル程度だろう。確認できたスタッフは2人で、レジとレジ横のホットミールの間で忙しそうに働いていた。お客さんは女性2割:男性8割でアマゾンゴーより年齢層は高い。

朝に職場で朝食を済ませるニーズではアマゾンゴーが圧倒しているように思えた。オフィスワーカーが通勤時に朝食を買うニーズにおいて、アマゾンゴーで確実に早くおいしい物が買える体験をすると、レジに並ぶ事が嫌になるだろう。

一方で、セブン-イレブンの購買客のうち、2人がそのまま車に乗り込んだ。2人ともUberとLIFTのステッカーの貼ってある車のドライバーだった。アマゾンゴーは一本入った道の交差点にあるので車が停めにくいのか、袋に入った甘い菓子パンが食べたかったのかはわからないが、彼らにはセブン-イレブンのほうが便利なのだろう。

■レジ待ちが目立つセブン‐イレブン

昼の調査では、12時20分にアマゾンゴーに向かった。

12時20分時点での客数は12人。イートインコーナーでは、4人のお客さんが食事をしていた。10分間の入店は8人、退店は10人。入口はひっきりなしに人が通っていて、スタッフはずっとにこやかだ。サラダやサンドイッチ、フルーツ、ドリンクなど10〜15ドルぐらいの買い物が多そうだが、すぐに持参のエコバックに入れる人も多いので定かではない。スタッフは入口以外に3人で、1人はサラダやサンドイッチの補充、2人は棚の整理をしていた。女性と男性の比率は半々ぐらいだろう。

12時35分にはセブン-イレブンに行った。客数5人のうち、レジ待ち4人の状態だ。10分間の入店は3人で退店も3人だったが、10分後には5人全員がレジ待ちをしていた。通りからのぞき込んで入るのをためらったであろう人も数人見かけた。

平均10ドル前後の購買だろうか。スタッフは3人で2人がレジ、1人がホットミールコーナーにいた。女性2割、男性8割ぐらいだろう。時間的な差が出てしまったかと、急いでアマゾンゴーに戻ったが、アマゾンゴーにはまだ10人のお客さんと2人のイートインがおり、にぎわっていた。

ランチ時間は大きな差がついた。列があることにより入店をやめたであろうお客さんが多かったのか、セブン-イレブンの列は5人以上には伸びなかった、店の作りが日本と同じだったら10人ぐらいは並ぶはずだが、アマゾンゴーの購買体験を経験したあとは列に並ぶことは億劫だろうなと実感した。

■夕方はランチ時間ほどのにぎわいはなかった

オフィス帰りの人が道に増えだす夕方18時20分、再びアマゾンゴーに行く。入るなりスタッフから「また来たね、楽しんで」と声をかけられてしまった。この時点の客数は3人+イートインには1人と、ランチ時間のにぎわいはなくなっていた。10分間の入店は2人で退店が3人。ミールキットを選んでいる女性、シリアルなどの朝食系を見ている女性、ドリンクとチョコバーを購入した男性など、女性と男性が半々ぐらいの割合でいた。夕方のスーパー並みに多いかと思っていた私には少し拍子抜けであったが、ミールキットの在庫が補充されていたところを見ると、もう少し遅い時間に増えるのであろう。

セブン-イレブンは18時35分時点で客数が1人、10分間の入店が1人で退店が2人だったため、最後は私だけになってしまった。スナックと缶ビールを購入した男性と、炭酸ジュースを購入した男性がお客さんである。その場でひげそりとジュースを購入した私も顧客である。海外のホテルは大体ひげそりがない。やはりコンビニの品ぞろえは便利だと感じた。

■ひげそりもリップクリームもないけれど「快適」

サンフランシスコのアマゾンゴーにひげそりはない。モバイルバッテリーやリップクリームもない。品ぞろえで優先されるのは手軽でおいしい食事購買体験で、コンビニエンス(便利)というよりカンファタブル(快適)だ。にこやかに迎えられ、欲しいものを取って、ただ立ち去る。それは、レジに列を作って並ぶストレスからの解放なのだ。

それに加えて、アマゾンゴーのスタッフはまるでテーマパークのキャストのように、この体験をサポートしてくれる。

テクノロジーと人が作るこの体験こそが、アマゾンゴーが提供するものなのであろう。

私の調査から推計すると、来店人数の平均は30分で20人なので、1時間で40人となる。営業時間は14時間(7〜21時)なので、1日の客数は560人だ。これはアマゾンが計画する1日平均400〜700人に当てはまる。客単価が10ドルで、年間313日の営業(※毎週火曜休み)で175万ドルとなり1ドル110円とした場合約1億9000万円の売上だ。

日本のコンビニは5万6000店舗で約11兆円と1店舗当たり1億9600万円(JFA2018年統計)。売上的には同水準だが、アマゾンゴーは24時間営業でも無休でもない。また、アメリカのコンビニが1.5倍差をつけられている事から、日本をターゲットとした場合、日本のコンビニの1.5倍のパワーを持つ仕組みとなっているであろう。

■とことん「顧客体験」に寄り添うアマゾンゴー

アマゾンゴーがコンビニの1.5倍以上の売上を出せる理由は、利便性を追求するのではなく、とことん顧客体験に寄り添うことと、顧客体験データを活用した仕組みだ。サンドイッチコーナーに多面展開されているドリンクも、顧客の行動や購買の分析から選定されているのだろう。

テクノロジーと人によってデザインされた、ストレスなくおいしい食事を買う顧客体験の提供とともに、購買とカメラ等の行動データから、キッチンで作る在庫のコントロールや購買単価が上がり、滞在時間を短くするPDCA活動がされているのは間違いない。

アマゾンゴーが今後、飲食以外の品ぞろえをしてくるのであれば、コンビニは本格的に淘汰されるであろう。今回の調査では、それぐらいのパワーを感じた。

ただ、課題もいくつかある。商材を増やす事でアマゾンの求めるレベルの顧客体験価値が生まれるのか。テクノロジーと人のコストを上回る、単価、リピート率のアップができるのか。今後の展開では、そうした点に注目すべきだろう。

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伴 大二郎(ばん・だいじろう)
オプト エグゼクティブスペシャリスト パートナー兼OMOコンサルティング部 部長
小売業でID-POSデータのデータマイニングやCRM戦略を10年担当し、ロイヤルティプログラムの導入、POSの回収、DM、ECの改善、クレジットカード事業の立上げをした後にオプトに入社。企業のデータ分析から、ユーザー行動を軸にDMPやMAを活用したデータドリブンマーケティングの支援およびコンサルティングに従事。2019年4月より、エグゼクティブスペシャリストとして、リテールのデジタルシフトに注力。

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(オプト エグゼクティブスペシャリスト パートナー兼OMOコンサルティング部 部長 伴 大二郎 写真=iStock.com)