スシロー伊丹荒牧店ではレーン上での画像認識による「自動皿会計システム」を初めて導入した。食べ終わった後に会計ボタンを押せば、価格帯別に食べた皿数が表示される(記者撮影)

「AI(人工知能)やテクノロジーがどんどん進化している。回転ずしも次のフェーズに移っていく時期にきている」。兵庫県伊丹市のスシロー伊丹荒牧店のリニューアルオープンを前にして行われたメディア発表会の場で、スシローグローバルホールディングスの新居耕平・取締役執行役員はそう強調した。

JR福知山線の中山寺駅から徒歩20分、大きな幹線道路沿いにある伊丹荒牧店。6月26日にリニューアルオープンしたが、今回の改装の成否がスシローの行く末を大きく左右するかもしれない。

テクノロジーで客の「小さなストレス」を解消する

スシローは伊丹荒牧店を「次世代型スシロー店舗」と位置づけ、来店客の利便性向上と従業員の負担軽減という2つの課題解決に向け、さまざまな最新テクノロジーを詰め込んだ。

利便性向上という観点で、今回業界で初めて取り入れたのが「画像認識による自動皿会計システム」。回転レーン上にカメラを設置し、テーブルごとに自動で皿をカウントする仕組みだ。会計の待ち時間を短くするほか、店員による皿の数え間違いのトラブルを減らすことができる。

食事が終わると、受付時に渡されたQRコードをセルフレジにかざし、客自らが会計することができ、レジの待ち時間も短縮される。「小さなストレスを解消することで、お客様にスシローのよさをもっと理解してほしい」(新居氏)。


今回スシローで初めて導入された自動土産ロッカー(記者撮影)

持ち帰りをする場合には、スマートフォンと連動した自動土産ロッカーを利用する。スマホで注文し、その際に発行されるQRコードをかざすと、指定されたロッカーの扉が開き、注文した商品を受け取ることができる。来店前に支払いを済ませていれば、指定された時間に店舗に行って商品を受け取るだけだ。現在、国内スシローの店舗の売上高に占める持ち帰り比率は約10%に上る。

そしてもう1つの狙いである従業員の負担軽減という点においても、伊丹荒牧店ではさまざまな工夫が施されている。


「キッチン内オートウェイター」の導入で、自分の作業場から、注文を受けたテーブルに商品を流すことが可能になった(記者撮影)

最大の特徴が「キッチン内オートウェイター」という仕組みだ。これまでは注文された商品を調理した後、注文した席のレーンにそれぞれ移動して商品を流す必要があった。それが今回の改装店では、各スタッフが作業している目の前のレーンに流すだけで、注文を受けたテーブルに届くようになった(下図)。

「重点を置いたのはキッチン内における横移動を減らすこと。従業員の負荷が軽減されると同時に、注文してから提供するまでの時間短縮にもつながる」(同社情報システム室の杉原正人氏)


すしのうまさに直結する業務に集中

ほかにも、洗浄した皿を自動で仕分けする設備も入れた。スシローの場合、100円、150円、300円など複数の価格帯を提供することから、価格帯に応じて皿が異なる。これまでは洗浄した皿を人の手で仕分けしていたが、それを自動で仕分けることができるようになった。


持ち帰りずしを握って、自動で並べていくロボット(記者撮影)

さらに、すしロボットがしゃりを握るだけではなく、持ち帰り皿の上に自動で並べることができる機械も初めて導入した。店舗によっては外国人従業員が増加傾向にあり、持ち帰りずしの並べ方を教える教育コストの削減にもつながる。

「昨今、人手不足が深刻化している。店舗環境の整備を進めることで、(従業員は)まぐろの切りつけなど、すしのうまさに直結する業務に集中してもらう。それが結果として味の向上につながっていく」(新居氏)


洗浄した皿を自動で仕分けする設備(記者撮影)

こうした細かな積み重ねによって、スシローとしては1店舗当たり総労働時間を2〜3割短縮させたい考えだ。次世代店舗を今後どれだけ増やすかについても、「伊丹荒牧店の成果をみて判断していく」(新居氏)とし、改装の投資額も明らかにしなかった。

ただ、伊丹荒牧店に導入した新技術をそのまま広げていくということではなく、人員構成や集客力などによって、今回の仕組みを全面的に導入するか、部分的に導入するかを店舗ごとに判断していくという。

「回転レーンをなくす選択肢はなかった」

目下、回転ずし業界ではあえて回転レーンを廃し、特急レーンのみで商品を提供するフルオーダー店が増えつつある。常に商品を回転レーン上に流す必要がないので食材ロスの削減につながるほか、オーダーを受けた商品のみの提供に専念できることから、従業員の負担軽減にもつながる。

今回の伊丹荒牧店には導入されなかったものの、競合のかっぱ寿司は前2019年3月期末時点で全店舗の10%にあたる33店をフルオーダー店に転換。2022年3月期までに全店の約半数にあたる158店にまでフルオーダー店を増やす目標を掲げる。

くしくも6月18日にスシローとの経営統合を断念した元気寿司も、この数年、フルオーダー店への転換を推進したことで、2019年3月期末時点で国内154店のうち、約8割が“回転しないすし店”となっている。食材ロスを削減したことで、2019年3月期の営業利益は23億円と、この5年で約2.2倍も増加している。


スシローグローバルホールディングスの新居耕平・取締役執行役員は「うまさへの妥協をせず、味の向上を図っていく」と述べた(記者撮影)

スシローは今回の次世代店舗を模索する中で、回転レーンのない店舗展開を検討しなかったのか。この点について新居氏は「スシローは商品を選ぶ楽しさを重要視しており、お客様に喜んでいただけるという点では回転レーンで勝負していきたいと考えてきた。そのような点を踏まえ、(次世代店舗の形を考えるうえで)回転レーンをなくすという選択肢はなかった」と話した。

スシローの伊丹荒牧店の取り組みで、どのような効果が見えてくるのか。その結果によっては、これからの回転ずし業界における店舗のあり方や働き方が大きく変わるかもしれない。