Photo: 小原啓樹

無限のエネルギーは身近なところに。

あぁ、人の世に悩みは尽きまじ。文明が発達し、魅力的なガジェットがあふれ、今ぼくたちはもっとも平和な時代を過ごしています。「いつだって今が一番恵まれてる」なんて言葉もどこかで聞いたっけ。

そんな時代の最先端をゆく僕らを悩ませるものがあるとすれば。そう…。

充 電

です。いかに優れた技術、科学、ガジェットがあろうとも、動かなければ意味がない。スマホやPCだって、バッテリーを充電しなければただの板なのです。いうなれば、現代はもっとも充電が求められている時代とも言えなくはないッ。

ところが、時計でおなじみのシチズンは40年も前からこの充電問題を克服していて、太陽光で動く腕時計を開発し続けているんです。その核となる技術の名前は、「エコ・ドライブ」。

今ではATTESA(アテッサ)シリーズなどシチズンの多くの腕時計に使われている技術なのですが、よくよく考えてみればすんごい技術なのでは?ということで、 シチズン時計株式会社の杵鞭朋敬(きねむち ともひろ)さんに、いかにしてエコ・ドライブが充電を気にしなくていい腕時計を実現しているのか、聞いてきました。

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商品開発部 第一商品企画課の杵鞭朋敬さん。

もはや半永久機関? エコ・ドライブ技術の魅力

──早速ですが、エコ・ドライブの仕組みを教えてください。

光が文字板に当たると自動で充電する、いわゆる光発電がエコ・ドライブの根幹です。文字板の下にソーラーセル(太陽電池)が仕込まれていて、太陽光や室内の光を電気に変えて省電力な時計を動かし、余った電気をバッテリーに蓄えています。生活に溢れている光をエネルギー源としているので、定期的な電池交換はいらず、たびたび充電しなくても安心して腕時計が使い続けられる仕組みです。

Image: シチズン時計株式会社

──なるほど!というか、最新のソーラーセルだと室内の明かりでも発電できるんですね。

はい。蛍光灯の光は夏の日の直射日光と比べて約3%くらいの弱さで、満充電するにはちょっと不足するのですが、それでも充電しながら駆動し続けることは可能です。

──通常に動く状態を1日保つには、どれくらい光に充てればいいですか?

モデル次第でソーラーセルの面積が変わり発電量も変わってきますので、そこはモデルによりけりです。今回の限定モデルだと、通常に動く状態を1日保つためには晴天で4分、もしくは30W蛍光灯のすぐ下で1.5時間ほど光に当てれば十分かと思います。

──たとえばの話、なにかしらの理由で光が一切ない場所で過ごさなければならない、となった場合、どれくらい使い続けられますか?

駆動部分がとても省電力なので、ATTESAに搭載されたバッテリーがフル充電状態なら、暗闇の中でも約1年6カ月は駆動できますよ。

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搭載バッテリーを取り除いたムーブメント部分。写真中央の左、オレンジのコイルは運針用の駆動コイルです。

──エコ・ドライブの驚異的な省電力はどのように実現しているのでしょうか?

具体的な内容は企業秘密ですが、社内に技術チームがあって、常に回路システムや構造を改良しています。ちなみに、電池が少なくなると省エネモードになって、秒針が2秒ずつ動くようになったり(充電警告表示機能)、光が当たらない状態が続くと針を止めたりして長時間駆動を可能にしています(パワーセーブ機能)。たまに故障かなと思われるお客様もいらっしゃいますが、光を当てて充電をしてあげれば正常な状態に戻りますよ。

──秒針が2秒ずつ動くなんて、初めて知りました!

よく腕時計を化粧箱に入れて保管される方がいると思うのですが、エコ・ドライブの時計は箱に入れていると充電されなくなってしまいます。なので日向ぼっこのように、使わないときでも日差しのあるところに置いていただくと、しっかり充電できると思います。相棒のように、常に側に置いておく感じでしょうか。

40年かけて磨き上げられてきた技術のこれまでとこれから

──シチズンがエコ・ドライブの開発を始めたキッカケを教えてください。

1973年に第一次オイルショックがあり、新しいエネルギー源の開発は社会的にも大きなテーマになりました。当時のシチズンもこの課題に向き合い、従来の電池ではなく違うエネルギーで腕時計を動かせないかということで、太陽光で動く「光発電時計」の開発をスタートさせました。電池は廃棄するとゴミになってしまいますが、ソーラーセルは繰り返し使えるので、環境配慮という部分でもエコといえますね。

──エコ・ドライブにはエコロジーの意味が込められているのでしょうか?

そうですね。シチズンは環境配慮にはけっこう厳しくて、社内のゴミ分別ひとつとってもかなりシビアです(笑)。

──初期のエコ・ドライブと比べて、最新モデルはどのように進化しましたか?

1976年に発売した「クリストロン ソーラーセル」と比べると、最新のエコ・ドライブは10分の1の電力で駆動可能です。代表的なスマートウォッチと比べると、エコ・ドライブはだいたい9万分の1の電力で駆動していますね。あとデザイン性も大きく変わりました。最新のものはデザインが豊富ですが、初期のころはソーラーセルや駆動パーツの性能に合わせて、ソーラーセルがむき出しのものもありました。

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1976年発売の「クリストロン ソーラーセル」モデル。今見るとこれもかっこいい。

──本当だ、ソーラーセルが全面に見えますね。

当時のソーラーセルは厚みがあって割れやすく、腕時計のような小さなものに組み込むことはとても困難でした。プロトタイプや試作品レベルだと、時計の外側にソーラーセルを取り付けるというアイデアもありましたね。 試行錯誤を経て、世界初のアナログ式光発電時計「クリストロン ソーラーセル」を開発し、そこから進化してきました。

──どのようにしてソーラーセルが隠せるようになったのでしょうか?

文字板の光透過率がキーワードになります。ソーラーセルを文字板の下に隠すには文字板を通してソーラーセルまで光を通す必要がありますが、昔のエコ・ドライブは消費電力が高かったため、文字板の光透過率を高くしてたくさん発電させる必要がありました 。いまでは省電力化が進み、光透過率を引き下げることができるようになり、デザインの自由度は大きく向上しています。

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左にあるのは1976年発売の「クリストロン ソーラーセル」モデル。中央のモデルは1995年発売の「ATTESA ソーラーパワー」で、文字板の後ろに薄っすらソーラーセルが透けて見えます。一番右が2019年発売の「MOON GOLD」限定モデル。近づいてもソーラーセルは見えませんでした。

──デザインの自由度というと、ATTESAは世代を超えるごとにどんどんカッコよく高機能になってきたように感じます。

そういった進化もありますね。ソーラーセルの発電量はセルの面積だけでなく、文字板の上に乗る装飾部品によっても変化するのですが、最近のモデルは省電力化も進んでいるので、部品の配置も自由になりました。あと、自動で時刻を合わせてくれる電波時計という技術はアンテナを内蔵することによって実現しているのですが、初期の頃は大きくて文字板の上に露出していたのが、どんどん小さくなってボディ内に搭載可能になりました。

──エコ・ドライブは今後どういった性能を目指して開発されるのでしょうか?

シチズンはこれまで独自の低消費電力化技術によって薄型、小型、高級感、多機能など、多彩なラインナップをエコ・ドライブで展開してきました。今後もこの低消費電力化技術をベースに、定期的な電池交換不要で長く使える、より機能的で美しい腕時計を提供していきたいと考えています。

最新の限定モデルを見せてもらった!

Photo: 小原啓樹

──長く使える腕時計というと、最新のMOON GOLD限定モデルは素材やデザインの面でも長く使えるようになっているのでしょうか?

すべてのATTESAモデルは素材にチタニウムを使っています。シチズンはこのチタニウムに50年前から注目しているのですが、丈夫で軽い一方、柔らかく傷が付きやすいチタニウムはとても加工が難しい素材で、実は今回の限定モデルを作り出すにはとても苦労しました。

──苦労を経て、どのような素材に仕上がりましたか?

シチズンには表面処理の技術があり、チタニウムそのものを加工して進化させています。20年前に開発した「デュラテクトMRK」という表面硬化技術では、チタニウムの中に特殊なガスを浸透させることで、チタニウムの表面自体を硬くして打痕などのキズに強く加工しています。次に「DLCコーティング」と呼ばれる多くのメーカーが採用している技術があるのですが、このDLCで表面に引っ掻き傷に強いコーティングをすると同時に、発色を施します。MRKとDLCをパーツによって使い分けながら頑丈さと美しい色を実現しています。

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──なるほど、ただ塗装しているだけではないのですね。

たとえるなら、デュラテクトMRKでムキムキになったチタニウムが、DLCコーティングという鎧を着込んだような感じです(笑)。塗装しただけの時計とは、3年後あるいは5年後の色の美しさが全然違ってきます。デュラテクトMRKありとなしの時計を社内の人間がプライベートで約9年使って傷のつき具合を実験したものがあるのですが、やはり表面の痛み具合が違っていますね。

──ムキムキ腕時計なのですね!

そのムキムキにするデュラテクトMRK技術なんですが、今回初めて違うガスを加えることで、金色を出すことができたのが、このMOON GOLDモデルです。これも非常に難易度が高くてですね…。

困難の末に生まれた金色のチタニウム

──チタニウムは元々グレーですものね。デュラテクトMRKでチタニウムを金色に変えるのはどれくらい難しいことなんですか?

この金色は塗って表現しているものではなく、 特殊なガスをチタニウム表面の原子に浸透させ、その反応をコントロールすることによってチタニウムそのものが発色しています 。このコントロールは非常に困難ですが、モデルによって差が出ないようにして生産をしています。

──つまり、色素や顔料を使った色料による発色ではないということですか?

その通りです。ガスによってチタニウムの原子がガスと反応し化学変化を起こすことで、チタニウム自体が発色しています 。塗っているのではなく素材そのものの色を変えているという点が、他社さんにはあまりないところかなと。

──ふむふむ…。ちなみに色のコントロールってできるんでしょうか? たとえばチタニウムを赤や青にしてみたりとか。

やろうと思えばできるかもしれません。ただなかでも金色はとっても難しい部類で、表面をコーティングするイオンプレーティングというメッキ付け技術があるのですが、それと違いガスで表面から浸透させているので色ムラがとんでもなく出てきます。ピザを焼く窯でたとえるなら、ピザの真中部分と端っこ部分で焼き加減が違うとか、それくらいの差で大きなムラが出てしまいます。MOON GOLDのバンドもこの焼き加減を均一にするのが大変難しいのですが、それをコントロールし、同じ色味になるよう処理しています。

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──なるほど。MOON GOLDの金色が、いかにスゴくて大変なものなのかがよくわかりました!

ありがとうございます。ちなみにMOON GOLDのデザインは月の陰影をテーマにしていて、黒基調(CC4004-66E)と金基調(CC4004-66P)のモデルをそれぞれ1,000本・700本限定で生産しています。そして文字板には採掘されたチタニウムから不純物を取り除いた状態の「スポンジチタン」をイメージしたテクスチャを配置しています。角度によって見え方が変わるので、目でも楽しんでもらえるかと。

──最後に、この新しい金色に関してどういったフィードバックが届いていますか?

色々な方からいただいているのですが、なかでも時計店さんがこの金色に特に驚かれたという話をうかがっています。メッキで作られた金色は、金色の成分に金やニッケルなどの金属が含まれているので、金属アレルギーを引き起こすことがあります。でも、チタニウムは金属アレルギーを起こしにくい素材で、かつMOON GOLDの金は構造色なので、金色なのに耐メタルアレルギーとなっています。「金色なのに耐メタルアレルギーなのはすごいね」と、批評家の方に言っていただいたこともあります。

月に思い馳せる、チタニウムの輝き

デュラテクトMRKによるムキムキボディ、DLCコーティングによる鎧、そしてソーラーセルやGPS衛星電波時計といった優秀な頭脳。シチズンのATTESAは、なんだかスーパーマンみたいな腕時計ですね。ガジェット的にも面白さが詰まってたんだと感じました。唯一無二の金色には、そんなストーリーがあったのかぁ。

Photo: 小原啓樹

というわけで、実際に腕に巻いてみました。やはりチタニウムだけあって軽い。ガラスに施された「99% クラリティー・コーティング」のおかげで、反射光が抑えられて文字板が見やすいです。「スポンジチタン」をイメージしたという文字板のザラっと感がとてもクールなのですが、見えますかね、どうですかね。

アポロ11号計画が進行していた1960年代、アメリカやソ連はロケット制作のために軽くて丈夫な素材を探していました。そこで注目されたのが数百年前から発見だけはされていた謎金属、チタニウム。シチズンもこれに注目してチタニウム製の腕時計を開発するにいたったのですが、あれから50年。チタニウムをまとった月色の腕時計が、MOON GOLDという名前で生まれるなんて、ロマンがあるじゃあないですか。しかもエネルギーは太陽っていうね!

今回のMOON GOLDは限定モデルですが、同キャリバーの「エコ・ドライブGPS衛星電波時計 F950」にはシルバーやグレーのカラーバリエーションもあります。中にはブルーの文字板を採用したモデルも!

軽くて頑丈なチタニウム製に、半永久的な発電力。「充電を気にしなくていい」という、ある意味で最強なガジェットをお求めなら、ATTESA MOON GOLD限定モデルは、魅力的な選択肢では?

Source: シチズン時計株式会社